文化
アドラー心理学を正しく理解する2つの方法
哲学者・日本アドラー心理学会顧問 岸見一郎
「自分を変える勇気」をくれるとして一種のブームになりながら、誤解や曲解も多い「アドラー心理学」。なかにはアドラーのメッセージを悪用する手合いもいて、事は複雑だ。どうやったら、アドラー心理学を正しく理解して、これからの人生に役立てることができるのか。このコーナーに「 誤解だらけのアドラー心理学 」と題した原稿を寄せてくれた岸見氏に改めて、「アドラー心理学を正しく理解する2つの方法」を書いてもらった。
無理解と誤解
この「深読みチャンネル」の中で、アドラー心理学は誤解を受けやすいということ、その典型的な誤解パターンについて紹介したところ、おかげさまで大きな反響をいただくことができました。
アドラーの講演を聞いた人が、アドラーが語ったことはすべてコモンセンス、つまり「常識」であり、何も新しいことはなかったと評したという話が伝えられていますが、私がいま講演する際にも同じような反応があります。
言葉の難しさがないことがおそらくコモンセンスだと評される大きな理由だと私は考えていますが、コモンセンスだという人はアドラーの新しさに気づかず、従前の考えに引きつけて解釈し、そのため誤解することになります。
他方、まったくアドラーの考えを受け入れない人もいます。そのような人はどんなことでも批判材料にします。前回見たように、理想論であって現実的でないことを批判材料にしたいのであれば、いくらでもあら探しができます。
さらに、本来アドラー心理学は「自分を変える心理学」であるにもかかわらず、他者を操作するためにアドラー心理学を使おうとする人がいます。
例えば、キーワードの一つ「貢献感」は、それを持てば自分に価値があると感じられ、自分に価値があると感じられれば、課題に取り組む勇気を持つことができます。ただし、この貢献感はあくまでも自分が持つのであり、他者に対して貢献感を持つことを強制することはできません。
ところが、職場での対人関係についていえば、部下に対して仕事に意欲的に取り組む気持ちにさせるために、巧みに仕組んで貢献感を持たせようとするケースがあります。また上司の中には、貢献感は本来、自分で持つものであるという真理を悪用する人もいます。そういう上司は「たとえ会社から認められることがなくても、自分で貢献感を持つことが大切だ」と言い、貢献感を持つことを組織への忠誠の証しにします。
2016年07月22日 05時20分
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