8月4日に決勝が行われた第40回日本クラブユース選手権で大会得点王になったのは中学3年生の久保建英選手(FC東京、5ゴール)だった。クラブユースは18歳以下の選手が対象だから、まさに“飛び級”での活躍。どうしたらこういう選手をもっと輩出できるのか。人を育てることの大切さと難しさに真剣に向き合わなければ、日本サッカーに未来はないだろう。
■ゴール取る才能持つ久保、着実に成長
久保選手は今月、インドで行われるU―16(16歳以下)アジア選手権の日本代表にも選ばれた。FCバルセロナの下部組織で育ちながら、海外移籍の低年齢化を憂えた国際サッカー連盟(FIFA)の規則変更により、日本に戻ってプレーすることを余儀なくされた。せっかくの好環境から切り離され、彼の行く末を案じた時期もあったが、FC東京で着実に成長しているのを見て、うれしくなった。
サッカーというゲームは究極、ゴールを取ること、取られないことが大事。久保選手は前者のゴールを取ることに関して素晴らしい才能を持っている。といっても生粋のストライカータイプではない。元日本代表監督の岡田武史さんが1998年のワールドカップ(W杯)フランス大会の監督を務めたとき、当時18歳の小野伸二(現札幌)を本大会に連れて行った。1次リーグ3戦目のジャマイカ戦で出場まで果たした小野は翌年、U-20W杯ナイジェリア大会に準優勝するチームの大黒柱になってくれた。大人のW杯を経験していたせいか、もう余裕が全然違ったのだ。当時のフィリップ・トルシエ監督もアシスタントコーチだった私も、落ち着き払った小野をどれほど頼りにしたかわからない。
今の久保選手を見ていると、あの頃の小野を思い出してしまう。バルサで鍛えられたおかげで日本の選手が間合いを必死に詰めてもたいしたことはないと感じられる。守る側は1人でボールが取れないと分かると、2人、3人と数を増やしていくが、久保選手にはそれを逆に「チャンスだ」と思えるくらいの余裕がある。それだけ自分がマーカーを引きつければ、フリーになっている味方は確実にいるからそこにパスを出せばいい。自力でその包囲をくぐり抜けると、もっとビッグチャンスになるからドリブルで仕掛けてみようか。そういうプレーの選択を自然体で楽しむような雰囲気さえある。ゴール前での決定力が高いのもシュート選びに落ち着きがあるからだろう。
そんな久保選手を、育成年代のコーチをしている同業者と見ていると「やっぱりボールを完璧に止めて、蹴ることができるのは大切ですよね」と感想を述べてきた。私の感想はちょっと違った。
「ボールを止めて蹴る、のレベルが違う。高い技術を土台にして、周りを見る、判断する、の質を追求する段階にすでにいる。見る相手は味方だけではなく、相手チームのこともしっかり見ている。対戦相手が何をしようとしているか、相手の監督の指示までキャッチして見抜く材料にしているように見える」