ロボット兵器が戦争を変える
無人機が支える アメリカの軍事作戦
毎年アメリカで開かれる、世界最大規模の無人機の展示会です。
今年(2013年)は過去最多のおよそ600の企業や研究機関が参加。
会場には、日本をはじめ各国の軍事関係者が視察に訪れていました。
開発メーカー責任者
「無人機のメーカーは増える一方です。
どこも世界市場を狙っていますよ。」
無人機が本格的に戦場に登場したのは、アメリカのテロとの戦いがきっかけでした。
テロリストが潜伏しているとされる地域の上空を飛行し、ミサイルで攻撃します。
地上部隊を送り込むことが困難なパキスタンなどでも、無人機なら攻撃ができます。
その操作が行われているのは、戦場からはるか1万キロ以上離れたアメリカ本土の基地です。
衛星通信で無人機の飛行や攻撃について指示を出しています。
兵士たちは、モニター画面越しに遠隔操作するだけです。
兵士の命が危険にさらされることはありません。
アメリカ軍の元高官は、無人機なしの作戦は今や考えられないといいます。
元アメリカ空軍 中将 デビッド・デブトゥラさん
「無人機ならば標的を何時間もかけて偵察でき、攻撃の直前まで監視できます。
無人機を使えばさまざまな場面で大きな利点が得られるのです。」
軍事機密とされる無人機の運用。
その実態を知る人物に取材ができました。
アメリカ空軍で無人機を操縦していた、ブランドン・ブライアントさんです。
ブライアントさんは2006年から5年間、アメリカ本土で生活しながら基地に出勤し、アフガニスタンなどでの攻撃に従事していました。
元アメリカ空軍 兵士 ブランドン・ブライアントさん
「奇妙な生活でした。
12時間、いわば戦場にいて、そのあと街に出て、ハンバーガーを食べたり恋人に会ったり、パーティーに行ったりするんですから。」
無人機攻撃 民間人が巻き添えに
パキスタン北西部の上空を飛ぶ無人機の映像です。
昼夜を問わず姿を現し、突然攻撃してきます。
国連の調査では、パキスタンだけで2004年以降、少なくとも400人以上の民間人が犠牲になったとしています。
増え続ける民間人の犠牲に、パキスタンでは怒りの声が高まっています。
「アメリカは許さない!
無人機攻撃は許せない!」
パキスタン北西部で小学校の教師を務めるラフィークウル・レヘマーンさん。
去年(2012年)10月、自宅近くの畑で母親が無人機の攻撃を受けました。
ラフィークウル・レヘマーンさん
「母は、子どもたちと畑に出て野菜を収穫していました。
その時突然アメリカの無人機が攻撃してきて、母の体は吹き飛びました。」
レヘマーンさんの息子や娘も近くにいて、大けがを負いました。
娘 ナビーラさん
「無人機の音がすると、怖くて何もできないわ。
遊びにも行けないし、いつもビクビクしているの。」
レヘマーンさんは、母親がテロリストだと間違われるような理由は全く思い当たらないといいます。
ラフィークウル・レヘマーンさん
「女性や子どもがテロに関わっているわけがないじゃないか。
アメリカのやっていることは、ただの冷酷な殺人行為です。
こんなひどいこと、許せません。」
アメリカでも高まる 無人機への批判
無人機による攻撃への批判の声は、アメリカでも高まっています。
先月(8月)首都ワシントンで行われた、アメリカ陸軍高官の講演会。
無人機の重要性を訴えていたところ、突然。
女性が叫び始めました。
「無人機が子どもたちを殺しているのよ!
何千人もの血が流れてるわ!」
テロとの戦いの陰で増え続ける市民の犠牲。
無人機攻撃の是非が問われ始めているのです。
無人機の操縦に携わっていたブライアントさんには、今も脳裏から離れない任務があるといいます。
ある日、3人の標的が建物に入ったのを確認してミサイルを発射。
しかし、その直後建物に向かって走る小さな人影が見えました。
元アメリカ空軍 兵士 ブランドン・ブライアントさん
「男の子か女の子か、分かりませんでした。
でも上官からは犬だと言われました。
胸がむかむかして、気分が悪くなりました。
心が傷つきました。
犬だなんて、うそだったんです。」
その後、軍を除隊したブライアントさん。
上官からは、5年間の任務で殺した人の数は1,600人を超えたと告げられました。
元アメリカ空軍 兵士 ブランドン・ブライアントさん
「無人機の操縦者はすべてを目撃しますが、爆発音を聞くこともなく、興奮することもありません。
聞こえるのはコンピューターの音と、同僚の息遣いだけです。
無人機での攻撃を繰り返すうち、私は無感覚になっていました。」
民間人を巻き込む 無人機攻撃
●誤爆が相次ぐ背景をどう見るか?
最初のターゲットはテロリストの幹部ですね。
ブラックリストに載った、素性の分かった人をターゲットにしてたわけですね。
でもそれだけでは対テロ戦争は終わらないわけで、中間から末端のテロリストを攻撃せざるをえない。
その場合には、標的が誰かということよりも、テロリストが取るであろう行動・ふるまいをしていれば、テロリストだという推定をするわけですね。
ですから、道路に穴を掘ってたら、それは恐らく路肩爆弾を設置しているだろうと、それは水道工事であっても、そういった見なしをされるわけですね。
先ほどのVTRにもあったように、女性の方がしていた畑仕事っていうのは、恐らく道路沿いの畑仕事をしていたのを、路肩爆弾を設置しているのではないかとアメリカが錯覚したんじゃないでしょうか。
また、20代から40代の男性が跳躍運動をしてる。
それを無人機から見れば、これはテロリストのキャンプ場ではないか、訓練キャンプではないか。
また普通の部族の集会であっても、2~3人、4~5人集まれば、それはテロリストが集会してるんではないかと見られてしまって、誤爆が生じてしまうっていうことになったんではないかと思います。
●指揮していた兵士は無感覚になっていったと言っていたが?
一番の問題は、VTRにもありましたように、ゲーム感覚なわけですよね。
1万キロ離れているということは、戦場での痛みとか、声とか、臭いとか、爆弾の音も聞こえないわけですよね。
無感覚になってしまう。
距離が離れれば離れるほど、スクリーンに映ったものを標的として攻撃するということはゲームになってしまうので、それは攻撃する側にとっては人命が尊重されるんですけれども、非攻撃側にとっては人命軽視という、これは人命の格差が生じてしまうっていうことになっていると思います。
●無人機での攻撃は欠かせないとアメリカは言っているが?
そうですね。
テロリストは住民の中に潜んでおりますから、それに対して通常爆弾では被害が大きすぎる。
それに対して無人機の場合にはピンポイントで攻撃できるので、対テロ戦争には無人攻撃機というのは、欠かせない存在になっていますね。
ただ先ほども申しましたように、民間人に対する殺害が発生しているので、オバマ大統領も今年の5月に、無人機使用の厳格化というのを言わざるをえない状態になってますね。
ですから文民が1人でも殺傷されるような場合には、無人攻撃を停止するというふうに言っています。
またアメリカっていうのは、今まで無人攻撃に対する標的は誰なのか、どういう基準で選んだのか、そういったものが非公開なわけですよね。
秘密主義であったということで、情報公開しろという意見が多いわけです。
そこでオバマ大統領は、秘密主義のCIAから、説明責任を言わざるをえない国防省に、無人機の運用を移管すると言いました。
今後、アメリカがどのように運用していくのかということを、われわれは見届ける必要があると思います。
戦場で自ら判断 “自律型”ロボット兵器
アメリカの軍事企業が開発を進める、最新の自律型無人機「X-47B」です。
人の遠隔操作ではなく、コンピューターで自動制御されています。
今年7月、このX-47Bが、ロボット兵器の歴史に新たな1ページを加えました。
熟練したパイロットでさえも極めて難しいといわれる、空母への着艦に成功したのです。
移動する空母の位置、風の抵抗、機体の揺れ具合など、さまざまなデータを正確に処理。
空母のセンターラインぴったりに車輪を載せる完璧な着艦は、軍関係者に衝撃を与えました。
人間を上回るほどの高度な自律性を証明したのです。
将来的には、複数の機体どうしがみずから情報を交換し、連携して偵察や攻撃の任務を行うことが想定されています。
戦場で使われるロボットは、さまざまな種類が開発されています。
この馬型ロボットは物資の運搬用。
兵士の後をついて、4本の足を駆使してどんな悪路でも進むことができます。
こちらは、ハチドリを見本にして作られた小型の偵察ロボットです。
カメラを搭載して、建物の内部を偵察することもできます。
敵のアジトに忍び込み標的を発見する、昆虫型ロボットの開発も計画されています。
未来の戦争に向けて、ロボットの自律性を高める研究が進んでいます。
専門家は、自律型ロボット兵器は戦争の在り方を大きく変えるといいます。
ブルッキングズ研究所 上級研究員 P・W・シンガーさん
「人の役割は物理的にも時間的にも、戦場から遠く離れたものになってきています。
つまり、戦闘が行われているさなかの決定ではなく、あらかじめプログラムされた命令が戦争を左右することになるのです。」
自律型ロボット兵器の実用化にいち早く動いているのが、中東のイスラエルです。
イスラエル軍の無人車両が、緊張状態の続くパレスチナのガザ地区との境界やエジプトとの国境線などのパトロールに導入されています。
軍需企業との交渉の末、この無人車両の撮影が認められました。
これが現在、イスラエル軍が使っている無人車両です。
運転手はいません。
あらかじめ設定されたルートをパトロールすることができます。
この会社では、さらに高度な人工知能を車に搭載。
どのルートをどう走るのかも、自分で判断する無人車両を開発しています。
走行しながら新型レーザーが360度回転し周囲を認識。
即座に、高さによって色分けされた地図が作成されます。
平坦であることを示す黄色と黄緑の部分を選んで、車両が自動で進んでいきます。
ロボット
「両手を上げて出てきなさい。」
開発責任者は、この技術を発展させれば遠隔操作に頼らず、ロボットが自動的に人間を攻撃することもできるといいます。
「プログラム次第で攻撃も可能ですか?」
開発責任者 ダニー・グールさん
「技術的には可能です。
依頼主が何を望むか次第です。
私たちとしてはどんなことでもできます。」
人の判断なしに攻撃 “殺人ロボット”の懸念
人の命を奪うかどうかの判断をロボットに任せてよいのか。
今年5月、国連の専門家は、人間の判断なしに攻撃を行うロボット兵器の開発は、凍結すべきだとする提言を出しました。
ロボット
「“殺人ロボット”を禁止しましょう。」
さらに、世界中にネットワークを持つ人権団体は、ロボットの軍事利用に歯止めをかけるための国際条約の制定を呼びかけています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 局長
スティーブ・グースさん
「殺人ロボットが世界に拡散し、独裁者が手に入れたら、どんなふうにプログラムを書き換えるか分かりません。
非常に恐ろしい未来像です。
人による判断なしで攻撃する兵器が出来上がる前に、今こそ一線を引かなければいけません。」
ロボット兵器開発 歯止めは?
●人の判断を介さないロボット兵器開発の凍結について
ロボット技術は、民生用も軍用もデュアルユースですから、止められないわけですよね。
今の完全自律型ロボットというのはまだ出来ていない段階で、あと2~30年先っていわれてます。
この時期に国際法に従って、完全自律型ロボットが国際法上、合法かどうか、例えば軍事目標を限定できるのか、軍事メリットと付随的な損害、比較考量できるのか、軍事目標を確定できるのか、そういったいろんな国際法のルールがあるんですけれども、それに合致しているかどうかをまず検討すべきだと思いますね。
もし自律型ロボットが合法だとしても、使用制限、例えば人口が密集している所には使ってはだめだとか、対物使用はいいけれども、対人使用はだめだとか、さまざまな規制方法が可能だと思いますね。
ですから今存在しないこの段階に、国際法上のルール作り、元の兵器自体が合法かどうか、それと合法としても、使用制限ができるかどうかを検討すべきだと思いますね。
●ロボット兵器の最大の問題は?
ロボットが人間の生死を決定する権限を持っていいのか。
ロボットが人間を殺すかどうかを決めるというのは、これは倫理問題として許されるのかっていうことがあって、やはり最終的には人間が最終的な決心をすべきであるということですね。
ですから自律的にロボットが人間に対して殺傷するということは、やっぱりあってはならない。
倫理問題が重要だと思いますね。
●自律的なロボット兵器の開発、戦争をどう変えるか?
これからロボットが戦場になくなることはなくて、増加することはあると思うんですね。
路肩爆弾を無力化するロボットも今、実用化されてますし。
そういう意味ではロボットというのは、火薬、核兵器に次ぐ第3の軍事革命といわれてて、これは避けられないところまできております。
だからこそ今のうちにコントロール、人間の意思を介在させるロボットにさせるかどうかっていうことを、議論すべき。
NGOもそういった議論を始めてますから、今の間に議論する必要はあると思います。
●戦争のハードルが低くなったり、長引いたりするおそれが?
そうですね。
ロボットですから、どうしても敵対行為しやすくなる、戦争が日常化してしまうという意味では、不健全な社会を招きかねないですね。
戦争が日常生活の中に入ってくるということですから、これは避けるべきです。