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ホンダ、儲からない「NSX」を復活させる理由

東洋経済オンライン 9月12日(月)8時0分配信

 ホンダが約10年ぶりにスーパースポーツカー「NSX」を復活させる。

 NSXは「誰でもスムーズに操縦できるスポーツカー」をコンセプトに開発された車だ。1990年の発売以来人気を博し、国内累計販売台数7400台のうち8割が残存。根強いファンを抱える。

【写真】 新型NSXのリアデザインはこうなっている

 2017年2月に発売する新型NSXは初代をはるかに上回る超高級モデル。エンジンと三つのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムで、高効率・高出力な走りを実現させた。価格は初代の3倍となる2370万円。寺谷公良日本本部長は「初代はサラリーマンも無理をすれば買えたが、新型は限られた富裕層しか手が出せない」と語る。

■NSXはほとんど儲からない? 

 生産は米国の専用工場で行う。溶接は8台の溶接ロボットに任せるものの、熟練工の手作業による工程が大半を占める。塗装だけでも4日間、組み立ては1日半かけて手作業で行う。そのため1日の生産台数は8~10台だ。

 生産能力が限られていることもあり、初年度の販売計画は北米で800台、日本で100台にとどまる。発売後3年間での世界販売の目安も6000台とごくわずか。この規模では設備投資や莫大な開発費の回収は見込めない。実際、八郷隆弘社長も「収益面は苦しい」と明かす。

 それでは、採算性を度外視してまで復活させる狙いは何か。一つは開発陣のモチベーションを高めることだ。

 先代のNSXが生産を終了したのは2005年12月。販売低迷に追い打ちをかけたのが環境規制の強化である。開発を継続しても、投資を回収できる見込みは薄いため、ホンダは生産を断念した。

開発陣の挑戦の場が失われた

 その後、2008年のリーマンショックで業績は急悪化、2009年にはF1からも撤退する。さらに2011年の東日本大震災、タイ大洪水と試練は続いた。開発陣の士気を高めるプロジェクトは影を潜めた。

 業績回復の兆しが見えた2012年、ホンダは「2016年度に世界販売600万台以上を目指す」と宣言。重点市場の北米だけでなく、急成長する新興国に合わせた、生活の足となる車の開発に注力した。

 だが、軽トラックとスポーツカーから4輪事業が始まったホンダにとって、こうした車は復活の象徴とはなりえなかった。このままでは開発陣の挑戦の場が失われてしまう。危機感を抱いた伊東孝紳前社長はスポーツカーの開発再開を決断したのだった。

■販売台数や収益では評価できない? 

 華々しい復活を遂げたNSXだが、課題も多い。本田技術研究所の和田範秋主任研究員は「(フレームに採用した鋳造部品など)研究所で成熟してきた最高峰の技術が世に出せる」と誇るが、NSXで実用化された技術は高コスト。価格の制約がある量販車への応用は現実的ではない。

 販売面でもホンダはNSXによってブランド全体が向上することを狙っている。が、北米や中国を中心に展開する高級ブランド「アキュラ」の育成ならまだしも、フィットや軽自動車といった普段使いの車種の販売に、どれだけ貢献できるかは未知数だ。

 新型NSXは販売台数や収益性では評価できない難しさがある。プロジェクトの成果を判断するには、しばらく時間がかかりそうだ。

宮本 夏実

最終更新:9月12日(月)10時40分

東洋経済オンライン