小池百合子都知事、突然「都庁全職員を粛正」ヒステリー発言の波紋

みんな大好き豊洲新市場。どこにも建屋の下に盛り土なんて書いてない。

山本一郎です。毎日刺激的な生活を送っています。

ところで、東京都知事の小池百合子女史が突然土曜なのに緊急記者会見やるっていうので、何だろうと思っていたわけです。

「都庁全職員を粛正」=豊洲市場の土壌問題-小池知事(時事通信 16/09/10)

結論から言えば、小池百合子女史がヒステリーを起こしてました。素敵な知事ですね。

話の流れは馬鹿馬鹿しいぐらい簡単です。

1) 07年5月(準備会合は07年3月)から08年7月にかけて、親会議である平田座長による「土壌汚染対策専門家会議(以下、専門家会議)」で2mの土壌入れ替えを行い、2.5mの盛り土を行うことを公開で決めた。

2) この専門家会議の結論を実施する子会議の「技術会議」(実施・施工会議)において、08年8月から14年9月までの期間に設置されていたが、なぜか地下水のモニタリングや汚染物質の遮蔽のため建物の地下に約5mの空洞を置く工法を決めて施工した(もちろん汚染土壌は2mから2.4m除去)

「第15回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議」の開催について

3) この子会議の結論は、すでに親会議である専門家会議が08年7月で解散していたため、子会議の議事として満了し、親の専門家会議には報告されなかった(だって解散してるから)。

4) その専門家会議の資料を見た「外部有識者」が、建築終了後の図面を見て「建屋の下に盛り土があったはずだ! 安全性が問題だ!」と小池百合子女史に近しい某氏に焚き付ける。実際、概要の図面自体は盛り土の上に建屋があるように見える。

5) 話を聞いた小池百合子女史、無事ヒステリー発症。都職員に推移の確認をきちんとすることなく記者会見に突入し、カーニバル発生。

この問題について、都職員は次のように釈明しています。

こうした状況は、外部からの指摘を受け今月初めに判明した。幹部は「分かっていたら説明を変更していた」と弁明。地下部分はコンクリートの壁や床で囲まれているため安全性には影響ないとしつつ「専門家会議に説明していなかったのは問題だった」と話した。

すでに解散している専門家会議に説明なんかできるわけないのにね。宮仕えは辛いですね。

「時空を超えろ」って小池女史に要望されているわけでさ。そんなのできたら都職員なんてなってないよね。

そもそも「建屋の下に柔らかい盛り土をして汚染土壌を遮蔽するなんて、建築物の強度に問題が出るだけでなく、建築基準法に引っかかる可能性がある」ので、子である技術会議で盛り土を無駄に押し込むことなく空洞にするというファインプレーをしたはずが、親会議である専門家会議がすでに解散していたため話が親に返らなかったというだけで「都職員は(綱紀)粛正」という話に発展してしまうあたり、たぶん「小池女史は最初から分かってなかったんだろうな」ということが良く理解ができる内容になっております。

また、建屋の下に盛り土を敷いていないことは、図面からも分かります。

計算書概略図の緑の資格の部分が盛り土のない、建屋の下部です。

計算書の概要図。緑枠が空洞で、最初から設計に入ってる。
計算書の概要図。緑枠が空洞で、最初から設計に入ってる。

つまり、この「外部有識者」は建屋設計の平面図を読めておらず、最初から豊洲新市場の設計は盛り土の上に建屋を建設するような愚を避け、空間を用意して汚染物質を遮蔽する方針であったことが分かります。なぜ、いまさらになってこんなことを言うのでしょう。

当然、地下水管理の概要図にも盛り土が建屋の下に入っているなんてことどこにも書いてありません。当たり前ですね。技術会議が決定してからは盛り土なんて無かったんですよ。

豊洲新市場の地下水管理システム全景。もちろんここにも盛り土なんて建屋の下にはない
豊洲新市場の地下水管理システム全景。もちろんここにも盛り土なんて建屋の下にはない

そんな微妙な外部有識者に揺さぶられて緊急記者会見をし、特に問題なさげな事案で職員を綱紀粛正しろと言い放ってしまう都知事の能力がヤバイです。

この問題は、強いて言うならば「せめて親の専門家会議が解散する前に、工法など所定の決定事項は方針だけでも公知させるべきだった」ことと、「08年の子の技術会議(実施・施工会議)で決定した後、この盛り土に関する予算がきちんと除外されているかを確認するべきだった」ことぐらいじゃないかと思います。

基本的には、建築物の堅牢性を確保しつつ安全性を優先するならば、盛り土よりも空洞のほうが安全性は大幅に向上することは言うまでもありません。厚い底盤と数mの空間のほうが、物理的に詰められている盛り土より余程遮蔽性高く、建物の安全性も高いわけです。むしろ建屋の下に入れたと言われる盛り土予算がどこに行っちゃったのか、もしくは空洞にするぞと決めてからきちんと予算から除外していたかを検証したほうが良いでしょう。

地下水も路面も現段階では汚染物質は基準値以下であるわけで、何を理由に小池女史が「豊洲の安全性検証」と言ったのかは不明です。たぶん、本人も分かってないのではないでしょうか。都の担当職員ならずとも、汚染土壌や土木についてある程度知見のある人間であれば、汚染の疑いのある地下水位が管理水位(AP+2.0m)より上まで来ないようにしようという話は非常に妥当なものです。なぜならば、水は常に低い方に流れるから、という当たり前の結論になるんですけどね。

これが、例えば広島市のサッカースタジアム建設の際の「宇品みなと公園案」は、土壌を入れ替えてもこの管理水位が低く、盛り土をしてもどうしようもない事情はあるんですが、豊洲新市場についていうならば、汚染対策や土木としてはできることを全部やっている状況です。まあ、あれだけの予算をかけてきたわけですし。これで汚染土壌が例えば液状化現象が何度も繰り返されて汚染されるという可能性はあったとしても、そんな事態に陥ったら大江戸線・副都心線や低強度のショッピングモールなどはとっくに壊滅していますし、下水道も寸断されてタワーマンションなどはトイレが流せずクソまみれになるであろうことは言うまでもありません。

個人的に興味があるのは、もちろん会議体同士の情報連携がうまくいかなかったとか、実際には最善に近いやり方で建築されているにもかかわらず「盛り土がなかった。安全性に問題がある」と小池百合子女史が自ら右往左往して記者会見までやっているという点です。

「外部の有識者」からの指摘があったのは、恐らくは事実でしょう。都の専門家会議で当初盛り土を建屋の下に入れるという微妙な案であったことが、分科会である子の技術会議(実施・施工会議)でより望ましい工法に変更されました。この内容が、恐らくは親会議に伝わらなかった、会議決定後、更新されなかったのは一種の凡ミスですから、それは都は都議会や都民に説明し直す必要は確かにあります。なくなった盛り土予算もどうなったか分かりませんので決算も再確認するべきでしょうし、再発を防ぐために遺漏のない会議体の運営に細心の注意を払うことだ大事でしょう。

ただし、すでに下回っている汚染基準値を問題視したり、手順以上にハードルを上げる外部有識者に小池女史が翻弄されてしまいました。ごく普通で当然の工法を「安全面に問題」といって記者会見までやってしまうようでは、誰を信用したらよいのかわからなくなっていると言っても過言ではない状況だと思います。

正直、豊洲新市場にそれ相応の多額の都税がぶち込まれているにもかかわらず、このような「建屋の下に盛り土がないじゃないか」みたいな言いがかりで移転が進まないというのは馬鹿馬鹿しい話ですし、小池都知事も少しは都庁の担当に話を聞いてお茶でも飲んで落ち着けと言いたいわけです。500本以上岩盤層に杭打ってる豊洲新市場の件で、自称外部有識者が「盛り土がない」とかプレハブ住宅建てるような素人の与太話を真正面から信じているのだとすれば、これはもう日本中から東京都民は廃課金プレイヤーだと批判されるのを甘んじてもう一度50億ガチャで都知事選でもやることになるんじゃないかと思います。

なお、小池都知事におかれましては、このようなガセネタを流してきた外部有識者は誰であるのか、ぜひ情報公開をお願いしたいです。ぜひ。