カメラ捜査どうあるべき? 別府署の隠しカメラ事件 [大分県]
別府署の隠しカメラ事件は、県警の松坂規生(のりお)本部長が事件発覚から1カ月を過ぎてようやくテレビカメラの前で陳謝。設置型のカメラを署が使用する際は県警本部と事前協議することを義務付けるなど再発防止策も決めた。今後は隠しカメラ設置にかかわり、建造物侵入容疑で書類送検された署員4人の刑事処分が焦点となる。そもそも、カメラを使った捜査はどうあるべきなのか、改めて考えた。
「選挙の自由を妨害しかねないデリケートな選挙違反の捜査で、隠しカメラを使うなんてあり得ない。選対事務所を監視していたと思われても仕方ない。普通はやってないのにもう信じてもらえないだろう。なんてばかなことをしてくれたんだ」
参院選公示前後に野党候補を支援する団体の選対事務所が入る建物敷地内に隠しカメラを取り付けていた-。8月3日の事件発覚以降、その捜査手法について県警内部からも批判の声が上がっている。捜査関係者によると、今回の事件で隠しカメラ設置を指示したとされる別府署の前刑事官は窃盗などの捜査経験が長かったという。
近年、街角や店舗の防犯カメラ映像は警察の捜査に幅広く活用され、特定の容疑者の行動確認などにも有効とされる。桐蔭横浜大の河合幹雄教授(警察学)は「かつての聞き込みや尾行に代わって、カメラによる捜査が主流になっている」と指摘。背景として地域住民のつながりが弱まり、聞き込みなど昔ながらの捜査の有効性が薄れていることを挙げる。
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警察のカメラ使用に関して最高裁判決(1969年、京都府学連事件)は警察が捜査上、令状なしに撮影が許容される条件を「証拠保全の必要性および緊急性があり、撮影が一般的に許容される限度を超えない方法で行われるとき」などと厳格に示している。
県警本部は今回の事件について「別府署独自の判断で本部は関知していない」という立場を貫いているが、カメラを使った捜査に詳しい京都産業大の成田秀樹教授(刑事訴訟法)は「今回、必要性などを判例に照らして検討せずに署が独断でカメラ設置を行ったのならば、管理できていない県警の組織としての責任は重い」と指摘する。
今回の事件を受けて警察庁は捜査でのカメラ使用は事件の重大性などを検討するよう通達を出した。県警も(1)署がカメラを設置する際は県警本部と事前協議して許可を得る(2)必ず設置場所の管理者を確認して承諾を得る-という再発防止策を打ち出した。
それでも、龍谷大の斎藤司教授(刑事法)は「他にも同じような捜査が行われているかもしれない。カメラでの捜査は内容を事後公開し検証する法的仕組みを作るべき」と指摘。県警も捜査でカメラを使用するガイドラインの必要性を検討している。
=2016/09/08付 西日本新聞朝刊=