戦力がなければ育てるのみ――。広島の25年ぶりの優勝は緒方孝市監督(47)を含め歴代の監督ら、現場の地道な努力と、選手を引き抜かれてもめげずにやってきた球団の我慢が実った優勝だ。金ならある、といわんばかりの安易な補強に走ってきた球団に投げかけるものは大きい。
■中崎の成長、指揮官の我慢生きる
まず、緒方監督にごめんといっておこう。実は某スポーツ紙の開幕前の順位予想で広島を最下位にした。優勝は巨人。根拠としては一応巨人が抑えの沢村拓一を擁しているのに対し、他の球団は移籍などで抑えが確定していないということがあった。広島には中崎翔太がいたが、まだまだ盤石の抑えというわけにはいかず、不安があった。
巨人にしても打線の弱さから最下位もありうると思ったくらい。広島を最下位にしたのは本当にたまたまで、佐賀・鳥栖高校の後輩である緒方監督なら、許してくれるかなと思ったのが正直なところ。
緒方監督の我慢が生きた一番の例が中崎の成長だろう。昨季は29セーブながら、6つの黒星もついた。失敗もするなかで任せて待った甲斐があって、今季はすでに33セーブ。
抑え投手は全選手のなかで最も重圧がかかるポジションだ。時間をかけて守ったきたリードも、終盤の逆転劇も、失敗したらものの数分で水の泡になる。
それくらい心臓に悪い仕事だから、抑え投手をつくる際には、あまりおおっぴらに「この投手が抑えだ」と公言しない方がいい。さりげなく起用し、気がついたら抑えに定着していた、というのがベストだ。
中崎が今年も抑えとして起用されるのは明らかだったが、私は今年のキャンプで緒方監督に「中崎には『まだまだ、おまえはアルバイトで抑えをやっているんだからな』といっておけばいいんじゃないか」と話した。少しでも気楽にマウンドに上ってもらうことが大事だからだ。
緒方監督が実際にどういう言い方をして、締めのマウンドに送り出したか知らないが、内にも外にも「うちの絶対の抑え」という言い方はしていなかったのではないだろうか。
■自前で選手育てるという姿勢潔く
田中広輔、菊池涼介、丸佳浩に伸び盛りの大砲、鈴木誠也……。外国人を除き、中崎ら投手陣を含め、ほぼ全員が自前で育てた選手というのがすばらしい。資金に限りのある広島はFAで選手を“供出”することはあっても、獲得はしてこなかった。
それが前回の優勝以来、長くつらい時期を招いた原因でもあったのだが、自前で選手を育てるという姿勢はお金、お金の時代にあって、潔くみえた。目先の利益だけ追う風潮に対する無言の抵抗だった。