薬剤師として働いていると多くの患者さんに出会います。
以前の職場では精神科・心療内科の門前薬局で勤めていたので、メンタル系の疾患を抱えていた方がたくさん職場に来られていました。
私も会社員時代に心身を壊し、療養していた経験があったので、メンタル系の疾患のしんどさというのは、少しは理解しているつもりです。
患者さんからの話を聞いていると、とかくこの世は生きづらいものだと思わされます。
というのも、「他人の苦しみのために自分も苦しまなければならない」と思い込まされている人が多いと感じるのです。
「自分だけ楽をするわけにはいかない」
お会いする患者さんの中には、休養を必要とする人も多くいらっしゃいます。「仕事を控えて、今は自分の心身を休めることを最優先にするべき。このまま仕事に通い続けていたら取り返しのつかないことになりますよ」そう言いたくなるような患者さんもいます。しかし、お薬を渡す中で患者さんの話を聞くと、「仕事」に自分自身を縛られている方の多さに驚かされます。
「自分のほかに仕事ができる人間がいない」
「自分が休んだから仕事が進まなくなる」
「みんな大変なのだから自分だけが休むわけにはいかない」
「みんなつらいのに自分が楽をするのは後ろめたい」
………
昔の自分にとても良く似ていると思いました。
職場に自分を縛られていたころ、私は自分を休めることを「罪」だと思っていました。
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自分の抱えていた仕事を他人に任せることに罪悪感を持っていました。
体を休めて、戦力から外れることを、この世の終わりのような大きな過ちだと思っていました。
自分の存在はとても小さい
しかし、その想像は外れました。
私が職場を去った後、私が担当していた仕事はほかの社員にわりふられました。
あっさりと他人が担当し、私のいない職場は回り始めました。
「私がいないと仕事は回らない」
「私がいないとここはダメなんだ」
自分の思い上がりを知りました。
自分のできることの範囲なんてとても小さいことを知りました。
そして、それを必死で抱えて、「他人に任せるわけにはいかない」「他人に任せたら迷惑なんだ」と思い込んでいた自分が、いかに誤った認識を持っているのかに気づかされました。
自分がいなくても仕事は回るし、職場は成り立つ。
その事実を認識した後、自分がいかに「仕事」に心身を酷使されていたのかを知りました。
休むと迷惑がかかる、と思って我慢していたことが、結局小さなことであることを知りました。
自分の存在なんてとても小さいんだから、休んだっていいじゃないか。
そう思うようになりました。
職場にしがみついていると、「職場の一員である自分」にとらわれて、そうではない自分はまるで価値がないかのような呪縛にかかってしまいます。しかし、実際はそうではありません。
職場の一員である自分なんて、自分自身のほんの一部でしかありません。
それ以前に、「自分の心と体」そのものが一番重要な資本であり、いたわるべき対象であり、それの健康が保たれてこそはじめて、仕事なり勉強なりに打ち込むことができるのです。
メンタル系の疾患に陥ってしまう人は、そこまでに考えが至らないほど、心の視野が狭くなってしまっています。
本当はその状態に至る前に気づくべきなのです。
「職場の自分」などとても小さいものであり、それ以上に「自分自身そのもの」を最優先にしなければならないのです。その優先順位を間違えることは、非常に危険なことです。
仕事に自分自身を消耗させられる必要などどこにもありません。
仕事は生活費を得る手段にすぎません。
他人のことより、自分のことを優先しよう
しかし、そういっても休養を渋る患者さんというのは、「みんなしんどいんだから自分は休めない」と言います。
みんな仕事で消耗しているのは一緒なのだから、自分だけが休んでしまうのは悪いことだ。そう思う方がいらっしゃいます。
しかし、自分は自分。他人は他人。しょせん違う個体です。
ストレスへの感じ方も異なりますし、ライフスタイルも異なります。
同じ「しんどい」でも、笑って言える「しんどい」なのか、明日には死んでしまいそうな「しんどい」なのかは、すべての人が異なります。
他人と痛みの大きさを比較して、「この人よりはマシだから、自分は休んではいけない」なんて思う必要などありません。
あくまで比べるべきは「健康だったころの自分の心身状態」であり、スペックも何もかも違う他人と自分を比較して、「この人より苦しんでいない自分は休むべきではない」などと思う必要は一切ないのです。
どうも日本の勤め人の中には「みんなつらいんだからお前も耐えろ、おまえだけがつらいわけじゃないんだ」……といって痛みを背負うことを強制する同調圧力が漂っているような気がして、私はこういう考えには首をかしげたくなります。
「他人がしんどい」ことと「自分がしんどい」ことは分離して考えるべきであり、治療などの医療行為というのも、あくまで「健康だった自分」と対比して行われるものです。他人と比較して健康状態を図るというのは、健康状態の悪化のサインを見逃す原因になってしまいかねません。
自己管理というのは他人と比較して成り立つものではありません。常に自分の体調を記録するうえで意味を持つものなのです。
ですので、「以前と比べて『自分』がしんどい」という感覚を持った方は、さっさと休んでください。職場がどうとか、他人がどうとか考える前に、自分を休めることを重視してください。
これを怠っている方は、のちのちキツいことになります。日々の自分の状態を管理・記録する習慣をつけておき、不調をきたした際には、早めに休む、病院に行く、療養を行う、などの処置を率先して行ってください。