米同時テロ15年 新たな連帯感を世界に
世界の変容に、改めて驚かされる。
15年前のきょう、ニューヨークの超高層ビルが砂の城のように崩れ、ワシントン郊外の国防総省で黒煙が上がった。民間機を乗っ取って標的に突っ込んだ9・11同時多発テロは未曽有の大事件であり悪夢だった。
悪夢は世界に広がった。2004年のマドリード列車爆破、05年のロンドン地下鉄爆破……。昨年以降はパリやブリュッセルなどでもテロが起き、アジアや中東・アフリカのテロで多くの日本人も犠牲になった。
この15年、かつて米国民に同情した世界の人々は、テロが自分の問題であることを思い知らされた。
米国の意識も変わった。9・11は国際テロ組織アルカイダのしわざと知ったブッシュ政権は01年、アルカイダの拠点アフガニスタンへの攻撃を始め、03年にはイラク戦争でフセイン政権を倒した。「地球規模のテロとの戦争」である。ネオコン(新保守主義派)の主張を入れて米国は力で世界を変えようとした。
その米国では近年、ネオコンが鳴りをひそめ、オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と公言した。他方、共和党の大統領候補トランプ氏は、民主党のオバマ大統領とクリントン前国務長官こそ過激派組織「イスラム国」(IS)の「共同創設者」だと主張する。
オバマ政権の中東政策の甘さが、アルカイダから分かれたISの台頭を許したという論旨だろう。では、ありもしない大量破壊兵器を理由にイラクを攻撃したブッシュ大統領(共和党)の責任はどうなのか。トランプ氏は大統領選の対抗馬クリントン氏を批判したいようだが、何ともご都合主義的な発言である。
オバマ大統領の「脱警察官」発言もご都合主義のにおいがする。軍事作戦に慎重なのはいいが、中東の多くの国々は長年、米国の指導力に期待してきた。オバマ政権の一方的な“中東離れ″と優柔不断に見える態度が友好国を戸惑わせ、結束を失わせ、イスラム過激派を勢いづかせてきた傾向は否めない。
アルカイダの指導者は、9・11のようなテロを「何千回でも」実行するとの声明を出した。テロとの戦いは長丁場だ。米国に必要なのは、なし崩しの“中東離れ″ではなく、世界の不安定要因であるシリア内戦や、この15年ほとんど関与していない中東和平に真剣に取り組むことではないか。過激主義を生む土壌をなくすにはイスラム世界自身の努力も大切だ。
9・11後の米国には宗教や文明を超えた連帯感があった。世界の多極化もあるにせよ、米国の迷走がその連帯感を失わせたのも事実だろう。米国は15年前の初心に戻り、世界に新たな連帯の輪を広げてほしい。