精子と卵子が受精し、胚となり、その後様々な器官や組織に分化していきます。その際には多くの遺伝子が協調し、遺伝子やタンパク質をコントロールし、そしてコントロールされることにより、生物の複雑な形を作っていきます。その時に働く遺伝子を解析することにより、生命の進化の謎が明らかとされました。
進化のターニングポイント
地球上の生物の進化で一番重要なポイントとはどこだろうか?
多分それは魚が海から陸に上がり、生活を始めたことだろう。
その時の劇的な環境の変化は、肺を、手を、そして足を形作り、陸上での生活により適した生物に進化を促したと言われている。
だが生物学的研究により、手や足がどうやって進化してきたのかという謎は未だ明らかとなっていなかった。
シカゴ大学の研究チームが、ゲノム編集と呼ばれる遺伝子を書き換える技術を用い、その謎に迫った。
ゲノム編集
ゲノムというのは膨大な情報を含んだ遺伝子セットのことである。
例えばヒトであれば、46本の染色体がそれぞれ対になっており23対存在するが、その総量は31億塩基対ある。
遺伝子はアデニン、シトシン、グアニン、チミンの4種類のDNAから作られ、それが並ぶことにより、遺伝子として意味をもつ。
31億塩基対というのは、このDNAが31億個並んでいるということだ。
そのうち重要な箇所であれば、1つのDNAの並び方の違いが病気の原因となることもある。
これまでも遺伝子操作技術によって、このゲノム内の遺伝子を書き換えることは可能であったが、その精度は悪く、あくまでも運に頼っていた部分がある。
ゲノム編集はこれまでの遺伝子操作よりも高精度で、そしてピンポイントでゲノムを書き換えることができ、例えば、ゲノム中に新しい遺伝子を挿入したり、削除したり、一つだけ書き換えるということを可能にした技術である。
これにより遺伝子から病気の治療を行えるという期待がされている反面、生命の設計図である遺伝子を書き換えるという命を操る行為の危険性が懸念されている。
Hox遺伝子
研究チームは、Hox遺伝子(ホメオティック遺伝子)という動物の胚の初期において、組織の前後や手や足、目などの構造の適切な数量や配置などをコントロールする遺伝子に着目した。
研究チームはこれまでにHoxAとHoxDという遺伝子をマウスのゲノムから取り除くことにより、指や手首が作られないという結果を得ている。
そこで新たにゼブラフィッシュを用い、同じ遺伝子をゲノム上から取り除いたところ、ヒレがうまく作られなかったという。
この結果は同じHox遺伝子が手とヒレを形作っているということを示唆している。
CTスキャンを用いた解析
さらに研究チームは、このHox遺伝子がヒレの形を作るということを明らかにするために、CTスキャンを用いて解析を行った。
Hox遺伝子が取り除かれたゼブラフィッシュでは、ヒレとなる部位に数多くの小さな骨が存在していた。
そのため、研究チームはHox遺伝子が取り除かれたゼブラフィッシュでは、ヒレを作ろうと骨や組織が作られていくが、Hox遺伝子が無いためにそれらが適切に配置されず、ヒレに分化できなかったと推測している。
今回の研究により、魚のヒレと哺乳動物の手というのは明確な関わりがあり、ヒレから手が進化してきたということを示唆していると言えるだろう。
ヒレから手や足が進化してきたというのは、生命の進化の中で言われてきたことですが、今回の研究は、それが研究的に示されたという最初の例になるでしょう。遺伝子は生命が進化してきた結果、様々なバリエーションを産み、様々な生物へと進化していきましたが、その根本というのはやはり繋がっているということでしょう。
現在では生物の進化というのは、太古の地球で有機分子が生まれ、それが集まって単細胞生物となり、さらに単細胞生物が集まり多細胞生物となりとまるで完全に明らかになっているかのように解説されていますが、まだまだ謎というものは多いものです。その進化の歴史が刻まれていると言っても過言では無い現在の生物の遺伝子。さらに解析することにより、生命の成り立ちが解明されるかもしれませんね!