健康生活を支える「質のいい睡眠」
ぐっすり心地よい「眠りの秋」にするには
夏が終わり、だんだんと気温が下がり過ごしやすくなるこの季節。寝苦しい熱帯夜もなく「この時期はよく眠れる」と言う人は多いと思います。最新の研究で睡眠の質は、がん、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、骨の老化などほぼ全身の健康状態すべてに関与していることが分かってきています。つまり「ぐっすり気持ちよく眠ること」は健康生活の基本中の基本。心地よい「眠りの秋」を実現するために、知っておきたい情報をまとめました。
日本人の睡眠時間は世界最短レベル
今年5月、米国の科学誌「サイエンス・アドバンシーズ」に、世界100カ国の国別平均睡眠時間を調査した米ミシガン大研究チームの論文が掲載されました。15歳以上の約6000人を対象にスマートフォンの無料アプリを使って行った調査です。その結果、日本人の平均睡眠時間は7時間24分でシンガポールと並び最短でした。最長はオランダの8時間12分。わずか48分の差と思うかもしれませんが、研究チームは睡眠が30分以上短いと健康に影響が出る可能性があると指摘しています。
一方、東京大、高知大の研究チームは7月、中高生の男女1万6000人を対象にした調査の結果を発表しています。その中で言及されている中高生の平均睡眠時間は、中1男子7.9時間▽中1女子7.5時間▽高3男子6.8時間▽高3女子6.6時間です。思春期に必要な睡眠時間は正確にはまだ分かっていませんが、国別調査の数字と比べても、日本の若者は極端に睡眠時間が短いことが分かります。
脳と体をしっかり回復させるための睡眠
そもそも睡眠はなぜ必要なのでしょう。私たちは眠っている間、浅いレム睡眠と深いノンレム睡眠を60〜120分ごとに繰り返します。レム睡眠は体だけが休み、脳は動いている状態。なので夢を見ます。逆に脳も体も休んでいるのがノンレム睡眠です。実はノンレム睡眠は鳥類と哺乳類にしかありません。生物の進化の過程で、脳が大きく進化した結果、そのため脳を休ませるノンレム睡眠が必要になったのだと考えられています。睡眠は体だけでなく、脳をしっかり休ませ、回復させる時間なのです。
睡眠中の脳は記憶の整理を行い、日中の出来事を記憶に残したり、古い記憶をうまくまとめて思い出しやすくするなどの作業を行っています。そのため、十分な睡眠を取った方が多くのことを記憶できるという実験結果もあります。また複数のホルモンが睡眠中に分泌され、身体の各機能の調節も行います。
よい眠りを得るには夕食から準備を
いい睡眠を取るには、体の仕組みを考慮した準備が必要です。日中、私たちの体は興奮・緊張をつかさどる交感神経が優位になっていますが、夜になると心身のリラックスを促す副交感神経優位に切り替わります。夕食後から寝る前までの約3時間は、良い睡眠に入るための準備タイムです。この「3時間」には二つの意味があります。まず食べたものを腸が消化・吸収するのに要する時間。そして、十分に副交感神経が上がって体が質の良い睡眠に入る状態になるに要する時間です。昼食後など起きている時に胃腸の働きが活発化すると、副交感神経が優位になって眠くなりますが、逆に胃腸に物が入っている状態で眠ると消化の吸収のために内臓が働き続けて交感神経が優位のままの状態が続き、質の悪い睡眠のまま翌朝を迎えてしまいます。寝る前にしか食事を取れない場合は、消化のいいメニューを選び、食事量は普段の半分以下に。入浴する際はお湯の温度は39〜40度、15分程度の半身浴に留めましょう。
このように「夕食から寝るまでの時間」が睡眠に影響することは知られていましたが、最近、「夕食のメニュー」の睡眠への影響が指摘されました。米国の研究グループは、標準体重を維持している成人男女26人(平均年齢35歳)に、糖質や脂肪酸、食物繊維などの栄養素が管理された食事を4日間取らせ、5日目は自由な食事を食べさせました。被験者の1日の睡眠時間は平均7時間35分、睡眠ポリグラフィーという装置で3日目と5日目の睡眠の質を比較検討しました。その結果、夕食に含まれる食物繊維の量が多いと、質の良い睡眠が取れることが分かったと言います。逆に飽和脂肪酸から得るエネルギーの割合が高くなると、睡眠の質が下がるそうです。また糖質をたくさん取ると、寝ている最中に目覚めてしまうことが増え、睡眠の質が下がることも分かりました。となると、糖質少なめで食物繊維の多い日本食が夕食にはお薦め、ということが言えそうです。
いい眠りを生む寝具とは?
眠りと言えば寝具にこだわる人も多いでしょう。ベッドや枕などの専門店ではアドバイザーの助言で最適な寝具を選べたり、身体に合わせて作ったりすることもできるようになりました。しかし、そこまでするのは少し敷居が高いと感じる人のために選び方のポイントを教えます。
ベッドをはじめ、寝具全般を取り扱う家具販売店、大塚家具(東京都)が提唱するマットレスや敷布団選びのポイントは、「理想の寝姿勢=立ち姿」を保てることです。自然な立ち姿は頭部・頸椎・胸椎・腰椎・骨盤が重力の方向に重なった状態でバランスが保たれ、背骨は理想的なS字ラインを描いています。このラインを寝姿勢のときにも保ってくれる布団やマットレスが理想的だと言います。マットレスや敷布団が硬すぎると体の出っ張った部分(腰、肩、頭、かかとなど)に負荷がかかり寝心地が悪かったり、逆に柔らかすぎると腰が沈み、S字ラインが崩れてストレスを覚えます。同じ硬さの寝具でも、体型や体重によって体の沈み込み具合は異なりますので、たくさんの寝具を試して、自分の寝る姿勢に合うものを探すことを勧めています。
枕はマットレスや敷布団だけではサポートできない頭と頸椎を支え、寝姿勢をより理想的な状態にする重要なアイテムです。よって、選ぶ時は枕単体だけで考えず、マットレスや敷布団との相性を考慮することが重要です。店頭で自分に合うと思った枕が、自宅のベッドで使ってみると、マットレスの硬さが違うために寝心地が悪い、ということもよくあるのです。心地良い眠りを手に入れるためには、枕はマットレスや敷布団と一緒に選ぶ方がいいでしょう。
掛け布団はタオルケットや毛布より、軽くて表面がツルツルして体にまとわりつかないものを選んだ方が、快眠のためにはいいとされます。重い掛け布団は体が圧迫され負担が大きくなります。サイズは1人分の幅が100センチ以上あるのが理想です。寝間着もさらりとした肌触りの動きやすい上下のパジャマがお薦めです。
眠れる寝室づくりにも取り組んで
もう一つ、寝室全体の環境も重要です。具体的に気をつけたいのは、室内の温度・湿度、音、照明、そしてエアコンなどによる空気の流れです。厚生労働省が発表した「健康づくりのための睡眠指針2014」(14年3月)では、睡眠に適した室温は13〜29度と、ベッドや布団の中が33度くらいになるよう勧めています。湿度は特に高くなると、睡眠中の目覚めが増えることが報告されており、季節を問わず50〜60%がいいとしているデータが多いようです。エアコンや扇風機の風は直接体に当たらないよう工夫しましょう。
次に音ですが、エアコンの室外機程度の音(45〜55デシベル)でも、夜間の覚醒が増えるというデータがあります。一方で、ほとんど無音という環境も目が覚めてしまいます。つまり音の環境が一番コントロールしにくいのです。屋外からの音は、カーテンを二重にしたり、遮音性が高い遮光カーテンを使うなどの工夫で、快適な状況に調節しましょう。
照明は夕方以降、青っぽい光、いわゆるブルーライトを浴びすぎないよう注意しましょう。特にパソコンやスマートフォンのディスプレイから出る光は、非常に強いブルーライトであることが知られています。ブルーライトは私たちの脳にある体内時計を司る遺伝子「ピリオド」に働きかけて、体内時計を調整する機能があります。体が寝る準備を始めている夕方〜夜にスマホを見つめるなどして強いブルーライトを浴びると、体内時計が狂い、体が睡眠モードでなくなってしまいます。どうしても寝る前まで見なければいけない場合は、ブルーライトをカットする眼鏡や液晶保護シートを使うのも一案です。
また寝室の照明は白熱灯のようなオレンジっぽい光にすることがお薦めです。直接強い光を浴びないよう、間接照明にするのもいいでしょう。最近のLED照明は光の色を変えることができるものもあります。うまく使いわけましょう。
実は「寝過ぎ」もダメ
ここまで「快適に眠れる」ための知識を紹介してきましたが、実は眠りすぎもよくありません。成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満ぐらいが適正でそれより短くても、長くても良くないとされています。ベッドや布団の中で長時間を過ごすと、かえって睡眠全体が浅くなり、不眠につながる可能性があります。また加齢とともに睡眠時間は短くなります。無理に「8時間眠る」必要もありません。
「心地よいことが良い睡眠」です。ほどよい睡眠時間で起床時間は一定にし、朝「もう少し眠りたいな」ぐらいの感覚で起きる。そんな眠り方ができる環境を考えてみましょう。