若者のアルコール離れや競争激化で、ワタミや大庄といった居酒屋チェーンが軒並み苦戦する中、全品税抜280円均一の焼き鳥チェーン店、鳥貴族が快走を続けている。
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同社が9月9日に発表した前2016年7月期決算は、売上高245億円(前期比31.3%増)、営業利益は15.9億円(同42.7%増)と過去最高を記録。今2017年7月期も売上高307億円、営業利益19.5億円と増収増益を見込む。
■低価格と店作りが革新的だった
鳥貴族は1985年、大阪府東大阪市に1号店をオープンした。「焼き鳥屋」という業態にありがちな赤提灯にカウンター、お客や中高年男性といった典型的なイメージを払拭。若者や女性でも入りやすい、テーブル席を増やし、明るい店舗作りを打ち出した。
さらに商品戦略でも、メニューを1品280円という低価格で統一。こうした取り組みが功を奏し、地盤の関西を中心に徐々に店舗数を増やしてきた。
2005年に東京に進出、2008年にはグループで100店舗に達している。2016年7月末時点で関西、関東、東海の大都市圏に492店を展開と500店舗が目前に迫る。
際立つのは既存店の好調さだ。開店から12か月以上経過した既存店売上高の前年対比は2014年3月以来、この8月まで実に29か月連続してプラスとなっている。同業他社の多くが値上げや販促を強化しても前年並みが確保できない状況を考えれば、鳥貴族の好調さは群を抜いている。
鳥貴族のメニューは全品税抜280円なので、定番メニューである『もも貴族焼き』など5品と生ビールを2杯頼んでも税込2100円台で納まるというコストパフォーマンスが売り。創業当初から鶏肉は国産のみを使用し、それも各店舗で串打ち仕込みをするという、手間暇をかけるスタイルを貫いている。
そのこだわりについて社長の大倉忠司氏は「鶏肉は肉の中でも一番劣化が早い。そして串打ちはどうしても手が入るので、劣化スピードがさらに速まる。おいしく新鮮な焼き鳥を提供するには、お客様の口に入る少しでも手前で串打ち、仕込みすることが高品質な焼き鳥につながる」とした上で、「そこが既存のチェーン店との大きな違いだ」と断言する。
■10月には食べ物の全メニューが国産に
国産品へのこだわりは鶏肉にとどまらない。現時点で約60品あるフードメニューのうち、国産比率は98.2%に達する。今度の10月から始まる秋冬メニューでは牛肉と枝豆を国産品に切り換え、100%を達成する計画だ。
「食材の国産化を進めることで価値向上、客数向上、ひいては既存店売上向上につながる」と大倉社長は強調する。
その一方で、出店を大都市圏に集中、その店舗も商業ビルの地下階や2階以上など家賃の安いところへ出店することで、運営費用を抑えている
同社は、焼き鳥専門店としては2012年にシェアトップになって以来、2位との差を年々広げている。2014年にジャスダックに株式を上場、2015年に東証2部へ市場変更、今年には東証1部に指定されている。大倉社長が、ジャニーズグループ「関ジャニ∞」の大倉忠義さんの父親という点も相まって、ここ数年で急速に知名度を上げた。
大倉社長は「既存店が好調に推移している大きな要因として280円均一を守っていることが大きい」と分析する。外食業界が値上げを進める中で、価格を据え置いた鳥貴族は客数の大幅増加となった。また知名度の上昇に伴って、家族連れやシニアなどにも客層が広がったことも既存店の好調な要因となっている。
ただ、足元では人件費の上昇が進んでいる。もともと居酒屋業態は不人気職種な上、全体的な人手不足も拍車をかけ、時給単価だけでなく採用コストの上昇も頭の痛い問題だ。
そこで鳥貴族が取り組んでいるのが生産性の向上だ。たとえば注文状況を示すモニターを焼き台の近くに設置し、調理の作業効率を上げるというもの。また関東圏の店舗では座席注文システムを導入して、注文取りの業務そのものを減らしたり、配膳時間を短縮する取り組みを行っている。
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