北朝鮮が五回目の核実験を強行した。相次ぐミサイル発射と併せ、核の脅威が現実になりつつある。暴走を止めるには、国際社会の結束が急務だ。
北朝鮮当局は「核爆発実験に成功した」との声明を発表し、「弾道ミサイルに装着できる」と強調した。米国をはじめとする敵対勢力の脅威と制裁に対する対応措置だと、実験の理由を主張した。
これより前、北東部・豊渓里の核実験場近くで人工的な地震波が観測された。韓国国防省の推定では、爆発規模は過去四回と比べ最大の約十キロトンという。地下核実験のため判定は難しいが、爆発力を高め、核弾頭の小型化に近づいた可能性がある。
◆偶発的衝突を防がねば
北朝鮮は核武装して、ハリネズミのような国をつくり、そのうえで、米国と対等な立場で交渉し、国家体制の保証を勝ち取りたい考えとみられる。
国際社会は新たな核保有国を認めない。地域の安全保障の均衡が崩れ、周辺国も核を持とうとするドミノ現象を恐れるからだ。北朝鮮が自衛のためだと強弁しても、核武装は絶対に許されない。
今年、核実験を二回強行し、飛距離や発射形式が異なるミサイルを計二十発以上も発射した。中距離弾道ミサイル「ノドン」は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)については、日米韓とも事前の察知が非常に難しい。
韓国が受ける脅威は深刻で、強い対応を求める声が広がっている。米韓海軍は近く、黄海で合同訓練を実施し、米軍機による偵察も強化する。
軍事境界線付近では緊張が高まるだろう。米韓両軍は北朝鮮の挑発をけん制しながらも、偶発的な衝突に発展しないよう、冷静な対応をとるように望む。
日本政府は海上でミサイル発射を察知し迎撃もできるイージス艦の保有を増やし、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を、より高性能の機種に更新することも検討し始めた。
しかし、防衛費は巨額になり、装備更新には時間がかかる。何よりも一国だけでは対応できない。現状では、米国、さらに韓国との連携強化にまず取り組むべきだろう。ミサイル関連の情報も含め、日韓が直接交換できる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結を急ぐ必要がある。
◆恐怖政治で亡命相次ぐ
北朝鮮の強硬路線は、国内の引き締めも狙ったものだ。金正恩・朝鮮労働党委員長が強い指導者だと訴えて、国内の求心力を高めようとしている。核実験をしたこの日は建国記念日だった。
韓国統一省によれば、金正恩体制になってから、労働党や政府、軍高官の粛清、処刑が増えているという。駐英公使をはじめとする外交官や企業の海外駐在員ら、体制のエリート層の亡命が相次ぐ。韓国当局者は「恐怖政治が広がっている。北朝鮮にはもう未来がないと絶望して、亡命、脱北するようだ」と分析する。
父、金正日総書記は核、ミサイル実験と外交を織り交ぜた「瀬戸際戦略」を展開したが、金正恩氏は軍拡路線だけに突き進む。国際社会は「予測できない」と不安視し、警戒を強めるばかりだ。
国連安全保障理事会の決議に基づく制裁は徐々に、効果が表れている。北朝鮮は外貨獲得のために海外に労働者を派遣しているが、東南アジアや中東の一部の国が受け入れ条件を厳しくし、不正送金を監視している。
北朝鮮は「核と経済発展の並進路線」を掲げるが、制裁により外貨収入が減れば、原油や原材料も十分調達できない。経済は足踏みし、体制も次第に弱体化していくと、国際社会は警告を続けたい。
前日の八日には朝鮮労働党国際部の副部長が訪中したことが確認されており、核実験の事前通告だった可能性がある。だとすれば、最大の経済支援国である中国の意見も聞かなかったことになる。中国外務省は核実験に対し「断固として反対する」と強く批判する声明を出した。
◆中国の制裁強化がかぎ
中国はミサイル発射に対しては「制裁自体を目的にしてはならない」と主張して、安保理の強い非難声明にも慎重論を唱えたが、核実験は「危険ライン」を越えたと受け止めよう。北朝鮮に対抗して米韓が高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)配備を決めたが、中国はレーダーが自国にも届くと強く反発する。東アジア情勢はいっそう複雑になっている。
安保理は新たな制裁決議の採択に動くとみられるが、中国は制裁強化に踏み込むべきだ。地域と世界の安定は、大国の責務であるはずだ。
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