ある飲食店店舗経営者が、口コミサイト「食べログ」の有料サービスを利用しなかったため、食べログ側に店舗の評価を操作されたとツイッターで告発し、先日話題になりました。
食べログ、踏み絵方式で飲食店の評価を3.0に強制リセット : 市況かぶ全力2階建
この話題の広がりを受け、食べログを運営する株式会社カカクコムは、すぐさまプレスリリースで以下のように発表しました。
なお、自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係なく、これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております。
私はこの一連の騒動を見ていて、4年前のあるニュースを思い出していました。
電通、カカクコムに15%出資 ネット広告で新手法 :日本経済新聞
日本最大手の広告代理店である電通が、カカクコムに出資したというニュースです。電通とカカクコムは、業務提携も締結しました。
日経新聞に載っていた、小さな記事でした。しかしその記事が目に入った瞬間、すごく嫌な予感がしたことを私は強く覚えています。
そして、冒頭の店舗評価の操作騒動です。「ああ、やっぱりな…」というのが正直な感想でした。
電通が大株主になるということの意味
先ほどの、電通がカカクコムに出資したというニュースは、いったいどのような意味を持つのでしょうか。
電通は広告代理店です。日本の最大手です。電通と博報堂という二大代理店が、日本のメディアを牛耳っているといっても過言ではありません。
広告代理店は、なじみのない人向けに簡単に説明をすると、「こんな広告があるから出しませんか?」と言って、スポンサーを引っ張ってくるのが仕事です。TVCM、新聞広告、ネット広告なんでも売ります。根本的にはその手数料で商売をしている、という理解でいいかと思います。
さて、その電通が、「食べログ」というメディアを持つ会社に出資し、業務提携をしました。すると、どういうことが起こるでしょうか。
電通は、広告を売りたいわけです。広告を売るためには、売りやすい広告にしなければならない。広告主が出稿したいような広告にしなければならない。
食べログにおいて、「広告主(飲食店)が望むこと」とは何でしょうか。
それは、「店舗の口コミ評価を上げること」に他なりません。サイト内にバナー広告をペタッと貼るより、広告効果があることは、火を見るより明らかです。
つまり、電通の息のかかったメディアが「口コミ評価」を広告商品にして売ることは、容易に想像できるわけです。「広告料金払ってくれたら、口コミ評価上がりますよ」ということです。
今回は、「広告料金払ってくれないから、口コミ評価落としますよ」という話だったわけですが、根本的には同じことですね。
カカクコムが発表したIRに対する違和感
冒頭で、カカクコムが発表したIRを紹介しました。もう一度、引用します。
なお、自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係なく、これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております。
この文章を読んで、違和感を感じませんか?私は引っかかる部分がありました。
「ユーザーの評価を基礎に算出、表示」という表現です。
これはつまり、「ユーザーの生の口コミ評価ではありません」ということを、暗に認めているという印象を受けました。ただ単に基礎にしているだけであって、そこから多少は独自の観点で動かしていますよ、ということです。
絶対に口コミの評価を商品にしてはいけない
口コミサイトの強みとは何でしょうか。それは、「ユーザーの生の声が聞ける」ということです。
私たちは、口コミサイトの評価やレビューを、そのユーザーが体験した本当の声、として期待しています。
その評価が、「お金で買われた評価」だとしたら、それは情報としての価値のほとんどを失ってしまいます。
口コミサイトは絶対に口コミ評価を広告商品にしてはいけません。それは、ステルスマーケティング、いわゆるステマです。
検索における優先表示はまだ許せるとして、評価スコアの操作はあり得ません。そういう商品を売り始めた瞬間、そのメディアは口コミメディアとしての信頼が一気に損なわれます。
食べログの媒体資料を確認しましたが、基本的にはバナー広告やタイアップ広告がメインのようです。
http://tabelog.com/editorial/owner/tabelog_mediadata_1605.pdf
しかし、冒頭のツイッターにおける告発のようなケースが出てきているということは、営業担当者と店舗の間で、媒体資料に載っている商品以外の広告が提案されているということでしょう。
独立性の担保された口コミサイトの渇望
「食べログ」に電通の息がかかってしまった以上こうなることは想定出来ましたが、私はこうなってしまったことがとても悲しいです。
店舗名を検索すると、必ず食べログが上位表示されてきます。しかし私はもう、食べログの評価を純粋な目で評価することはできません。
メディア運営はお金がかかります。特に、口コミサイトのようなシステムを維持しつつ、負荷に耐えうるサーバー、人件費などの費用を賄うには、それなりの売上が必要になります。規模を拡大するには、資本も必要になります。口コミメディアが独立性を保ちつつ、メディアを継続させていくことは、難しいのです。
だからこそ、私は、独立性の担保された口コミサイトを渇望しています。ユーザーの生の声が直接届く、本当の口コミサイト。純粋な、規制のかからない情報。それが、インターネットが本来もたらしてくれた、最高の情報革命のひとつだったはずです。
まとめ
電通の息がかかる前に、「食べログ」がどのような運営をしていたのか、どのような広告を販売していたのかはわかりません。しかし、電通が絡んでから今回のような不穏なうわさを時折耳にするようになったということは、肌感覚で感じています。
初めていく街で、お昼ご飯を食べるところを探していて、「この街で評判の良いお店はないかな」と思い、Googleで「街の名前 ランチ 評判」と検索する。そういった純粋な楽しみを追い求めるユーザー行動を食い物にする行為に、私は極めて強い憤りを感じています。
だって、そうしたら、もう何も信じられないじゃないですか。
口コミサイトを見るたびに、その運営会社の出資者、関連会社、代表者の経歴などを調べて、独立性が担保されているか調べろと言うのでしょうか。そんなことは出来ません。
もっと純粋に、私は情報を享受したいです。ただそれだけです。
※本記事は個人の主観・推測を基に書かれています。特定の銘柄への投資をあっせんするものではありません。投資は自己責任でお願いいたします。