「バーチャルデートしたいんだけどいいかな」
チャットを始めて2分30秒。軽く挨拶を交わし性別を答えたところで彼が言った。
(ばーちゃるでーと・・)
つまりネットを介して文字だけでデートを実行するということだろうか。バーチャルでよいのなら、普通にチャットを楽しみながらカフェで好みの女性と向かい合っている場面を想像すればいい。
わざわざ断りを入れてくるということはこちらにも相応の態度をのぞんでいるということか。・・なんとなく展開が読めなくもないが、カズ君の言う"バーチャルデートなるものがどんなのものなのか確かめたい。
「いいですよ」
好奇心に負けOKしてしまった。するとカズ君が発言。
「コンコン」
始まったの?始まったのかバーチャルデートが!コンコンってことはノックだね?3分46秒前に出会ったばかり、性別と名前しか知らない男性とまさかのお家デートである。
なんという急展開。
全身に汗が湧く。こんなちらかった部屋に招くとは私ってばなんてうっかり者。しかも隣には兄の部屋、階下にはやかましい母と知らない人には問答無用で襲い掛かる獰猛な犬達がいるというのに。
カズ君は私の知らないうちにチャイムを鳴らして母に玄関を開けてもらい、階段を上ったのちに部屋の前に立つという工程を1分程で成し遂げたことになる。
きっとカズ君の手には母から預けられたお菓子が握りしめられ、ズボンの裾には背中の毛を立てた犬がかじつき、背後の部屋の扉からは犬を心配した兄が顔を出しているだろう。
幾多の関門をくぐり抜けよくぞここまでたどり着いたという想いをこめ私は言った。
「どうぞ」
扉を開けたカズ君は言う。
「カノちゃんの部屋かわいい~」
かわいい?!床には本が散乱。机には肛門モンスターであるバッドマイロフィギュア(手作り)が鎮座し、開け放したクローゼットには勢いで買ったはいいが使いどころがない胴着が無造作にかけてある。
カズ君のかわいいの基準が一般的なそれと違うのか、それともこれらの微妙な代物すらかわいく映るほど私にぞっこんなのか。
二人の距離感がいまひとつ把握できないまま私はカズ君から犬を引きはがし、扉を閉めた。
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