サンフランシスコ市内のビル・グラハム・シビック・オーディトリウムは、2年連続で“歴史的な場所”になった。Appleが新製品をお披露目する「Apple Special Event」の開催地に選ばれたからだ。
【iPhone 7 Plusで撮影したボケ味のある写真】
9月7日(現地時間)、世界各国から招聘されたジャーナリストと通信キャリア首脳陣、そしてライブ中継を通じて注目する世界中の人々に見守られるなか、Apple Special Eventが開催された。テクノロジーとリベラルアーツの交差点から、人々のライフスタイルを、世界そのものを革新してきたAppleが、新たに何を語ったのか。サンフランシスコの地からレポートを届けたい。
●異例づくしの“日本へのリスペクトと最恵国待遇”
Appleが“日本びいき”であることは、わりと有名な事実だ。
Appleの創業者であった故スティーブ・ジョブズ氏は禅に傾倒し、すしをはじめ日本食を好んで食べたことで知られている。その影響というわけではないだろうが、今でもApple本社の人々は日本文化や日本食に精通し、愛してくれている人が多い。またビジネスの面に目を向けても、Appleと日本との関わりは深い。Appleは日本の部品産業や素材産業を深く信頼して年間3兆円以上の調達を行っているほか、横浜にアジア地域の中心となる研究開発拠点を建設中である。Appleが日本をいかに愛してくれているかは、Apple本社を訪れてAppleの人々と交流する度に感じることである。
しかし、である。今回のApple Special Eventにおける日本の扱いは、異例づくしともいえるものだった。
まず印象的だったのが、キーノート冒頭で、AppleのCEOであるティム・クック氏が任天堂のクリエイティブフェローである宮本茂氏を招き入れたことだろう。
「App Storeには1400億ものアプリがあり、50万ものゲームアプリがあるが、誰もが楽しめるゲームとしてマリオが欠けていた」(ティム・クック氏)
この言葉が表す通り、Appleは最大級のリスペクトを持って任天堂とマリオを紹介。宮本氏が発表したiOS向けのスーパーマリオ「SUPER MARIO RUN」に最高の賛辞を送った。これまでもApple Special EventやWWDCのキーノートで特定のゲームアプリが紹介されることはあったが、それはあくまでAppleの新製品や新プラットフォームの特徴を見せるデモンストレーション的な意味合いが強かった。しかし、今回の任天堂の扱いはまったく違う。Appleが自らの新製品よりも先に、サプライズとしてマリオを迎え入れたのだ。
そして、マリオに続いて、世界的なブームになっている「Pokemon GO」のApple Watch対応も発表。Nianticのジョン・ハンケCEOが壇上にあがり、Apple WatchとPokemon GOの組み合わせをデモンストレーションした。
このSUPER MARIO RUNとPokemon GOのAppleプラットフォームへの対応は会場内を大いに沸き立たせ、今回のイベントにおける目玉の1つになった。
そして、任天堂へのリスペクトに続いて異例だったのが、今回のiPhone 7/7 PlusにおけるApple Payの日本市場対応と、JR東日本のSuicaに対する扱いだ。
周知の通り、Appleはグローバル市場で製品と部材の共通化を図ることでコスト効率を高めるという戦略をとってきた。国ごとの規制で周波数や通信方式といった仕様の違いが出る無線通信部分でさえ、幅広い周波数・仕様に対応するマルチモードの通信チップを採用して可能なかぎり共通化を図ってきたくらいである。
しかし、今回のiPhone 7とiPhone 7 Plus、Apple Watch Series 2では「日本特別仕様」ともいえるモデルを用意。SuicaやiDなど日本の電子マネー市場で普及しているソニーの非接触IC「FeliCa」を搭載し、Apple Payの日本市場への対応を果たした。Appleがたった1カ国のためにiPhoneの仕様を作るのは、米国市場でのみ発売された初代「iPhone」以来のこと。しかも、この日本特別仕様となるFeliCa対応を、iPhone 7/7 Plusにおける10の新機能の1つに据えたのだ。
さらにJR東日本のSuicaへの対応も異例だ。
JR東日本のSuicaは交通IC乗車券としてスタートしており、しかも首都圏のラッシュアワーでも滞りなく使えるようにするため、非接触ICのサービスとしては他にない仕様・機能が多い。逆説的にいえば、FeliCaが世界的に見ても類を見ない高速処理に対応し、結果としてそれがグローバル市場におけるFeliCaの特殊性になってしまったのは、JR東日本のSuicaの要求仕様に合わせて作られた部分がとても多いからだ。
このSuicaサービスに対応するために、AppleはApple Payの仕様を変更。本来はTouch IDの指紋認証と“組み合わせて使わなければならない”というApple PayのUIデザインを変えて、指紋認証をせずに高速処理を実現するEXPRESSモードと呼ばれるSuicaだけの特別仕様が用意された。Appleが自社のサービス仕様とUIデザインを変えてまで、日本のSuicaに対応したというのは、これまでのAppleを知る人間からすれば驚倒するところだ。
このように今回の発表においてAppleは、異例ともいえる日本市場へのリスペクトと配慮を貫き通した。最恵国待遇と言っても、言いすぎではないだろう。とりわけiPhone 7とiPhone 7 Plusは、日本市場で使いやすいようにスペシャルな内容になっている。
●性能は10番目――新提案・新機軸が印象的だったiPhone
もちろん、iPhone 7とiPhone 7 Plusは日本市場のためだけのものではない。Appleが紹介した10の項目のうちの1つは日本のためだけのものだったが、それ以外もまた新型iPhoneの魅力を裏付けるものだ。
その中でも注目だったのは、「カメラ機能」の進化だろう。
カメラ機能はiPhone 7とiPhone 7 Plusともにイメージセンサーからレンズ、各種センサー類、フラッシュ機能まで、ほぼ全てのハードウェアが一新、それにあわせてカメラ関係のソフトウェアも全面的に刷新されている。iPhone 7シリーズが搭載するA10チップには専用のISP(イメージ・シグナル・プロセッサ)が内蔵されており、これを使ってソフトウェア側で25ミリ秒で10億以上の高画質化処理を行うという。iPhoneは以前から、同程度のカメラ性能を持つ他のスマートフォンに比べて撮影した写真の画質がきれいだったが、その傾向がiPhone 7ではさらに強くなりそうだ。
一方、iPhone 7 Plusはデュアルカメラ構成になり、ソフトウェアと組み合わせてより本格的な写真撮影が可能になる。iPhone 7 Plusに搭載されるカメラは、広角と望遠という構成になっており、画質劣化がほとんどなくズームで写真が撮れるほか、Depth Effectという機能を使ってボケ味のある本格的なポートレート写真も撮影できるという。
昨今のInstagramの流行を見るまでもなく、スマートフォンで撮影した写真は、人々のライフスタイルやコミュニケーションにおいて重要な位置を占めてきている。そのような中でiPhone 7とiPhone 7 Plusのカメラ機能は、難しくなく気軽に使えるというスマホカメラのよさはそのままに、本格的なカメラに匹敵するきれいな写真が撮れるようなっているのだ。
日常的な使い勝手の部分でも、iPhone 7/7 Plusの改善点は多い。
まず日本でもニーズ高い防水・防塵(じん)機能。iPhone 7/7 Plusでは本体の基本構造から各部材の配置まで全てを見直し、IP67準拠の防水・防塵機能を実現。しかもこれは単純に防水性能を高めただけでなく、A10チップをはじめとする各プロセッサの廃熱をデザイン段階から考慮して、防水端末にありがちな熱暴走や熱ダレが起きないような設計にしているという。
音響関係では、内蔵スピーカーのステレオ化と音量増大を行ったほか、3.5φのイヤフォンジャックを排して、デジタル接続のLightningオーディオか、ワイヤレスイヤフォンやヘッドフォンを使う形に改めた。とりわけAppleが推奨しているのはワイヤレス化の方であり、そのために同社では新開発のワイヤレスオーディオプロセッサ「W1チップ」まで開発した。これを用いたApple流の新たな音楽リスニングのスタイルが、「AirPods」というわけだ。
UIデザインの面では、ホームボタンの変更が大きなトピックスだ。ホームボタンはこれまで独立した部品で構成され、そこに指紋認証用のTouch IDが内蔵されるなどして進化してきた。しかしiPhone 7/7 Plusでは物理的なボタンはなくなり、ボディーと一体化した。ボタンを押したような感触は、疑似的にクリック感を生成するタプティックエンジンを用いて行う。実際にハンズオン会場で試したところ、これまでの物理ボタンと押し込んだ時の感触はやや異なるものの、クリック感自体はしっかりと感じられた。
そして最後に、性能について。
Appleは今回のキーノートにおいて、iPhoneのパフォーマンスについての説明を、10番目という最後の項目として扱った。しかしその中身は、普通であれば真っ先にアピールしてもおかしくない優れたもの。新開発された「A10 Fusion」チップは、高性能処理を担う2つのコアと、低消費電力で動く高効率なコアを2つ組み合わせた4コア構成。高速処理用コアの性能は先代のA9チップよりも40%も高性能であり、高効率コアの方はこれまでの5分の1の電力で稼働するという。
グラフィック性能もあわせて向上しており、こちらはA9チップよりも50%も高速だ。性能向上という点で見ても、今回のiPhone 7シリーズは順当に進化しているといえる。それでもスペックの説明は「10番目」である。つまり、それだけ今回のiPhone 7とiPhone 7 Plusは、スペック以外の部分での新提案や新機軸など、注目の進化が多かったということだ。
●生まれ変わったiPhone 7とiPhone 7 Plus
無責任なうわさでは「新型iPhoneは、あまり代わり映えしない」という声もあったが、ふたを開けてみれば今回のキーノートは驚きの連続であり、iPhone 7とiPhone 7 Plusは「生まれ変わった」といってもいいほど、これまでのiPhoneの常識を覆すものだった。
イヤフォン端子や物理的なホームボタンを廃する一方で、Air Podsやタプティックエンジンを用いた新たな利用スタイルやUIの提案があり、カメラ機能は本格的な一眼カメラ並みにきれいな写真が簡単に撮れるように進化した。日本のユーザーからすれば、Apple PayでSuicaやiDが使えるようになることも大きな変化だろう。また、これは実機を見てもらわないと分からないが、ジェットブラックを筆頭にした本体デザインの向上や、美しさと見やすさを増した新世代Retina HDディスプレイの進化もかなりのものである。iPhone 7とiPhone 7 Plusによって、iPhoneは新たなステージに入ったといえるだろう。
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