2016年09月09日 (金)
大阪フィルハーモニー 首席指揮者・井上道義さんに聞きました!
きょうは7月に行われた「大阪フィルハーモニー交響楽団 第500回定期演奏会」の模様を放送する、Eテレ「クラシック音楽館」を紹介します。
「ぐるかん」ゲストに、大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者の井上道義さんが来てくださいました。たっぷりとお話をお聞きしましたのでぜひご覧ください。井上さん、おもしろくて楽しい方です!
※9日(金)放送「ぐるっと関西おひるまえ」抄録です。
井上道義
1946年 東京生まれ
1973年 指揮者デビュー
2014年 大阪フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者 就任
熊谷:
サブローさんはクラシックに詳しいですか?
サブロー:
大阪のシンフォニーホールに1回行っただけ。首根っこつかまれてね。やっぱり敷居が高いから。
井上:
敷居ってあっても良いんですよ。ただ、ぼくの仕事っていうのは、その敷居をこうやったら乗り越えられるよとか、こうやったらカギが開けられるよって、そういう役目だから。きょうは呼んでくれてありがとう。
サブロー:
こちらこそありがとうございます。行ったらすごい迫力を感じたんですよ。あと、指揮をされる方、かっこいいな!と思ったんですよ。要は客席に後ろを向けてるんですよね?
井上:
前向いてたらできないでしょ(笑)。
サブロー:
それなのに、ブンってやったら一斉に始まる。気持ちいい仕事やろなぁ~!ってぼくら思う。
井上:
指揮者っていう仕事はとてもおもしろい仕事です。本当におもしろい仕事です。大変なことは大変ね。大変だけど、いろんなことと比べても、指揮者は本当におもしろいですよ。
熊谷:
そのなかでも井上さんは首席指揮者なんですよね。
井上:
そんなのはなんでも良いんですけど、この間500回をやったんですけど、良い演奏したんだ。それでいまやってるのはフェスティバルホール。中之島にある。前からあるけどきれいになった。昔行ったけど、まだきれいになったのを見てないって人は来てほしい。
サブロー:
新しくなってからは全然違いますか。
井上:
全然違う。
熊谷:
オーケストラというのは大体何人くらいの方がいらっしゃるんですか。
井上:
そりゃあオーケストラは世界中にいろいろあるし、例えばウィーンの有名なオーケストラ、ウィーンフィルなんかはもともとオペラのオーケストラなんですね。250人くらいいるんですよ。そのなかの何人かがフィルハーモニーというのをやっているんですけど。あとベルリンフィルハーモニーでも100人は超えてるかもしれないけど、いろんなオーケストラがいます。ぼくは「アンサンブル金沢」っていう金沢のオーケストラをやってますけど35~40人ですね。
サブロー:
じゃあ人数はバラバラ?
井上:
大体昔はちっちゃかったんだよ。大体指揮者なんかいらなかったんだよ!大きくなってしょうがないから指揮者っていうのができてきたんだよね。
熊谷:
大フィルさんは何人くらいいらっしゃるんですか。
井上:
70人くらい。いまどんどん若い人入ってきているし、最近女性が多いんだよ。
熊谷:
そうなんですね!じつはわたしの友だちも大阪フィルハーモニー交響楽団(以下、大フィル)でバイオリンをやっているんですよ。ランナーなんですけど、100kmくらい走る。でも、すごい大人数のなかで指揮をされるというのはどんなお気持ちなんですか。
井上:
例えば100人いたとすると、お客さんが2000人いたとしても、20人に1人のチケットのお金で楽団員を養わなきゃならないでしょ。だから不可能なんですよ、ほとんど。だからものすごくいつも時間がないんですよ。だから練習は定期演奏会とか本当に大事な演奏会でも3日とか、どんなにがんばっても4日しかやらないんですよ。だからいつも時間に追われてる!そんな感じ。そういう点じゃあなたと同じかも。
サブロー:
いやいや、結構のんびりしてるんですよ。忙しいふりしてるんです(笑)。
井上:
きょうだって30分待たされたよ。
サブロー:
いろいろありましたからね、生放送のかなしさです。
※特別編成のため放送時間に変更がありました。
井上:
音楽やっててね、本当に平和じゃないと何もできない。オーケストラなんかもちょっと地震があったらできないし、本当にぜい弱なもんですよ。ぼくも生まれて70年近いけど、戦争ない時代でね、だから本当に運が良いんですよ。世界中戦争ばっかりやってるでしょ。だからね、ここをなんとか上手く乗りきってほしいと思いますよね。なんかちょっとこういうことがあると、このことでは大丈夫だろうけど、ほかのことで刺激されると危ないね。だから気をつけないといけないね。
サブロー:
すごいですね。指揮から平和のことまで。
井上:
だっておれ3年前に死にかけたから。病気でね。
サブロー:
そうなんですか!そんな気配全然ないですね。
井上:
毛ははえてないよ!(笑)
一同・会場:
(爆笑!!)
サブロー:
こんな切り返し、この方から来ると思わなかった!いまボディーブローのように効いちゃいました(笑)。ありがとうございます、本当に。
熊谷:
世界で活躍されている井上さんですけども、子ども時代はどんなだったんでしょう。
サブロー:
かわいい~!かわいらしいわぁ。カメラ持ってますやん。
井上:
これはおじさんがカメラマンだったんですよ。
サブロー:
これはイイとこのおぼっちゃんじゃないですか!?
井上:
確かにイイとこのおぼちゃんでしたよ(笑)。
サブロー:
だって、こんなコート着て、カメラあってね。
井上:
これ戦後すぐですからね、このコートは母親が毛布で作った。
サブロー:
おしゃれですやん。ボタンもかわいいし、センス抜群やないですか。
井上:
もうとっくに死んでるけど、生きてたらよろこぶ。
サブロー:
このころは何になりたかったんですか。
井上:
なんも思わないよ。このまま子どもでいたいと思ったかもしれない。
サブロー:
いつ頃から指揮者になりたいと思ったんですか。
井上:
この写真のときくらいかちょっと大きくなったときに、となりに駐留軍の子どもがいて、一緒に遊んだりして、そのお父さんが朝鮮戦争で、米軍パイロットで行って帰ってこなかったの。だから子どもながらに、そのとき初めて戦争ってどういうものかわかった。ぼくはハーフなんです。この話をすると長くなるけど、いろんな事情があって、日本語しかしゃべれないけど、子どもって英語と日本語でしゃべれるんだよね。そんな仲良かったんだけど、ある日突然アメリカに帰っちゃった。でもそのお母さんっていうのが、ぼくが40年後にシカゴのオーケストラで振ったときに見に来てくれてよろこんでくれた。本当によろこんでくれた。
サブロー:
そっかぁ、あの子がこんなに立派になっててうれしいでしょうしね。
井上:
さっきの質問ね。14歳のときにね、お前は義務教育は中学までだから高校まではやらんとぞと突然言われてね、イイとこの坊ちゃんのくせにそんなこと言われたからすごいショックで、それでなんていう父親だ!と思って、もうこの野郎って、ものすごい反抗期で。そう思ったんだけど母親に、お父さんはアメリカで育った日本人だけど、すごい苦労してる。すごい差別にもあってるし、アメリカで生まれた黄色いやつってことで日本に逃げてきたりして、逃げてきたらスパイ扱いされて大変だった。だからそういう苦労した人がそういうことを言うのも無理はないんだって。それで、そうなのかと思って。で必死になって考えて、何もできないな、おれどうしたらいいんだ、おれはハッピーなのに、このままやりたい、それにはどうしたらいいんだ!って紙にたくさん書いて、2か月後に決めたのが指揮者だった。
サブロー:
いろいろ学校とか選択肢があるなかで指揮者に!?
井上:
コメディアンも考えたよ。
サブロー:
あきらめたんですか?
井上:
うん、おれその頃こういうふうに話せなかった。
サブロー:
ちょっとシャイな子でした?
井上:
ものすごく。こういうふうにしゃべれるようになったのは指揮をやるようになってから。指揮はどうしてもコミュニケーションが必要だから。
井上:
これはぼくが25歳くらいですかね。
サブロー:
フサフサやし(笑)。
井上:
顔は同じでしょ(笑)。
サブロー:
かっこいい、男前!モテたでしょー。
井上:
いまだってモテるよ!
サブロー:
でもねぇ、もっとすごい。
熊谷:
デビューの頃ですよね。デビューが1973年、イタリア・ミラノのスカラ座でデビューされたんですよね。
井上:
すごくびっくりした。ちょっと夏休みに、外国あまり知らないから腕試ししてみようと思って行っちゃったから。
サブロー:
急にできたんですか、スカラ座に行って。
井上:
それはコンクールですから。いまはそのコンクールなくなっちゃったけど。例えば、この辺の人だったら佐渡裕さんとか小澤征爾さんとか、みんなブザンソンっていうフランスのコンクールで。夏はブザンソンやってなくて、それで行ったんだよ。それでものすごくてんぐになってね。
サブロー:
でも本場で喝さいになって。
井上:
うん、すばらしい。
サブロー:
日本と文化も違うしね。
熊谷:
でも指揮者として壁にぶつかったりしたことはあるんですか。
井上:
指揮者としてというより人間としてはある。ぼくは指揮者になりたいなと思ってなっちゃったわけ、24歳くらいで。どうする?漫才師になりたいと思ってなった?
サブロー:
なりましたね。
井上:
それで、なって…悩みません?
サブロー:
ずーっと悩んでます!
井上:
そうでしょ!それと同じ。普通の人と同じ。壁っていつもここにあるのね。壁を壊すことが、あきらめちゃったらこんなつまんない人生ない。例えば父親、先生も壁だしさ。自分にできないことばかり言うんだから。
サブロー:
ダメ出しもあるし。
井上:
そう。こうやって出てても、きっと壁のあっち側でなんか言われるでしょう。
サブロー:
そうか、それ(笑)。きょうは上手いこといったー!って日はあるんですか。
井上:
あるある。それ言っちゃいけないんだけどね、あるんですよ。でもね、少ない。
サブロー:
500回やられたら何回くらい?
井上:
いや、数えてない。ぼくが500回やったわけじゃないですからね。大フィルが500回で。ぼくはいろいろやってるけどね。500回だけじゃないけどね。
サブロー:
ぼくらも漫才やってて、年間2、3回あるかないかぐらいでした。漫才師やってたとき。
井上:
それはハッピーな人ですよ。良いんじゃないですか、それで。
サブロー:
そうですか…。なんか諭された!
熊谷:
ここで音楽以外の話を伺いたいと思うのですが、聞くところによりますと、以前アヒルを飼われていたと。こちらですね。
熊谷:
かわいい!
井上:
2匹飼ってた。
サブロー:
これ、生命保険のCMみたいな(笑)。懐くんですか?
井上:
懐かない…。
熊谷:
えー!
サブロー:
懐かない!?
井上:
ヤギの方が懐くくらいだね。アヒルはね、餌をやるときに来るだけ。
サブロー:
なんでまたアヒルを?
井上:
中学のときに庭で飼ってたんですよ。そのノスタルジーですな。ぼくはいま東京に住んでるんだけど、この写真は雪の日だね。
井上:
古いマンションなんだけど、1階に池のようなプールがあるんですよ。それで前住んでた人がなにも使ってなかった。これ、なにかに使いたいなと思って。浅いし泳げないし…と思ってたら、アヒル飼ったらよろこぶだろうな!と思って。だからこのアヒルにとって良い人生だったと思いますよ。
サブロー:
良い人生(笑)。アヒルを大事にして。
井上:
このアヒル、「ピーターちゃんとオオカミ」にも出した。ピーターちゃんをオオカミが食べて、口から出てくるっていうのがあるんだけど、それをぼくが指揮しながら、最後「オエーオエーオエー」って出てくるそのアヒルをやってもらった。
サブロー:
ステージにも出演した!?
熊谷:
お名前はつけられているんですか。
井上:
まひる。
一同:
まひるちゃん!
熊谷:
もう1匹は?
井上:
よなか。
熊谷:
え、まひるとよなか!?
井上:
つがいね。それで卵たくさん産んで、いっぱい食べた。おいしいですよ。朝5時頃にね取りに行かないと、カラスに食べられちゃう。
井上:
これはバンジージャンプね。
サブロー:
バンジーしはるんですか!?
井上:
そう、8年ね。怖いこと好きですね。指揮者っておっしゃったようにかっこいいとか言われるけど、やっぱり自分は音を出してなくて、自分の責任で100%やってないんですよ。みんなお願いするのか命令するのか、いろいろだけど、みんな相手がやってくれるんですよ。自分の責任において命をかけたことがない。だからそういうことが好きで。例えば、パラグライダー。そういうのって失敗したら自分の命いきますよね。バンジーもロープが切れたらね。そういうのが好きですね。
サブロー:
そうですか。ぼくは踏み切れなかったですね。躊躇なく?
井上:
躊躇なく。
サブロー:
趣味、バンジー。ぼくらの世界では罰ゲームですよ。
熊谷:
こういうロケが来たら嫌ですよね。
サブロー:
嫌やなぁ。
井上:
だから、ジェットコースターとかつまんないですよ。
サブロー:
守られている。
井上:
はい。絶対安全。
熊谷:
なるほど。ではお話を戻しまして、7月22日、大阪フェスティバルホールで行われました、「大阪フィルハーモニー交響楽団 第500回定期演奏会」が18日(日)、夜9時からEテレ「クラシック音楽館」で放送されます。きょうはその演奏の模様を少しだけご紹介します。
熊谷:
「ミサ・タンゴ」とはどういう曲ですか?
井上:
ミサっていうのは昔から音楽になってるんです。クラシックってのは本当に昔からあるものなんで、教会の影響っていうのは音楽に絶対出てたんです。ミサ、レクイエムとかいろいろあるんですけど、それを普通はラテン語でやるんですよ。昔からあるヨーロッパの言葉のもとの様なものね。それをスペイン語でやっちゃうんです。それで、アルゼンチンタンゴのバンドネオンとかそういうのを入れてやるんです。だから「ザッザッザッザッ」ってやりながらお祈りをするんですよ。非常にこう…人の言葉でやらないで、体全体でお祈りできるっていうか、こういうのって大フィルにあっているというか、大阪の人たちにあってる。そう思わない?
サブロー:
聞いてみたいです。
井上:
大阪ってラテン系だと思わない?
サブロー:
大阪はラテン系です(笑)。
井上:
でしょ!ファンキー!
※VTRが流れました。
サブロー:
わ~聞きに行きたいね!
井上:
もうやっちゃったから聞けないよ(笑)。今度ぜひ来てください。
熊谷:
もう1曲、ベートーベンの交響曲第3番「英雄」をダイジェストにまとめました。ご覧ください。
※VTRが流れました。
サブロー:
うわ~良いですねぇ。
熊谷:
みなさんもどうぞお楽しみに。
そして、11月16日(水)、大阪フィルハーモニー交響楽団「平日午後の名曲セレクション マチネ・シンフォニーVol.16」があります。これはどんなコンサートなんですか。
井上:
音楽会って大体夜じゃないですか。お時間のある方は午後に来ていただきたいと思って。夜出にくい方はね。そういう音楽会です。ぼくはそれをずっと大フィルで首席指揮者になる前からやってます。
サブロー:
いろいろやってらっしゃって、まだまだパーフェクトな達成感は得ていないみたいなお話をチラッとされましたが、夢なんていうものはあるんですか。
井上:
人間、未来の夢っていうのは見れないんだよ。夢ってイメージはわかるんだけど、夢ってみんないままで経験した過去の出来事をぶっ壊して、それで作り上げて、夜見るもんでしょ。だからやっぱり、これから先に進むのも、ちょっとさっきの核実験に影響されちゃうんだけど、やっぱり平和なんていうのも、いろんな理由でこんなことをやっちゃうわけだから、朝鮮戦争の前からもっといろんなことができてるから、ちょっとひも解かないと。だからそれが政治なんでしょうけど。ぼくは音楽でそういうことはできないんですよ。まあ平和を祈って演奏するしかない。
これからも演奏楽しみにしています。井上道義さん、ありがとうございました!
「大阪フィルハーモニー交響楽団 第500回定期演奏会」は以下で聞くことができます。
クラシック音楽館
大阪フィルハーモニー交響楽団 演奏会
9月18日(日)
Eテレ 夜9:00~
ブラボー!オーケストラ
10月23日(日)
FM 夜7:20~
※ベートーベン交響曲第3番「英雄」を放送予定。
大阪フィルハーモニー交響楽団
「平日午後の名曲セレクション マチネ・シンフォニーVol.16」
11月16日(水)
午後2時 開演
ザ・シンフォニーホール
※詳しくは以下まで問い合わせください。
TEL:06-6656-4890
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