Googleやリクルートが取り組む理由--量子アニーリング理論の可能性(3)

吉澤亨史 山田竜司 (編集部) 2016年09月09日 07時00分

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 最先端技術である量子コンピュータ「D-Wave」が注目を集めているが、根本にあるのは「量子アニーリング」理論だ。量子アニーリングは、どんな組み合わせが最適かを計算する「組み合わせ最適化問題」の解法の1つとして研究されているものである。その可能性について、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教、大関真之氏と、早稲田大学高等研究所助教である田中宗氏が語った。今回は3回目(第1回)(第2回)。

--量子アニーリングの計算手法を使った、企業に対する事例を教えてください。

田中氏 リクルートコミュニケーションズとの共同研究を例にご紹介します。例えば、顧客の行動情報をもとによりよい提案をすること、いわゆるマッチングです。行動情報の解析に組み合わせ最適化問題があります。量子アニーリングをソフトウェア実装し、古典コンピュータを使って組み合わせ最適化問題を解きました。

 この成果は、量子アニーリングに関する唯一の世界的な国際会議「Adiabatic Quantum Computing」がこの6月にGoogle LAで開催されたので、そこで研究結果を発表しました。

 アドテクノロジの分野では、ウェブ上の顧客の膨大な行動履歴をもとに、組み合わせ最適化問題を解くことにより、効果的で効率の良い広告を配信することが大事な課題です。例えば、顧客がたくさんいるときに、その行動履歴や顧客の属性などから顧客をグループ分けする、いわばクラスタに分類します。ここに組み合わせ最適化問題があります。たとえば、こういうカテゴリの人にはこういう広告を提案した方がいいといった分類を、量子アニーリングを用いたデータ分析により発見するという感じです。

--今後どのように進んでいくのでしょうか。

田中氏 現段階で、量子アニーリングを本当の意味で産業応用したというわけではありません。そこまでは何段階も必要です。事例を他のさまざまな業種の方々との共同研究を通じて発表し、産業界に紹介している段階です。

 私がもともと2009年くらいから取り組んでいる量子アニーリングを機械学習、クラスタ分析に適用するという研究では、データの数が1000個程度でした。しかし産業応用の実用に耐えるためには、はるかに膨大なデータを取り扱う必要があります。現段階では、そうしたデータに対してもきちんとデータ処理が可能であるかを検証している段階です。量子アニーリングを使った方法が別の方法に比べて優位であるという結果はいくつかの事例で確認しています。


Adiabatic Quantum Computingの会場となった量子コンピュータを制作中のGoogle(サンタバーバラ)のロゴ。量子力学の特徴的な記法で表されている(大関真之氏提供)
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