臨床脳波検査では、脳波計を使用して全頭もしくは必要な部位の脳波を記録するが、医学系以外の分野では病気を診断するわけではないので、α波およびβ波だけをみる目的で前頭部(Fp1,Fp2)の脳波だけをとっていることも多い。医学用ではない「簡易型脳波計」という名称などで市販されているものの多くはこれである。
すでに述べてきたように、正常成人の脳波は、安静閉眼時においては両側後頭部優位にα波が出現し、多くの場合前頭部では小さいかほとんど出現しない。下図は、同側耳朶(A1,A2)基準で記録した正常成人の脳波(全チャネル同一感度)で、左半分が閉眼、右半分が開眼である。閉眼時は、α波が後頭部O1,O2を中心に高振幅で出現し、前頭部では非常に小さい。したがって、Fp1-A1のように前頭部だけの脳波ではα波の検出率が低下するうえ出現率などの精度を高くすることも容易ではない。なかには前頭部にはほとんどα波が出現しない人もいる。一方、開眼時ではα波は消滅し、ほとんど低振幅のβ波だけになっているが、Fp1,Fp2には筋電図が入っている。この例では筋電図はそれほど大きくないが、開眼時にはFp1,Fp2にかなり大きな筋電図が入ることも多い。また、この例では入っていないが、下のQ8に示す図では瞬目による大きなアーチファクトが記録されている。また瞬目以外の眼球運動によっても大きなアーチファクトが入る。前頭部の脳波を評価する際には、このようなアーチファクトの処理が必須になり、それにはかなりの困難を伴うことも多い。その結果ようやく得られた脳波も、信頼性があまり高いとはいえない。
以上の理由から、、前頭部だけの脳波では、α波の振幅、出現率、あるいはβ波との比率を検討する目的では適当ではないと考える。とくに、閉眼安静時や睡眠中はともかく、開眼状態での信頼性は非常に低くなる。簡易型の装置で前頭部だけの脳波をとっている理由として、ヒトの脳の高次機能に関わる前頭葉の脳波をみたいということのほかに、頭髪がなく電極を装着しやすいということが大きいのではないか。 Fp1,Fp2だけの脳波で論じられている時、脳波の原波形が示されていて、アーチファクトの処理方法が明示されている場合以外は、信頼性は高くなく、脳波の論文としての価値は低いといわざるえを得ない。 そのような一例を、脳波の誤解?Q6に示している。
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