2年5.2万キロ、テスラモデルSのバッテリー劣化

本日2016年9月8日でテスラモデルSは納車からちょうど2年を迎えました。現在の走行距離は52,000kmほど。バッテリー劣化はどのくらいでしょうか?

モデルS 納車2年後

テスラモデルSは、テスラCEOであるイーロンマスク氏が2014年9月8日に来日して納車開始されました。そのイベントのときに17台が納車されましたが、この車はそのうちの1台なのです。

モデルSには電池の残量を示す航続距離計があり、4種類の残量表示ができます。一番良く使われているのは「標準値(Typical Range)」。夏場エアコンをかけた状態で時速100km以下に抑えて(汗)走行すれば、実際に標準値で示された距離が走行できます。「定格値(Rated Range)」はNEDCという欧州の規格に基づいた航続距離を示し、かなり多めに表示されるので当てになりません。最後に%表示。これは0%-100%まで表示されるというものです。

電気自動車のバッテリーは必ず劣化します。走行距離と経年変化で、少しずつ容量が減ってしまうのですが、劣化の程度は常に均一ではなく、最初に多く劣化し、後のほうでは劣化の速度がかなり遅くなると言われています。
実は、%表示では100%でも、モデルSではバッテリーの劣化につれて標準値はだんだんと減少していきます。つまり、標準値を見ておけば、バッテリーの劣化を測定することができるのです。これは逆の言い方をすれば、テスラ社はモデルSのバッテリーの劣化度をソフトウェアで定量化(それも有効数字3桁程度で)できている、とも言えます。なかなかスゴイ技術ですよね。

満タンチャージ
満タンチャージ
私のモデルの納車後、初めてバッテリーを100%充電したときは、標準値は394kmでした。そして約2年後の2016年8月26日(富士山に行った日です)、標準値は382kmまで減少していました(スクリーンショットの左下)。するとバッテリーの劣化は

(394 – 382) / 394 = 3.0%

ということになります。この写真の時点での航続距離は52,310km。かなり走行していますね。

電気自動車にお詳しい方は、なんでテスラはこんなにバッテリーが劣化しないんだ、と感じられると思います。ガソリン車ですら、納車2年後5万キロ以上走行して、燃費が3%しか悪化しないことはなかなか考えにくいかも知れません。
その理由はバッテリーそのものとバッテリーの管理技術にあると思います。バッテリーはテスラとパナソニックが開発しているわけですが、このバッテリーは電気自動車専用に開発されたもの。容積密度(Energy Density。重量密度はSpecific Energy)が非常に高く、車両の底面に敷き詰めるだけで85kWh以上の容量を搭載できます。管理は大きく分けて3つ。温度管理、充放電速度の管理、そしてバッテリーのバランスです。

TM-Spy モジュールごとの温度
TM-Spy モジュールごとの温度
まず温度管理ですが、テスラモデルSはバッテリーを冷やすバッテリークーラーとバッテリーを暖めるバッテリーヒーターを搭載しています。特にクーラーはクーラント(冷媒、冷たい冷却液みたいなもの)をバッテリーのモジュールの中にまで配置し、各モジュールの内部まで均等に冷却して部分的に熱くなってしまうところが出ないように工夫されています。16個の各モジュールにはクーラントの入り口と出口にそれぞれ温度センサーが取り付けられ、適切な温度に保たれています。画像はモデルSの診断コネクターをOBD2に変換してBluetoothで飛ばせるTM-Spyというソフトウェアの画面ですが、各モジュール間の温度差は何と0.9℃にキープされています。今は残暑ですが、冬にはバッテリーヒーターが大活躍。0℃くらいの気温なら一晩屋外に車を放置してバッテリーが冷え切っていても、すぐ急速充電を開始することができます。最初はバッテリーヒーターが入って少しバッテリーを暖めつつ、充電していくのです。

充放電速度の管理はどの電気自動車でも行っているものですが、特にテスラではスーパーチャージャーが120kWで充電することができますので、下手するとすぐに電池を痛めてしまいます。気温が高いときはバッテリークーラーが稼働しますが、残量があるときは電流を多く、気温が高く残量が少ないときは電流を少なくし、ある程度バッテリーが冷えてから充電速度を上げます。気温が低いときはまずバッテリーヒーターで温度を少し上げてから電流を少しずつ流してバッテリーを暖めます。ある程度暖まってから電流を多く流して速度を稼ぎます。スーパーチャージャーで充電中はバッテリークーラーはフル稼働していて、あまりにも気温の高い時などは車内のエアコンが効かなくなるほどです。

TM-Spy ブロックの電圧のばらつき
TM-Spy ブロックの電圧のばらつき
バッテリーのバランスというのは、16個のモジュール内にある計96個のブロックの能力のバランスを取ることを意味します。モデルSのバッテリーは96ブロックが直列なので、それぞれのブロックには同じ電流が流れます。ということは、充電中は一番電気がたくさん貯まっているブロックがいっぱいになったら終了、走行中は一番電気が少なくなっているブロックが空になったら終了で、すべてのブロックの性能を生かし切ることができません。モデルSでは各ブロックにはバランス用の抵抗(bleeding register)が設置されており、CPUの指示で定期的に各ブロックの電圧が同じになるように調整しています。画像は各ブロックの電圧を表示しているもので、この時点ではバッテリーの充電が85.9%、ブロックの電圧は4.030Vから4.034Vの間になっており、ブロック間のばらつきはたった4mVしかありません!(無負荷時)

テスラとパナソニック、なかなか凄いですね。

TM-Spy Pack Power
TM-Spy Pack Power
最後におまけ。先ほどご紹介したTM-Spy(このソフトウェアは限定公開です)では、バッテリーパックの出力も測定することができます。画像がその画面で、青が電流値(スケール左)、赤が電圧値(スケール右)です。これは安全な場所で超短時間フル加速したときのデータですが、電流はピークで約1150A、その時の電圧は259Vくらいですので、ピーク出力は297kW(403馬力)くらい。その後電圧は348Vに回復していますので、負荷がかかったことによって(348 – 259) x 1150 = 約102kWものロスが熱に変わっていることになります。
凄く無駄になっているようにも感じますが、102kWは102 / (308 + 102) = 約25%となり、逆に最大出力時でも効率が75%にも達していることを示します。化石燃料車ではどんなに優れた機構で、最も効率の良いところでも40%です。
またこのスクリーンショットの時点ではバッテリーの残量が27.1%しかありませんので、仮に満充電を404V、フル加速時の電圧降下を-100V(先ほどの実測値は-89V)と仮定すると、(404 – 100) x 1150 = 349kW(474馬力)となります。この車、スペックでは310kWなんだけどな。。


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