安倍晋三首相が再改造内閣の「最大のチャレンジ」と位置付ける「働き方改革」の本格議論がスタートする。誰もが働きやすい社会が実現するのか−。具体策を示してもらわなければ、分からない。
首相が何度も繰り返すこの言葉は、一体どういう意味なのか−。
増え続ける非正規労働者を減らすというのであればいい。
しかし、逆にもし正社員をこの国からなくし非正規という働き方が標準になれば、「非正規」という言葉はなくなる。そうならば恐ろしい。
焦点は雇用形態による賃金格差をなくす「同一労働同一賃金」と長時間労働の抑制とみられる。
日本では非正規労働者の全労働者に占める割合は四割近くに達する。正社員との賃金差も大きい。
非正規の賃金底上げや、福利厚生の向上、休日・休暇の取得などにつながるならいい。だが、こうした働く人に望ましい方向に議論は進むのだろうか。
欧州では、同一労働同一賃金が一般的とされるが、欧州と日本の雇用慣行は大きく異なる。
欧州では、仕事の内容に応じた「職務給」が一般的だ。対して日本の正社員は経験や仕事をこなす能力に着目した「職能給」が主流。長期雇用を前提とした年功賃金の枠組みの中で、職務の範囲は明確ではない。残業や転勤ができるかという点も考慮される。
欧州型の体系を導入すれば職務が限定的な職務給が主流となり、正社員は不安定化し、長期雇用の崩壊につながる恐れも考えられる。つまり「総非正規化」するのではないかと。
先進国で最悪レベルの長時間労働を抑制することは早急に取り組むべきだ。過労死はあってはならない。加藤勝信担当相は、残業時間の上限規制を検討する考えを示したが、当然でもある。
ただ、政府に本当にやる気はあるのか。というのも過重労働を促すとの懸念が強い「残業代ゼロ」法案の成立を目指しているからだ。長時間労働を是正するというのであれば、同法案も含め再検討するべきだろう。
これまでにも、派遣労働者を増やす改正労働者派遣法を成立させ、不当な解雇が増えると懸念される「解雇の金銭解決」制度を提案してきた経緯がある。
今回は真に働く人のためになる改革なのか。しっかりと、見極めていかねばなるまい。
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