中国・杭州でのG20首脳会議から始まった一連のアジア外交行事は、ラオスでの東アジアサミットで一区切りがついた。

 焦点の南シナ海問題については、どの会議も全体的に中国への直接的な批判を控えた。

 特に、常設仲裁裁判所が中国の主張する権利を否定した判決は、強く取り上げられなかった。中国当局の外交努力の結果であることは確かだろう。

 しかし、こうした国際会議での文言の駆け引きに一喜一憂するのはあまり意味はない。南シナ海問題は今後も米国や周辺国と中国との対立の要因であり、仲裁裁判所の判決は中国の行動を拘束し続けるものだからだ。

 そもそも緩やかな結束をめざす親睦的意味合いの強いアジアの外交行事で、分断を強調するのは得策ではない。東南アジア諸国にとっては、米国につくか中国につくかを明確に選択しないのは賢明な対応なのだ。

 一連の会議結果がどうであれ、オランダでの裁判に参加すらせず、全面的に敗訴した中国は、その重みを直視すべきだ。南シナ海の大半の海域に歴史的権利をもつという主張は、国際ルール上、認められない。

 岩礁埋め立てによる拠点づくりは軍事的な緊張をもたらすほか、周辺国は漁民への影響にも神経をとがらせる。東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、南シナ海の現状への懸念が表明された。

 オバマ米大統領は南シナ海問題で判決を尊重するよう杭州での米中会談で主張したが、比較的抑制した姿勢が伝えられた。その分、日本の主張が強い印象を与えたこともあり、中国の反発は厳しい。

 だが、日本が世界有数の海運国として、重要航路である南シナ海で覇権を求めるような中国の振るまいを警戒するのは自然な反応だ。仲裁裁判所の判断に従おうともせず、「法の支配」に背を向けながら他国を非難するのは、自らが主張する「平和志向の国」のあるべき姿からはかけ離れている。

 東アジアが不安定化すれば、中国と日米を含む関係各国の利益を深刻に損ねることになる。世界の経済成長を引っ張るアジアの長期安定こそを国際社会は望んでいる。

 ASEANと中国は今回、南シナ海問題を平和的に解決する「行動規範」づくりで改めて合意した。時期の明記がないのが気がかりだが、空約束とせず、真剣に協議を進めてほしい。

 日本も、この協議を見守りつつASEANを支援し、中国に粘り強く働きかけるべきだ。