ソフトバンクとWireless City Planning(WCP)は9月8日、「5G Project」を開始することを発表しました。このプロジェクトは、「5G」こと「第5世代移動体通信」の新技術を2020年までに順次商用サービスに反映し、ユーザーに提供することを目的としています。
その第1弾として、9月16日からSoftBank 4G(AXGP)エリアの一部で「Massive MIMO」が順次導入されます。Massive MIMOを商用の携帯電話ネットワークに取り入れるのは、ソフトバンクが世界初だといいます。
ところで、この「Massive MIMO」とは一体何なのでしょうか。そして、その導入はユーザーにとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
「MIMO」は「Multi Input/Multi Output」の略で、複数のアンテナを同時に使ってデータの送受信を行う技術のことです。無線LAN(Wi-Fi)では「IEEE 802.11n」「IEEE 802.11ac」という規格でMIMOを使ったデータのやりとりに対応しています。
「Massive MIMO」は「大規模MIMO」、つまり「送受信に使うアンテナを大幅に増やしたMIMO」ということになります。今回のソフトバンクとWCPの取り組みでは、通常は4本または8本であるAXGP基地局のアンテナを最大128本に増やします。
無線LANにおいては、アクセスポイント・端末両方でMIMOに対応することで通信速度をより高める効果を狙っています。それに対し、今回の両社の取り組みは、同時にデータをやりとりできる携帯電話の数を増やしてより快適に通信できるようにすること重きを置いています。
携帯電話は、同じエリアにいる他の携帯電話と基地局アンテナを共有して通信します。そのため、携帯電話の台数が増えれば増えるほど、通信速度は低下しやすくなります。
そのため、アンテナが増えれば通信を占有できる可能性が高まり、そうでなくとも1アンテナあたりの携帯電話の台数を減らせるため、速度低下は抑えられる……はずのですが、単純にアンテナを増やしただけでは電波の混信がひどくなって余計に速度が遅くなる可能性もあります。
そこで、Massive MIMOでは「ビームフォーミング」という技術も取り入れています。ビームフォーミングは電波を通信相手(携帯電話)に集中して向ける仕組みで、他の携帯電話・基地局との電波干渉を防ぎ、通信品質を向上できるメリットがあります。
では実際にどれほどの効果があるのか、というところが気になるところですが、両社が9月2日から5日までの間に東京都の4カ所(浅草・新橋・飯田橋・新宿)で混雑する時間帯に15台の携帯電話で同時に通信するテストをしたところ、Massive MIMOが有効な環境下では平均で6.7倍の速度改善効果があったそうです。
通信速度が改善するということは、データのやりとりが完了するまでにかかる時間も短くなるため、「データが降ってこない」といったイライラは確実に軽減できることになります。
また、Massive MIMOを未導入の他キャリアとの比較として、東京都立川市内で「100人同時に1MBのデータをダウンロードして、何人が10秒以内に完了するか」という検証も行ったそうです。結果はa社が100人中34人、d社が100人中49人の成功だったのに対し、Massive MIMOが有効な状態のソフトバンクでは100人全員が成功したそうです。
ただし、データ通信のチューニングは「初速重視型」だったり「中途加速型(データ量が大きくなるとスピードを上昇する)」だったりとキャリアによって挙動が異なるため、参考程度に見ておいても良いかもしれません。
なお、2014年以前に発売されたSoftBank 4G対応機種では、東名阪以外のエリアではMassive MIMOを利用できないとされています。これは、基地局と端末双方の都合によるものです。
ここまで読むと分かる通り、両社によるMassive MIMO導入は「最大通信速度を上げるため」というよりは「混雑時の通信速度を改善するため」に行うものです。そのため、9月16日のサービス開始時点では全国の都市部にある100個の基地局から対応し、その後も都市部を中心に対応エリアを広げていく計画です。
一方、通信容量の逼迫(ひっぱく)していない地域では、現時点でも十分な通信速度・品質を得られるため、Massive MIMO化は行わない見通しです。ただし、通信容量が今後さらに増大していくと、Massive MIMO対応の基地局を整備する地域は広がる可能性があります。
今後、両社はProject 5Gにおいて「同時接続(数の向上)」「高速通信」「低遅延」の分野における新技術の投入を進めることにしています。
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