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沖縄振興予算  基地問題につなげるな

 内閣府は2017年度予算の概算要求で沖縄振興費を前年度当初予算より140億円少ない3210億円とする方針を自民党に提示した。翁長雄志氏が知事に就任後、概算要求額が前年度予算を下回るのは初めてだ。
 内閣府は一括交付金で繰り越しや不用額が生じている現状を考慮したと説明したが、素直には受け取れない。菅義偉官房長官は今月に入り、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を含む米軍基地の返還が進まなければ振興費を減らす可能性を示し、基地問題と振興予算を関連づける「リンク」論を展開している。鶴保庸介沖縄北方担当相も同様の見解を示した。
 そうした一連の発言と今回の減額は無関係ではあるまい。普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、国と対立する翁長知事へのけん制とみるのが自然だ。政府内には移設計画に反対しながら振興予算の増額を要求し続ける知事への不満があるというが、国の政策に沿わない相手を予算で揺さぶり、圧力をかけるような強権的なやり方をとるべきではない。
 そもそも沖縄振興費は、戦後27年にわたり米施政権下に置かれ、今も在日米軍基地の負担が重い沖縄の特殊事情を考慮して、本土との格差を縮めるために設けられている予算である。
 その根拠となる沖縄振興特別措置法は、沖縄の自立的発展と豊かな住民生活の実現に寄与することを目的としており、基地問題を巡る政府への協力の度合いによって左右されてはならないものだ。
 菅氏らの一連の発言と今回の減額方針は、基地問題と振興費を切り離して対応してきた従来の政府の立場の方向転換であり、復帰後の沖縄振興策の根幹に関わる大きな問題をはらんでいる。
 辺野古移設を巡っては、今年の県議選で反対派が過半数を維持したほか、参院選でも沖縄選挙区の野党統一候補が現職の沖縄北方担当相を大差で破った。衆参両院の沖縄選挙区全てで自民党が議席を失った事実が、沖縄の民意を明確に示している。
 それでも政府は強硬姿勢を一向に改めようとしない。参院選が終わると、辺野古移設をめぐる新たな訴訟を起こし、米軍専用施設「北部訓練場」でのヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)工事に力ずくで着手した。
 加えて今回の振興費の減額方針である。旧態依然とした「アメとムチ」政策が県民感情を一層悪化させるのは目に見えている。政府は発想の根本から改めるべきだ。

[京都新聞 2016年08月27日掲載]

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