ワタクシの人生の記憶は3歳の頃、真っ赤な日産サニーの後部座席から始まる。
カーチャンの話によると、家族旅行の途中に立ち寄った高速道路のサービスエリアで、トーチャンが運転する車にどこぞのオジサンがオカマを掘ってきたらしい。
オジサンは、自分の非を認めて修理代を払うから警察呼ばないで!と懇願してきたので、まぁ、ならいいよ!という話になったと。ところが、手持ちのお金がないから家からお金を取って来るのでちょっと待っててもらえますか?と言って去って行ったらしい。
それから2、3日ずっとサービスエリアで待っていたけど、待てど暮らせどそのオジサンは帰ってこなかった。ワタクシのおぼろげな記憶も、なんだか車の中にずっといてヒマだったというものである。
とにかく、ウチのトーチャンとカーチャンがものすごいお人好しで、人を信じやすい性格であるということなのだ。そんなことだから、物心ついてからトーチャンとカーチャンが散々、人にダマされる光景を目撃してきた。
新興宗教、ねずみ講に超能力者、先物取引の営業マンから商工ローンの金貸し屋、欠陥住宅を売りつける不動産屋、胡散臭い健康食品や健康グッズを売る人、換気扇を拭き拭きして3万円を請求する人 etc...
思い出せばキリがないほどネタがある。幸か不幸か家族全員いまだに新興宗教に入信しているし、トーチャンは内緒でワケの分かんない健康食品のねずみ講に入っていると思われる。
小さい頃からダマされる両親を見て育ったワタクシは、最初は純粋にダマした相手を憎んでいたが、次第にダマされるトーチャンやカーチャンがアホだと思うようになった。でも、そんな両親を守るため、また、自分はダマされないようにと法学部に進んだ。
ワタクシが成人してからも、トーチャンがAムウェイ始めて大ゲンカになったり、カーチャンが超能力者から買ってきた開運グッズを返品しにいったら超能力を掛けられたり、高い水素水生成器を買ったのに効果が怪しいとか、事件が起こるたびにトーチャンカーチャンの世話をするハメになっている。
ただ、あまりにもよくダマされるので、我が家では「またダマされた~!」とガマの油売りから謎の軟膏を買ってしまったノリで楽しむようになった。話が古いので最近のネタで言えば、グルーポンでおせちを頼んだらスカスカだったけど、家族の絆が深まりました!という感じである。
ワタクシが就職して家を出てからも、実家から電話がかかってきてソフトバンクの代理店を名乗る会社から携帯代が安くなると言われてガラケーを買ったけど、なんかホッカホッカなので見てくれ!などPCデポのサポート的な仕事に事欠いたことはない。
このガラケーは、調べたら初期不具合のある機種でネットにいくらでも情報が転がっていたので、トーチャンにまたやられたよ!と話をしてあげたら、トーチャンはガラケーを売りつけたニーチャンに電話して、「そんな仕事はご両親が悲しむから早くやめなさい。」と優しく諭していた。
こんなトーチャンを見ながらつくづくお人好しで残念な人だと思っていたけど、社会の泥にまみれ自分も父親となり、次第にそうは思わなくなった。尊敬するD・カーネギー先生の名著「人を動かす」にもこんな記述がある。
人間はだれでも正直で、義務をはたしたいと思っているのだ。これに対する例外は、比較的少ない。人をごまかすような人間でも相手に心から信頼され、正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正なことはできないものなのだ。
「人を動かす」252ページより引用
ダマした相手に怒ってアホだのボケだの言ったところで、相手はそんなことに慣れているワケでなんとも思わない。逆にダマした罪悪感が薄れるのでありがたいと思うだろう。自分が自分の怒りの感情で苦しむだけである。
一方、人は誰しも立派な人物として扱われたいという強い欲求がある。金をいくら持っていても、やっていることが泥棒ならば誰からも尊敬されないし、自分で自分を信用できない。自分の娘にウソはついちゃダメ!なんて注意する資格もない。
まともな人間であれば、件のPCデポのニュースじゃないけど、人をダマすようなことをしているとメンタルが持たない。できれば、ウチのトーチャンがよく言うように胸を張ってできる仕事をやった方がいい。高齢者を食い物にするような仕事よりも、高齢者の介護をする仕事の方が胸を張って道を歩けるし、毎日楽しいよ。
最近、自分がトーチャンとカーチャンによく似て来たように思う。嫁に選んだ人は、50万回こすっても傷がつかないフライパンを買って来てくれて、ワタクシに返品の仕事を与えてくれた。
先日は、屋根に無料で太陽光発電をつけてくれる人が家に来て、嫁が興味津々で話を聞き始めて慌ててワタクシが超能力で追い払った。
どうやら嫁もカーチャンと同じく、人を信じやすい性格なのは間違いないようだ。でも、人を信じやすい人は人からも信じられやすい。ワタクシは疑り深い性格だが、案外、嫁のことは信用している。だから、毎日心地よい。
30年以上前、家族旅行をぶち壊したオカマ掘りのオジサンは元気にしているだろうか?我が家では、ガマの油を買ってしまった笑い話だが、オジサンは毎日、ガマや香具師に掘られる夢を見ているだろう。
と、そんな矢先にカーチャンがまたやらかした。
某PCデポのニュースで心配になって実家に帰ってカーチャンを尋問した結果、ソフトバンクでガラケー3台、タブレット1台、体組成計2台、フォトフレーム1台ついでに光のネット回線に加入しておられました。体重計とフォトフレームに電話番号が付いている意味不明な契約。タブレットはwifi専用。
— 池沼マスオ (@move_wife) 2016年9月4日
本当はこの話を書こうと思ったのだが、長くなってしまったので続きは次回。