10回見た今年最高の映画「HiGH&LOW THE MOVIE」

江波さんがこの感想文が最終回でもいい! と断言した「HiGH&LOW THE MOVIE」のレビューをお届けします。いつも相談して感想を書く映画を決めているのですが(これでも、一応そうしてるんですよ)、「HiGH&LOW THE MOVIE」はあふれる気持ちを抑えきれなかった江波さんから自主的に送られてきました。なお連載はまだ続きます(たぶん)


■映画を超えた

「映画を超える」

それが「HiGH&LOW THE MOVIE」の売り文句です。かのエグザイル一族ことLDHがそれを言う。そしてそれは、僕は、本当に、「まさに」と認識しました。この作品は映画として評価した場合、ボロだらけの作品です。それを僕が何故「最高」と評価するのかと言えば、まさに映画を超えたエポックメイキングな作品だからです。



 この稿を書き公に訴えかけられるのが公開終了間際というのが残念でなりません。正直な話、初見で大興奮したはいいものの、担当様にこれのレビューを是非書かせて欲しいと強く言い切れなかった事を悔やんでいますが、この強度でこの映画を評価するまでに、僕は繰り返し繰り返し劇場で十回見て、その上でなければこの稿を書けませんでした。そしてこの僕の微力さが悔やまれます。僕がもっと影響力のある人間であれば、この作品をもっともっと広げられたのだろうという無力感に苛まれています。

■旧劇場版エヴァに匹敵する代物

 これは僕の中で数年以来の感動を覚えた作品です。旧劇場版エヴァに匹敵する代物です。僕はロングラン上映になった事もあって旧劇エヴァを20回は見ました。「HiGH&LOW THE MOVIE」ももっと公開期間が長かったらそのぐらい見ていた事でしょう。

「HiGH&LOW THE MOVIE」は「映画として」という観点から言えば駄作と評価されても仕方ない作品です。ですが、彼らは「映画を超える」と断言し、そして超えました。映画ファンの間でおそらく嫌われているエグザイルムービー。どうせしょうもない脚本と大根演技のオンパレードだろと皆さんお思いでしょう。

 そして敢えて言いますが概ねその通りです。そこは否定しません。本当にたまに何言ってんのか聞き取れません。そんな事はどうでもいいんです、すべてはアクションと音楽です。アクションと音楽のためだけにドラマというか脚本があえて雑になっています。あえてなんて言うと計算でやってるような賢さに受け止められるかもしれませんが計算多分ゼロです。本能と直感だけで作られている作品です。


■最高のアクションと音楽、それだけでいい

 ストーリーは単純です。ケンカしてるだけ。本当にただそれだけです。まずアクションが素晴らしい。アクション監督に「るろうに剣心」の方を呼んだと言えば、かの映画をご覧になった方にはわかって頂けるかと思います。とにかく「ケンカしてるだけ」という単調で飽きてしまうであろうものを、動きに通な小技を取り入れる事でよく見れば見るほどに見応えがあります。この映画を見てからというもの、毎日エグザイルの曲をヘビロテしてしまう始末。

 脚本は雑、台詞回しは大根。ですが音楽とアクションの融合、さらには昨今、批判を恐れて無難になりポリティカル何とかを意識するようになった邦画を一蹴する、喫煙飲酒シーン、挙げ句の果てにはノーヘルでのバイク運転。それこそが「映画を超える」というキャッチフレーズに繋がっているのです。

■ありがとう、本当にありがとう、エグザイルの皆さん

 それだけの無茶をするには、当然、「エグザイル作品ならある程度、なにつくったってエグザイルファンという一定の収益が担保されている」というのもあるでしょうが、そういうポジションにいる人たちがこんなに冒険的かつ野心的、そして今まで暴走した若者たちが殴り合うというコンセプトの映画に落胆してきた方々、そういった人たちに対する最適解を魅せてくれたエグザイル一族には感謝の念しかありません。

 ありがとう、本当にありがとう、エグザイルの皆さん。映画ではなく総合エンターテイメント。映像ではなくBGMに合わせて盛り上がるようになされたカット割り。「格好良くてオシャレなPV」を造り続けてきたノウハウが遺憾なく発揮されています。


■ストーリーの破綻とかどうでもよくね?

 これは映画というより、楽曲でありアルバムです。ストーリーの雑さなど、何らかの曲に対して「歌詞が物語として破綻している」とケチつけるくらいヤボです。そして気に入ったアルバムをヘビーローテーションするように、何度も見に行ってしまうのです。

 致命的なアラなど幾らでも出てきます。それでも僕は大興奮でハマりました。一切何の権威ある賞ももらえなくたって、僕の中では本当に、最高の「総合エンターテイメント」でした。どんな話かは冒頭の五分で説明されますがもうそんなの理解しなくていいです。脊髄反射で納得するかどうかです。我々、ヤンキー漫画の実写化に絶望し続けていた方たちなら何だかよくわからないけど、何となくわかる、という状態になります。

 アクションが凄いといいましたが、一対一も素晴らしいですが、終盤の100対500の集団戦が、恐らく邦画史上記録に残って然るべき凄まじいクオリティ。計算すれば600人参加させればいいものを最終的に動員1000人だったという気合の入りぶり。


■俺に力を……!

 再三確認しておきますが、この映画はエグザイル一族のエゴでしかありません。ですが彼らは映画を超えたのです。既に公開が軒並み終わっている事もあり、見るとしたら円盤になると思いますが、僕は劇場で見て欲しかった。なのに公開終了まぎわにこんなことを。僕のふがいなさを笑ってほしい。所詮、僕の情熱など通らない。でも、でも、本当に、本当に、僕は劇場で見てもらいたかった。何故ならこれは「映画を超えた」何かだから。

くっそ……この映画ノベライズさせてほしい……僕にもっと力があれば……。

 この稿を見てまだ劇場でやっていたら、本当に、本当に本当に、見に行ってほしいです。少なくとも僕の中では今年見た映画の全てを超越しました。 よろしくお願いいたします。

※祝・応援上演決定!!

9月14日、15日に応援上映が決定したそうです!!!!!

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江波光則映画レビュー

江波光則

6月下旬に終末SF『我もまたアルカディアにあり』を刊行した江波光則氏。
もともと映画がお好きな江波氏に、「終末」つながりで「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見た感想をまとめていただきました。

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コメント

ao8l22 江波先生によるノベライズクッソ読みてえ~と思う一方、主要ファン層でノベライズを求めている人が致命的にいないのではないか?という疑念がある(本当に読みたい) 4分前 replyretweetfavorite

ericca_u ノベライズ、HIROさん考えてないのかなあ。応援上映みたいに、希望する人が多かったら叶えてくれそう、HIROさん。 26分前 replyretweetfavorite

isoparametric7 江波光則さんの映画感想文、更新しました。今回は江波さんが自費でです。 ⇒ https://t.co/WGzmG3UYdx 27分前 replyretweetfavorite

sarirahira ノベライズしてほしすぎる |江波光則|江波光則映画レビュー https://t.co/PSUCgr15xg 約1時間前 replyretweetfavorite