写真広場
写真部のカメラマンが撮影した数々のカットから、お薦めのもう1枚を紹介します
【社会】「上野こども遊園地」ひっそり幕 動物園とセットだったのに国立西洋美術館の世界文化遺産登録に沸く上野公園(東京都台東区)で、昭和の時代から親子連れに愛されてきたレトロな施設が8月末、ひっそりと幕を下ろした。 動物園正門横の「上野こども遊園地」。終戦直後から70年もの歴史を刻んできたが、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に向け、都が進める公園の大規模な改修で立ち退きを求められた。 遊園地の跡地には現代的なオープンカフェのある広場ができる。閉園を知らせる看板が立つ遊園地の前で、たくさんの人たちが思い出を語り合っている。 (神谷円香) 「自分も子どものころ、ここで遊んでいた。いままで一度も事故を起こしたことはない。経営状態も悪くないのに」。遊園地の運営会社「西村」社長の西村真一さん(58)は「ショックですよ」と肩を落とした。 樹木に囲まれた六百八十平方メートルの敷地に、遊具が集まる。飛行機や子馬がくるくると回るメリーゴーラウンド、「アンパンマン」や「ドラえもん」の乗り物…。料金は一回百円。ゆっくりと回り、上下する乗り物は、二歳から楽しめた。 空襲で焼け野原となった東京で「子どもたちに夢を」と、西村さんの祖父、鷹之丞(たかのじょう)さんが一九四六年にオープンした。もともとは公園内の別の場所にあり、昭和三十年代に現在地に移った。 乗り物券の使用期限はない。子どものころに買った券をおずおずと出す人もいた。西村さんは「ずっと取っておいてくれたのか」と、当時の料金で「二十円」と書かれた券を百円券に引き換えた。映画やドラマのロケにも使われることもしばしば。俳優の榊原郁恵さんや舘ひろしさんらが訪れた。 少子化が叫ばれるようになっても客が減った印象はなかったという。近年の売り上げは年間七千万〜八千万円で推移している。昭和レトロブームで若者や外国人観光客の姿も目立つようになった。 遊園地の前には今、閉園を告げる看板が立つ。通りかかった人たちが驚いて見ていた。台東区の靴職人竹中不二子さん(76)は「小さな子が乗っても安心だった。もったいない。寂しい」。長男の建築業雄二さん(49)も「動物園に来ると必ずここに寄って遊んだ。娯楽が少ない時代、楽しい場所だった」と懐かしんでいた。 都は「日本の顔となる文化の森」をうたい文句に上野公園の再生計画を進めている。遊園地周辺は、来年度中にオープンカフェのある広場へと整備する。 西村さんは昨年初め、都から「あと一年半ほどで閉園を」と求められた。「できるだけ続けたい」と願っていたが、隣接の飲食店でパンダの形をした人形焼き「パンダ焼き」が名物だった「桜木亭」も六月末で営業を終えた。やむなく八月いっぱいで閉園した。「行政には逆らえない。仕方ない」 都公園緑地部の犬竹幹人適正化推進担当課長は「これ以上待てないところまで配慮をしてきた。退去にはご理解いただいたと思っている」と話す。 (東京新聞)
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