どうも!
さて、藤子不二雄という希代の漫画家を語るなら外せないのが
短編SF!!
ドラえもんやパーマン等で有名ですが、真骨頂はこの短編SFにあると思っています。
子供向けのコメディ漫画を多く執筆かたわら、大人向けのSF作品も世に送り出していました。
『ノスタル爺』
主人公の浦島太吉。彼は戦後の30年ものあいだ、孤島に兵士として独り篭っていました。
おじに付き添われ帰郷し、妻の墓参りにやってきたのですが、故郷の村は、既にダムの底に沈んでいました。
太吉は生きて帰ってこれるか分からない戦況で、里子と結婚すべきではなかったと後悔していました。彼女は自分が戦死したという知らせを受けても、再婚することなくずっと独りで亡くなったからです。
彼は当時、もし自分が帰ってこなかったら、新しい男を見つけて自分の幸せを掴むよう頼みました。
しかし里子は、本当に太吉を愛していたのでしょう。
いやいやと、泣きすがります。
すると、土蔵から「抱け!!」という叫び声が…
そんな二人を見て、泣きながら「抱け!!」と叫ぶ〝気ぶり”の爺さま。
太吉は怒って怒鳴りつけちゃいます。
今の太吉はというと、墓参りの後、ダムの底に沈んだ村を見に行きます。
すると、昔よく遊んだ大きな樫木がありました。
そこで太吉は子供の頃の楽しかった思い出を色々と思い出します。
若いころの太吉と里子。
穏やかな時間を過ごす二人の前に、気ぶりの爺さまが。
里子との思い出の端々に、不思議と爺さまがいるのです。
そんなことを思い出していると、太吉はある予感が走ります。
その予感は確信に変わり、太吉は猛然と走り出します。
そして更に歩を進めると、驚いたことに、目の前には昔そのままの村が広がっていたのです。
この状況が夢か幻か狂気のゆえかと思いつつも、太吉は村に駆けこみ郷愁に身を浸します。
そこにたまたま通りかかった幼子時代の里子に再会。
思わず大泣きして抱きついてしまった太吉は、不審者扱いされ警官に捕まるのです。
そして自分の名前である浦島太吉と名乗ったことから、浦島家に突き出されてしまいます。
当時の浦島の当主(太吉の父)は太吉の話を当然のことながら信じませんでした。
しかし、顔付きや話から縁者であることに間違いはないと確信し、金を渡して村人達に知られる前に、村から出ることように言い渡しました。
しかし太吉は土蔵に閉じ込められても構わないので、このまま村に居させて欲しいと頼み込みます。
その目には、明確な決意が。
そうして願いは聞き入れられ、太吉は「気ぶり」として、浦島の家の土蔵に閉じ込められます。
土蔵の前では、幼い太吉と里子が睦まじく遊び、土蔵の中でその声を聞きながら、太吉は満たされた表情を浮かべるのでした。
考察
さて、『ノスタル爺』。
タイムスリップものなんですがその完成度は非常に高いです。
自分自身があの『気ぶりの爺さま』だったと気づいた太吉でしたが、2度目以降読むと、様々な伏線があったことに気がつくと思います。
気ぶりの爺さまが執拗に抱け!と叫んでいた理由。
これは、独りでずっと生きてきた里子にせめて子供を残してやりたいという気持ちと、太吉を愛していた里子に大切な思い出を残したかったという想いからでしょう。
樫木の下でふたりで逢い引きしている場面で、気ぶりの爺さまと出くわしたのも、偶然ではなかった。
あのときあの場所で里子と会っていたことは、自分自身のことなので、当然知っているわけですから、二人の様子を見に行ったのでしょう。
もっとも、あのときには本当に気ぶりとなってしまっていたのかもしれませんが。
そもそも、樫の木もダムの底に沈んでいるはず。
それなのに帰郷した太吉が樫の木を見つけた時点で、すでにタイムスリップしているんですね。
そうして過去を思い出すと、常に気ぶりの爺さまが傍にいました。
そのことに太吉も気が付いたのでしょう。
自分があのときの気ぶりだったんだと気付き、土蔵で過ごすことを決意しました。
結局、その後太吉は里子が亡くなるまで、土蔵で一生を終えます。
ただし、彼には別の道もあったはず。
ふたりの中を引き裂いて、里子に他の縁談を用意するとか。
あー、でも村の人たちに顔バレしている以上は、無理か。
村を出ていったところで、何もない。
それなら、土蔵に閉じ込められても、里子の傍にいて見守っていきたいでしょうね。
私はこの作品がとても好きです。
しかし、藤子F不二雄のSF短編は他にも名作が多い。
『ミノタウロスの皿』『ウルトラスーパーデラックスマン』『ヒョンヒョロ』などがおすすめです。
異色短編集が、Kindle版で出たらすぐさま購入するんですがねぇ。
おわり!
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