▲取材にご協力いただいた宅本うと氏。前作『ピュア✕コネクト』では萌えゲーアワード・シナリオ賞を受賞した。
HOOKSOFTの姉妹ブランドとして2007年にデビューしたSMEEは、いよいよ10周年を迎える。しかし、10周年ということで、何か特別なことをやるような空気は、SMEEからは感じられない。そこから感じられるのはサブブランドとしての矜持と、「ゲーム性にこだわるADVづくり」という強い思いだ。そんなSMEEについて、ディレクターの宅本うとさんにお話を伺った。
カノジョ*ステップ

ブランド:SMEE  定価:9,990円  発売日:2016/09/30
メディア:DVD-ROM  ジャンル:学園恋愛ADV
原画:カノジョ*ステップ制作部
シナリオ:カノジョ*ステップ制作部

リアルな恋人生活を楽しむためにステップアップ
何度目かの引っ越しを経て、祖母がやっている民宿に住むことになった主人公。そこは田んぼが広がり周囲にコンビニはない、まさに田舎というべき環境だった。そして一緒に越してきた姉から、引っ越すのはこれが最後と聞かされる。この町で卒業し、家を出るのも自由。今まで諦めていた恋をするチャンスがきたと、様々なヒロインたちと出会っていく。

「会社の安定」を意図し 設立されたSMEEブランド

──SMEEブランドを立ち上げた理由を教えてください。
宅本:デビューは2007年3月ですね。HOOKSOFTの売り上げが一番ピークだった時期だったので、リスクを分散したいというのがありました。それと、この頃サブブランドを立ち上げるメーカーが多かったんですね。美少女ゲーム業界全体にそういう動きができていたんだと思います。
──リスクの分散ですか。
宅本:美少女ゲームって野菜の収穫と似ていて、基本的に作物ができて、それを売ってからお金が入ってくるんですよね。しかもその当時はゲームのボリュームが大きくなっていった時期で、1本の製作費も製作期間もかかるようになってきたんです。そうなると1本外すとリカバリーできない。だから開発ラインを増やしてリスクを分散したいという思いがありました。それでサブブランドを立ち上げたというのが一番の理由だったと思います。
──SMEEの作品の方向性はHOOKSOFTとは異なりますが、これも最初から考えられていたんですか?
宅本:正直、そこはあまり考えていませんでした。もちろんサブブランドを立ち上げるならHOOKSOFTとは違う方向で、という話にはなっていましたよ。でもそうなると「凌辱だよね」って話になる。ただ、自分には採算が見えてこなかった。SMEEの目的が「HOOKSOFTでできないことへのチャレンジ」だったら凌辱ブランドにする意味はあるけれど、「会社を安定させること」でしたから、自分としても先が見えてこないものはできないな、と。
──なるほど。
宅本:僕も初ディレクターということもあって、無理な挑戦はできない。なので「純愛系でHOOKSOFTではできないものを作ろう」となりました。それでも最初の企画はバトルものだったんですよ。ところが予算を考えていくとHOOKSOFT作品より大きくなってしまう。これも目的とは違ってくるということで、企画を作り直すことになりました。なのでSMEEは立ち上げから『リリミエスタ』発売まで2年かかっているんです。

デビュー作は立ち返れる場所 「感謝の気持ち」をテーマに

──デビュー作の『リリミエスタ』は難産だったわけですね。
宅本:1作目だから、この作品に自分の魂を込めようと思い、「自分がゲームを作るうえで忘れてはいけないもの」をテーマにしました。それが「感謝の気持ち」。ゲーム制作はいろんな人たちが携わるわけです。大勢の人たちが一つの作品を作り上げて売っていく、というのを、自分は素晴らしいことだと感じていました。だからこそ、この精神を忘れてはいけないということで、キーワードを「ありがとう」にしました。
──なにかあったら、そこに立ち返るというデビュー作ですね。
宅本:ところが自分の初ディレクションということで中身はぐちゃぐちゃ、「売りにくい作品だ」って言われてしまった。そこで目を付けたのが、今でいう「萌えエロ」。当時は萌え絵の純愛系だとエッチシーンが少ないのが当たり前。そこで純愛ものでハーレムを作ったら面白いなということで2本目の『晴れハレはーれむ』を企画しました。社内で異論も出たんですが、「自分たちが純愛だと言っていれば純愛なんだ」って押し切って(笑)。
──現在のSMEEの原型ですね。
宅本:作品内容ではそうです。ただ、この時もSMEEは社内スタッフが自分ひとり。外部スタッフから上がってくるシナリオも原画もチェックして、さらには収録にも行って広報をやって、という体制は無理なんです。これだと満足いくクオリティーまで持っていけない。そこでシナリオの早瀬ゆうを社内スタッフとして採用しました。
──その体制で3作目の『らぶでれーしょん!』が作られます。
宅本:自分としても「二次元の女の子のかわいさを追求しよう」というSMEEの芯が固まった作品だと思います。そこを追及する中で、「萌え」以外の要素は極力排除することにした。『らぶでれーしょん!』では今後のSMEEにつながる手ごたえを感じることはできました。でも、実はSMEEで一番売れなかったんですよ。手ごたえがあるだけに、売れなかったのは納得いかず、さらに売りやすさを追求して『ラブラブル』を作ることになるんです。
──お話を聞くと、早瀬ゆうさんの参加が転換点になっているようですね。
宅本:早瀬ゆうは当時何の経験もない若手だったんですけど、彼の目指していたところと僕の目指すものが一緒だったので、彼とならできるだろう、という手ごたえは早くからありました。そういえば、HOOKSOFTとの差別化を意識し始めたのもこのころです。『ラブラブル』では、ディレクターの自分がHOOKSOFTとの違いを明確に説明できるようにならなければいけないと考えていました。例えば「HOOKSOFTの主人公って受け身な性格だから、SMEEではこっちから働きかけるようにしよう」とか、「HOOKSOFTのヒロインは二次元のキラキラした部分に特化しているから、SMEEでは二次元のかわいらしさを追求しながらも、リアルな生々しさも入れていこう」とか。この部分がユーザーには「SMEEの女の子はむかつくけどかわいい」と、新しい味わいとして楽しんでもらえたんだと思います。

上昇志向はなし サブブランドにこだわる理由

──『ラブラブル』以降はセールスも伸ばしていて、順調のように思えます。
宅本:ありがたいことです。でもSMEEには上昇志向はないんです。でも、毎回「前作以上の売り上げを」となるとしんどい。自分たちのやりたくないところにも手を付けなければいけなくなる。そこまでやれるか、となると無理です。ありがたいことに今は納得できる数字なので、自分たちのできる範囲のことをやって、それを維持していくことを考えています。売り上げを追求するようになると、どこか歪んできてしまうと思うんです。
──作品内容は意欲的ながら、セールスにはこだわらず、ということですね。
宅本:セールスを伸ばそうという仕掛けはHOOKSOFTに任せています。差別化ですね(笑)。SMEEはペイラインも低めに設定してあって、その少し上にサクセスラインを設定しています。ここまで行けばボーナス!みたいな(笑)。それ以上売れたらラッキーと受け止めて次のゲームでそこを目指すことはありません。その意味では、小規模ブランドの作り方だと思いますし、それがサブブランドの在り方だと思うんです。
──そこまで徹底できるのは何故ですか。
宅本:僕にも上昇願望がないんですよ。それよりスタッフがゲーム作りしやすい環境を維持する、周囲がうまく回るためには何をするべきかを考えるほうが好きなんです。SMEEもHOOKSOFTあってこそですから、SMEEがブレイクするよりHOOKSOFTがうまく回っていって、それをSMEEが支えられればいいなって思います。

ゲームとしてのADVに こだわった『カノジョ*ステップ』

──さて、そんなSMEEですが、9月30日には『カノジョ*ステップ』を発売します。この作品で注目されるのが、メインスタッフの「カノジョ*ステップ制作部」。あえて個人名を出さない理由を教えてください。
宅本:秋葉原を歩いたりすると、ここ数年美少女ゲームの売り上げが下がっていると実感できます。その要因はいくつもありますが、その一つに「見栄えをよくして売る」ことに力を注ぎすぎたと思うんです。きれいな絵を前面に押しすぎて、ゲームとしても面白さを同じくらい追及できていなかったんじゃないか。その結果、満足度が低くなって、売れなくなった。ならば、その原点であるところに立ち帰ろう。その心意気を示すためにメインスタッフの名前を隠すことにしました。我々はSMEEというチーム全員でゲームを作っているわけだし、セールスのプレッシャーを原画家やシナリオライターだけに背負わせたくない、というのもあります。
──ものすごく重い決断のように思えます。
宅本:でもユーザーも、メインスタッフの名前が満足度を担保するとは思っていないんじゃないでしょうか。もっと本質的なゲームとしての面白さを求めているように思えます。もちろん売りにくくなるわけなので難しい状況になるのは覚悟しています。そのうえで、遊んでくれた人がどう感じてくれたかを見て、今後のSMEEとしてのゲーム作りを進めていきたいと考えています。
──となると、今後のSMEE作品は、よりゲームとしての面白さを追求していく?
宅本:本当は『ピュア×コネクト』でやりたかったんですが、いろいろな理由でできませんでした。今後は「二次元キャラのかわいらしさの追求」はもちろんですが、新しいADVゲームの面白さを探したい。ゲームデザインに凝りたいんです。作り手視点からの美少女ゲームへの不満点として、フローチャートが単純になってしまうという点があります。そこで面白いものを作ろうと思うと、ライターに大きな負担をかけてしまう。そんな状況では、数年でライターはつぶれちゃいますよ。僕は一緒に仕事をするスタッフとは長く仕事をしたい。だからこそチームとして協力して作品作りをしたいんです。
──その中で、今後のSMEEの方向性を教えてください。
宅本:二次元萌えを追求したいということは変わりません。追及する中で、いろんなことをやりたい、『ピュア×コネクト』で舞台を大学にしたみたいにですね。それとゲーム性を追求したい。美少女ゲームとライトノベルが比較されますが、本来比較できないんですよ。ゲームは小説と違って、その世界に干渉できますから。それこそマルチエンディングにするだけで違ってくる。それを顕著に表すのがゲーム性やフローチャートだと思います。そこを追及して、SMEEなりの「二次元ヒロインのこだわり」をユーザーに提示していきたいですね。

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10日特集「進化したDRMは
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