ゴジラ女子」がまったく流行らなかったので安心した

日本中で大反響を読んでいる映画「シン・ゴジラ」。牧村朝子さんもご覧になって、とってもおもしろかったそうです。そんな牧村さんが気になったのは、「ゴジラ女子」なるワード。ゴジラを観るのに、なぜ性別が関係あるのでしょうか。自分が好きなものをまっすぐ好きでいるために、牧村さんがたどり着いた答えとは。

「シン・ゴジラ」が面白かった。

初めに言っておくと、ネタバレは一切しない。また、ゴジラについて、何とかのメタファーがとか何とかの特撮技法がとかいう分析的な話をするつもりもない。ただ、面白かった。いい映画を観たなあって思った。

私は、女性である。今までゴジラを観たことがなかった。女性である私がゴジラを観ていないというと、「まあ、女の子だからね」的な反応を受けることがあるが、違う。そもそも、私は映画をほとんど観ないのだ。私は、デカい音が苦手だし、知らん人と暗い部屋で座って過ごす映画館という場所が苦手だし、本やマンガやゲームと違って自分のペースで進んでくれない画面を百数十分も見つめていることが苦手だ。だから観ていなかった。

それでも、繰り返すけど、「シン・ゴジラ」は面白かった。とっても楽しかった。帰りの電車で例の曲(デーン!デーン!デーン!デーン!ドゥンドゥン☆)を聴きつつ、「シン・ゴジラ 感想」でググった。そうしたら、どうも、女性限定鑑賞会議っていうイベントがあったらしいということを知った。

ゴジラを観るためになぜ性別が関係あるのか考えてみて、「アレかな?」と思った。

「女の子だから知らないだろうけど……」的なアレ回避かな?

酒、政治、釣り、カメラ、そして特撮など、従来わりかし男のものとされてきたのだけれども実は別に男だけのものじゃないことについて女が語るとき、彼は現れる。

「俺が教えてあげようか? ん?」

うんちくおじさんである。

自分が年上の男であるということだけを根拠に、年下の女を自分より無知だと思い込む人はいるものだ。たとえば文筆家のレベッカ・ソルニットは、「君、本を書いてるんだって? それじゃあ、君の専門分野について最近発表された重要な著作の解説をしてあげよう」と絡んできた男が他ならぬソルニット本人の著作を解説してきたという話をエッセイに書いている。私個人も、こんな経験をしている。私の専門はジェンダー・セクシュアリティ論だが、昔、こんなようなことを言われた。

「レズビアンは30代で激減する一過性のモノなので、もうちょっと年齢を重ねてから発言した方がいい」

私は思った。

「えぇ~っ☆ そうなんですかぁ~! すごぉ~い、まきむぅ知らなかったぁ~♡ あれれれ~、でも出典が書いてないよぅ? って、男のコに甘えちゃだめだよね>< きゅるるんっ>< よーっし、自力で論文探すぞー! マジカルGoogle Scholar~! からの~、JSTOR~! Gallica~! そして国立国会図書館OPAC~!」

結果、見つからなかった。

「三ヶ国語でしか探せなかったけどなかったですぅ><☆」。

結論としては、「30代で激減」論者は恐らく、「男性と結婚したならレズビアンじゃないだろう」「子どもを産んだならレズビアンじゃないだろう」みたいな、2015年イギリスのアデロンケ・アパタさん裁判みたいなことを未だにやっているのではないかと推測する。

そんなふうに私が私なりの結論にたどり着いた頃、「もっと年を取ってからモノを言え」の人は、もちろん多くの人に出典を求められていた。が、もちろん出せていなかった。なので、その人に「論文が見つからなかったので教えてください」と言うことを私はやめにして、ブラウザをそっと閉じた。


話をシン・ゴジラに戻そう。

公式サイトには、女性限定鑑賞会議についてこう書いてあった。

「ゴジラは男だけのものじゃない! 私たちだってゴジラが観たいし、語り合いたい! そんなあなたのために女性限定上映会を作りました。女性限定なので、気兼ねなくご来場ください!」

後日、各ニュースサイトが、当日の模様をレポートしていた。面白かったのが、このへんのうちわだ。

「総理、ご決断して♡」
「矢口、シャツ替えて♡」

よくジャニーズとかのコンサートで振られている、「○○、こっち見て♡」「○○、指さして♡」みたいなうちわのパロディである。

うちわを作った人たちが、どういう気持ちだったのか私は知らない。たぶん、単純に楽しみたいからってだけなんだろうと想像する。でも私には、女による女のパロディというか、「こういうノリだと思われてますよねwwwww」って心の声が聞こえるようで、なんだか胸がすっとした。

うちわとサイリウムがひらめく女性限定鑑賞会議の客席を、あるテレビ番組はこんなふうに紹介した。

「今、ゴジラ女子が増えているんです!!」

それが8月29日のことだったが、9月6日現在、「ゴジラ女子」なるワードは一切まったく流行っている気配がない。Yahoo!リアルタイム検索で調べたところ、8月29日の放送当日ですら、「#ゴジラ女子」タグでのツイート数は、2件。「シン・ゴジラ」の男性キャラクター同士の妄想をする「#内閣腐」が301件だったことを考えても、もう、○○女子とか言うセンス、終わっているとしか言いようがないのではないだろうか。

「ゴジラ女子」とかいうレッテル貼りが、全く流行らなかったので安心した。
女子も男子もどっちでもない人も、私たちは、好きなものを好きでいいはずだ。
そこに優劣の差や上下関係はないはずだ。

性別や年齢などを理由に他人を見下す行為を、私はカッコ悪いと思うし、やらないようにしようと思う。経験上、今まで10代・20代の女性として生きてきて、特にエンカウント率が高かったのはうんちくおじさんだが、それで中年男性全体に敵意を持つようでは同じことの繰り返しになってしまうのではと思っている。

だから、前に行こう。誰かを自分より無知だと思わないと自分に自信が持てないうちは、自分自身の無知に気づけない。それは、その人の課題なのであって、私には私の課題があるんだと思う。もっと前に進んだ自分を想像すると、わくわくする。“年下の女性”なる存在に期待される「え~っ、そうなんですかぁ、知らなかったですぅ><」なんかやっている時間がもったいない、私は、私だ。

私はもう、「ゴジラ女子」という言葉が別に流行らない時代を生きているのだ。



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女と結婚した女だけど質問ある?

牧村朝子

フランス人女性と同性結婚をした牧村朝子さん。彼女が自らのレズビアンとしての経験を生かしてつづった新書『百合のリアル』(星海社新書)は、人間の性についてのあり方に悩んでいる人にエールを送る内容で、好評を博しています。そんな牧村さんが『百...もっと読む

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