難しい課題があればこそ、首脳同士の対話が重要だ。

 中国・杭州を訪れていた安倍首相が、習近平(シーチンピン)国家主席と会談した。両氏の会談は昨年4月以来、1年5カ月ぶりである。

 首相は、中国が南シナ海で進める軍事拠点化について「国際法のルールを守り、周辺国の不安解消に努めてほしい」と求めたが、すれ違いに終わった。

 一方で両首脳は、東シナ海などでの防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の早期運用に向けた協議を加速させることや、東シナ海のガス田共同開発の交渉を再開することで一致した。

 ともに両国の政治対立のあおりで、数年来停滞してきた課題だ。今回の合意でどの程度、前に進むかも予断を許さない。それでも双方の実務者がテーブルにつくことになったのは、やはり首脳対話の成果である。

 日本政府の説明によると、今回の会談で両首脳が互いに繰り返したフレーズがある。

 「プラスを増やし、マイナスを減らしていこう」

 その言葉通り、両首脳は一歩ずつでも粘り強く、両国関係を前へと動かしてほしい。

 日中は経済でも、文化でも、人の交流でも、切っても切れない隣国である。世界2位と3位の経済大国同士が真にプラスの関係を築ければ、日中のみならず、アジアの平和と安定に大きく資するに違いない。

 それなのに、両国の政治の現状はマイナスばかりが目立つ。

 東シナ海では中国の公船などが尖閣諸島周辺の領海侵入を続けている。国営新華社通信によると、習氏は南シナ海について首相に「日本側は言動を慎み、中日関係の障害となるのを防ぐべきだ」と述べたという。

 中国による海洋進出の問題が近い将来、解決に向かう見通しは残念ながら立っていない。

 かといって、両国が偶発的な軍事衝突を避ける手立てを持たない現状を、このまま放置するわけにはいかない。

 まずは「マイナスを減らす」一歩として、今回合意した「海空連絡メカニズム」の協議を確実に実らせてもらいたい。

 日中関係には今後も曲折が予想される。来年の中国共産党大会に向けた習政権の動向、米大統領選の行方なども影響を及ぼすだろう。

 問題を一気に解く特効薬はない。粘り強い対話と、具体的な取り組みを続けるしかない。

 例えば環境対策や金融の分野で、日本が協力できることは多いだろう。そして、そうした積み重ねを「プラスを増やす」日中関係に広げてほしい。