男女賃金格差との関係は、他のものと比べてずっと分散が大きく、強姦認知件数との関連性は見えません。
性犯罪認知件数との関係性では、性犯罪認知件数が多い国ほど強姦認知件数も多いことがはっきりと伺えます。統計的にも非常に高いレベルで有意でした。ただし、何度も言うように、これが実際の性犯罪・強姦罪の発生値というわけではなく、認知件数であるため「いかに声を出しやすいか」ということでもあります。たとえば、日本では電車で痴漢に会うことなど日常茶飯事ですが、わざわざ警察に報告することは稀です。それを報告する(報告することを許す)社会なのかそうでないのかということは、このデータを読む上で重要な問題です。
一方、暴行事件との関連性を見てみると、性犯罪認知件数ほどではありませんが、暴行事件認知件数が多い国ほど強姦罪認知件数も多いということが伺えます。日本は一番左下のグループの中にいます。国の治安状況によって、暴行事件、強姦事件、性犯罪の認知件数が左右されるのは当たり前のことでもあります。暴行事件の認知件数が少ない日本で、性犯罪や強姦事件の認知件数が少なくなるのもうなずけます。
ただし、ここには出していませんが、暴行事件と男女不平等な政治・市民状況の関連性を見てみたところ、統計的にも有意なレベルで、男女不平等な政治・市民権状況のポイントが高いほど、また一人当たりGDPが高いほど暴行事件の認知件数が増えることが確認できました。男女不平等な政治・市民状況のポイントが高い国は、トルコやロシアなど男女かかわらず政治・市民状況(民主主義・人権問題)について抑圧的である国が多い点にも注意が必要です。男女不平等な政治・市民権状況のポイントが高いこと、政府がより強権的であること、一人当たりGDPが低いことは、暴行事件の認知件数を押し上げる一方、強姦事件の認知件数を押し下げているかもしれない点についてはさらなる考察が必要でしょう。いま現在の日本が当てはまらなくとも、今後この傾向に追随していく可能性も否定はできません。
被害者が声を上げられる社会を
今回の分析は細かいことを考慮せず、全てを単純化して分析したものなので、これだけでは何も断定することはできません。しかし、単純化してデータを比較するだけでも「強姦事件認知件数を押し下げている原因=強姦事件の被害者が声を上げにくい状況」について、ある程度の仮説を立てることができました。
強姦・レイプの主なターゲットは女性です。彼女たちの肉体のみならず、「レイプされる側が悪い」「レイプを訴えることは恥」「訴えても警察が何もしない」などといった社会的抑圧や被害者自身が「大したことない。忘れたい」と考えなければならない状況は、彼女たちの人格・人生までも破壊するものです。レイプ・強姦を撲滅するには、まずは被害者が声を上げられる環境を、政府や社会が中心になって作っていくしかないのではないでしょうか?
参考文献
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分析に用いたすべてのデータはOECD.StatおよびUnited Nations Office On Drugs and Crime (UNODC) Statistics Onlineより取得しました。