第44話 謎の国-渤海
◆ 渤海という国
「高句麗の滅亡後、その遺民と靺鞨族が
中国東北地方にたてた渤海国(698-926)は、
唐の文物・制度をさかんにとり入れ、
日本とも通交し、8~9世紀に栄えた」。
◆ 日本と渤海の通交
日本は中国に遣唐使を派遣し、
政治制度や文化を輸入したことはよく知られています。
では、この遣唐使、
何回ぐらい派遣されたのでしょう?
中止したのも含め18回ぐらい。
期間は、630年から894年の260年ほどの間です。
(平凡社大百科事典より)
これに対して、渤海からの遣日使は34回、
日本からの遣渤使(送使が主)15回。
期間は、727年から919年の200年ほどの間です。
(上田雄著『渤海国の謎』講談社現代新書)
しかも、両国の関係は対等だったようです。
◆ 758・759年の通交
この時期の通交には、日本史上の有名人、
阿部仲麻呂、藤原仲麻呂が絡んでいます。
安史の乱も含めた当時の国際関係・交流が
背景になっています。
(1) 日渤間の通交は、
もともとは渤海側からのアクセスで始まりました。
建国者大祚栄を後継した大武芸は、
その名の通り武力拡張主義者でした。
その彼が新羅を討つため、
日本と軍事同盟を結ぼうとし、
使者を派遣してきたのです。
それが727年でした。
現代で言えば
北朝鮮が対韓国軍事同盟締結を日本に求めてきた、
というあんばいでしょうか…。
この使者は日本東北部に漂着しましたが、
原住民の蝦夷によって殺害され、
わずかに残った部下たちが
かろうじて平城京にたどり着き、
国書を奉呈したのだと言います。
この時は、
日本側が相手の真意をよく理解できなかったこともあり
軍事同盟締結に至りませんでした。
しかし大武芸の死後、
第3代の国王となった大欽茂は
この後も熱心に使節をよこし、
両国の交流は盛んになったのです。
ただし、大欽茂は文治政策に転換していましたので
通交の目的は交易や文化交流に変化しました。
(2) ところが、
今度は日本側が新羅征討の軍事同盟を
働きかけることになったのです。
その中心人物が、藤原仲麻呂。
新羅は、日本から見れば仇敵でした。
唐・新羅連合軍に白村江で敗北したのは
100年ほど前のことです。
(私たちにとって日清・日露戦争のようなもの)
また、日本と通交のあった高句麗を滅ぼしたのも、
新羅でした。
だから、753年、長安で遣唐大使の藤原清河が、
新羅の大使との席次問題で一悶着を
起こすことにもなったのです。
まぁ、現在の感覚で言えば、
唐はアメリカ合衆国であり、
その都長安は、
国際連合本部のあるニューヨーク。
その国連で
常任理事国になれるかどうかを
争うようなものかも知れません。
ともかく、藤原仲麻呂は758年、
小野田守を渤海に派遣。
同年、田守に伴われ渤海大使楊承慶が来日します。
下心を秘めた仲麻呂にとり
楊承慶はまさにVIP。
最大級の接待を展開しました。
接待、それには古今東西不変の掟があります。
つまり、酒と女。
酒食が一段落すると、
音楽とダンスで座を盛り上げたそうですが、
このダンスパーティーに花を添えたのが
若い女性で編成されたダンシングチーム。
座が乱れるにつれ、
客・主人と彼女たちが入り乱れ、
ディスコさながらの熱狂の一夜。
これは、
客が、その夜の相手を選ぶ場でもあったとか。
昔の宮廷は、ずいぶんさばけていたようです。
いえ、それだけではありません。
759年、渤海大使楊承慶が帰国する際、
ダンシングチームから11人の女性が選ばれ、
“贈り物”として同行させられたのです。
その“非人間性”はともかく、
仲麻呂の思い入れが表れているようです。
しかし、
そんなことをしたためでしょうか、
渤海からはやんわりと拒絶され、
対新羅軍事同盟は幻に終わりました。
(3) さて759年、この楊承慶を渤海に送る時、
実は、別に遣唐使も同行させていました。
遣唐使のオーソドックスなルートは
九州から東シナ海を経由して
中国に上陸するというものでした。
しかし、これは危険なルートでした。
これに対し、遠回りにはなるものの、
季節風を利用した渤海経由の中国ルートの方が
安全・確実だったようです。
なお、このバイパスルート、
手紙や留学僧・留学生への
政府からの送金ルートとしても
かなり信頼されていたようです。
さて、この時の遣唐大使は高元度。
彼の任務は、入唐したまま帰国できないでいる
二人の日本人を救出し連れ帰ることにありました。
その二人とは、阿倍仲麻呂と藤原清河。
彼らは一度は帰国しようとしたのですが、
船が難破し、長安に舞い戻っていたのです。
そのことを
渤海ルートで小野田守が知り、
楊承慶を伴って帰国した際
朝廷に報告していたからです。
そこで、朝廷は“救出”に向かわせたのです。
ところで、何故“救出”なのか?
実はこの時中国では安史の乱の真っ最中だったからです。
節度使・安禄山が起こしたこの大乱は
楊貴妃を死に追いやり、
玄宗に、そして唐王朝に大打撃を与えました。
この混乱のさなか、
二人の日本人救出作戦が展開されたわけです。
しかし、失敗しました。
真相は不明ですが、
どうやら唐の皇帝が二人の才を惜しんで、
帰国を許可しなかったためのようです。
結局この二人は中国に骨を埋めることになります。
なお、彼らがまだ中国で生存している時、
渤海から唐へ日本人ダンサーがプレゼントされたそうです。
事実は小説よりも奇なり、
ひょっとしたら彼らと顔を合わせたかも知れませんネ。
というわけで、高元度一行は手ぶらで帰国しました。
ただ彼らは、山東半島・登州の寺院に立ち寄った時、
そこに壁画を奉納したそうです。
それを80年後に発見し、
記録に残した日本人がいました。
『入唐求法巡礼行記』を著した円仁です。
当時の人々の交流の様子が生き生きと伝わってきますねー。
◆ 渤海滅亡の理由
「…遼河上流で半農半牧の生活をいとなんでいた
モンゴル系の契丹はウイグルに服属していたが、
ウイグルがおとろえはじめると急に勢力を強めた。
10世紀初めには東モンゴルを中心に
耶律阿保機(太祖)が強力な国家をつくり(916年)
東は渤海をほろぼし(926年)、
西はモンゴル高原の諸部をおさえた。
これが遼である」。
つまり、契丹に滅ぼされた、ということです。
ところが、これとは異なる説があります。
白頭山の爆発により滅亡した、という説です。
これは以前NHKで放送されました。
それを見て、そうなのか! と強い印象を受けたのです。
以来、渤海という国が忘れられなくなりました。
けれど、今回私が参考にさせていただいた
『渤海国の謎』の著者・上田雄氏は
この説をテレビ好みの妄説と一蹴されています。
その論拠はまことに理にかなっており、
したがって、
味も素っ気もないのですが、
渤海は契丹によって滅ぼされた、
ということにしておきましょう。
ただ、このテレビ番組のおかげで、渤海国が、
気になるようになったのはたしかで、
その点で、私には、意味のある番組と言えます。
◆渤海研究の現状
気になる国・渤海の研究の現状は
どの程度なのか不明ですが、
昨年(1998年)、朝日新聞にこれに関する特集がありました。
『渤海との交流史に光を
建国1300年、石川・富来町に研究センター』
という見出しで上田雄氏が寄稿されていました。
その中で、氏は、「2001年には、
平和で文化的な国際交流のモデルのような、
渤海国との交流史を検証する国際的なシンポジウムを開催」
したいとの
上田正昭氏の言葉を紹介されています(十年あまり前です)。
渤海と日本の交流は、
多民族国家・国際化への道をどう進むか、
模索している日本に一つの道標になる、
ということのようです。
そしてこれが渤海との関係史を研究する意義の一つのようです。
お詫び-現在、渤海国交流研究センター・ホームページにアクセスできません。
以下のところで詳しい説明が出ていましたので、関心ある方はクリックしてみて下さい。
http://www.shikagen.net/rekisi/bokkai/bokkai.htm.
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投稿: まりこ | 2012年2月 9日 (木) 17時11分
読者は神様です。
ましてコメントを書いて下さる読者は
スーパー神様です。
メアドを載せて頂いたそうですが、
残念ながらウェブ上には掲載しないため
私にもわからないのです。
ということで
このコメント欄に書いて頂けるとありがたいです。
ただ、そうすればウェブ上に公開され、
魑魅魍魎の世界では招かれざる客も
あなたを悩ませるかも知れません。
リスクは冒さぬ方がいかもしれませんね。
投稿: akira16 | 2012年2月 9日 (木) 18時12分