世界最高の戦略家の提言
「日本はロシアを重要視せよ」
次に、「2.ロシアとの友好関係を深化させていくこと」を見てみよう。
日本には、「北方領土問題」や「シベリア抑留問題」で、ロシアを信用せず、嫌悪している人が多い。最近では「クリミア併合」や「ドーピング問題」で、ネガティブなイメージを抱いている人が大半だろう。その気持ちは、とても理解できる。
しかし、中国のような強大な敵に立ち向かうには、「感情レベル」を超越しなければならない。たとえば過去、米英は、ナチスドイツ、日本に勝つために、「資本主義打倒」「米英打倒」を国是とするソ連の独裁者スターリンと組んだ。
そして、米英は戦後、ソ連と対抗するために、かつて敵国だったドイツ(西ドイツ)、日本と同盟を結んだ。それでも劣勢になると、今度は共産党の一党独裁国・中国と組んだ。日本人から見ると「節操がない」ように思えるが、米英は、それで「勝利してきた」。こうした「リアリスト思考」ができないと、生き馬の目を抜くような国際社会で勝ち抜くことは難しいのだ。
世界最高の戦略家と呼ばれるエドワード・ルトワックは、日本人向け著書「中国4.0 暴発する中華帝国」の中で、「日本にとってのロシアの重要性」について、詳しく触れている。一部引用してみよう。
<最初の課題は、ロシアのシベリア開発をどこまで援助できるかだ。これにも中国が関わっている。
中国がシベリアの資源を獲得してしまうと、自己完結型の圧倒的な支配勢力となってしまう。
シベリアを当てにできない中国は、船を使って天然資源を輸入する必要があるため、海外に依存した状態となる。この場合、必ず「アメリカの海」を通過しなければならない。>(144p)
<ところがロシアを吸収できれば、中国はその弱点を克服できる。これによってわざわざ「海洋パワー」になる必要はなくなるからだ。
この意味で、シベリアを中国の手に渡さないことは、日本にとって決定的に重要なのである。>(145p)
説明が必要だろう。日本は第2次世界大戦で、なぜ米国との開戦を決意したのだろうか?そう、「ABCD包囲網」で石油が入ってこなくなったからだ。エネルギーがなくなれば、戦争もできず、経済活動もできない。これは当時の日本政府にとって、開戦に踏み切らざるを得ないほどの決定的出来事だったのだ。
今の中国を見てみよう。この国は日本と同じく、エネルギーを中東に依存している。つまり、中東からタンカーで石油を運んでいる。ところが、その海路は、米国が支配している。
もし、なにかのきっかけで米中対立が深刻になったとしよう。その時米国は、中国が「エネルギーを買えない状態」をつくりだすことができる。つまり、「ABCD包囲網」時の日本と同じ状況に追いこむことができるのだ。そうなると、中国は終わりだ。