4~3月の会計年度を採用している会社では、人事異動は、一番多いのが4月、次いで7月・10月に行われることが多いと思います。
4月は、退職者と新入社員が最も出る時期であり、7月は6月末の株主総会による役員人事を上流とする玉突き人事、10月は前年度の人事評価を踏まえたルーティン的な人事と言えます。
人事異動に先立って行われるのが、異動の「内示」。
早いところでは2ヶ月前、遅いところだと1週間前と、会社・組織によって「内示」が行われる日はマチマチですが、「辞令」が発令される前に行われるのが一般的。
さて、この「内示」ですが、そもそもなぜ行われるのか、そして、断るとどうなるのかを考えたことはありませんか?
本エントリーでは、これらについて記したいと思います。
「辞令」と「内示」の違い
「辞令」は、人事異動命令
まず「辞令」ですが、これは「人事異動に関わる命令」のことです。
転勤のように勤務する場所が変わるケース、同じ建物の中でも所属する部署が変わるケース。
また、同じ部署内であっても、昇格・昇級や降格・降級のように、人事上の立場が変わる場合にも発せられます。
これらは「業務命令」であるため、社員は断ることはできません。
(断ると業務命令違反となり懲戒対象になります。もちろん、常識的な業務命令の範囲内という前提付ですが)
人事異動は影響が大きい
しかしながら、いくら業務命令とはいっても、人事異動は通常の業務に比べ物にならないくらい、本人への影響が大きいですよね。
転勤となると、毎日通う場所が変わり、場合によっては転居が必要となります。
家族連れだと、大掛かりな引越しや子どもの転校など、大変な負担になります。
また、部署が変わるのは、やる仕事そのものが変わる、もしくは、取引先などの仕事相手が変わることですし、昇格・降格は、担当業務と仕事の質が変わります。
特に降格は、給料が下がることもあるので、非常に切実です。
これらの影響はとても大きい、でも、業務命令である以上、拒否できない、というのが「辞令」の持つ強制力なのですね。
「内示の」持つ意味
では、「内示」とは何か?
文字通り、「内々に示す」ということです。
書面で出される場合は、
「貴殿を何年何月何日付けをもって下記の通り発令見込みにつき通知します。」
とあって、異動先や役職などが書かれています。
このように、
「人事異動してもらうから、そのつもりでいてね」
と、人事に関する決定事項を早めに教えるのが「内示」となります。
「内々示」と「打診」
余談ですが、似たような言葉で、「内々示」と「打診」というのがあります。
「内々示」は、本来の内示よりもさらに前(内)で行うこと。これは、「内示」が決まっているうえで、行われるものです。
通常はご法度ですが、早めに教えてあげようという上司のある種の「親心」による場合が多いようですね。
「打診」は、探りを入れるということ。人事異動の計画策定の中で「まな板」に乗っかっている段階で行われるものです。
「打診」は、本人の意向をチェックするもので、そのほとんどは「ものすごく嫌がるかもしれない」など、良くない人事案の場合に行われます。
なぜ「内示」が行われるのか?
では、なぜ「内示」が行われるのか、それはズバリ!
本人に、人事異動を断る機会を与えるため
に他なりません。
上述のとおり、人事異動による本人の負担はとても大きいものがあります。
これを「辞令」という業務命令で否応なくすると、問題が発生する場合があるのです。
例えば、
- 家族につきっきりの介護が必要な人がいて、社員本人が転居すると世話をする人がいなくなる
- 社員本人が重篤な病気を抱えており、通院先を変えられない、あるいは、新しい職務に耐えられない
といった状況だと、異動すると心身や経済的に立ち行かなくなる可能性がとても高いですよね。
ところが、一旦、「辞令」として出されてしまうと、本人は断ることができません。
最悪、会社を辞めざるを得ないなど、窮地に追い込んでしまうことになりかねないのです。
もちろん、辞めずに済ませる働きかけはあるでしょうが、会社の決定事項、しかも、人事のような重要な話をコロコロひっくり返すと、他の一般の社員から会社に対する信用はさがります。
上司は「部下の大切な状況を把握していなかった」と管理・監督者としての能力を問われます。
そして何より、本人の会社での居心地は悪くなりますよね。
まぁ、とにかく、格好悪いこと、この上ないのです。
なので、「辞令」を出す前の猶予を持つという意味で、「内示」が出されるのです。
もちろん、「決定事項を事前に伝える」わけですから、非常に重みのあるもので、生半可なことで、ひっくり返ることはありません。
なお、「内示は、諸準備のための時間を設けるため」といった理由を聞くことがあります。
これは、決して間違いではないのですが、本質的な理由ではありません。
ただ単に準備時間を設けるだけだったら、「辞令の発令日以降、2週間以内に着任すること」としておけば良いわけですから。
「内示」を断るとどうなるか?
このように、「内示」そのものは、断るかもしれないことを前提に行われています。
「だったら、気に入らない人事異動は、断ってもよいの?」との疑問を持ちますよね。
その答えは、「YES」だけど「NO!」となります。
と書くと、「何が言いたいの??」と思われるでしょうね・・・。
まず、社員には、人事異動を「拒否する権利」はあるのです。
おそらく、ほとんどの会社では、内示の際に、「本件に関して異議がある場合は、何日以内に申し立てるように」と伝えられていると思います。
平たく言うと、「文句があるんだったら、いついつまでに言って来い」ということですね。
だから理論上は、本当に嫌なら「お断りします」と言ってもよい、ということになります。
ただし、会社が「お断り」に「正当性がある」と認めるかどうかは、全く別問題です。
当然ですが、「なぜ、異動を拒否するのか?」の理由を問われます。
上述のような正当な理由(=もし裁判沙汰になったら、会社が負けるかもしれない理由)であれば、会社はまず、異議を認め、しかるべき措置を取るでしょう。
しかし、単に「新しい仕事が嫌だ」とか「引越しをするのが面倒くさい」といったレベルの理由だったら、会社は絶対に認めません。
いくら文句を言おうがゴネようが、一切無視されて、そのまま「辞令」が発せられるでしょうね。
にも拘らず「転勤拒否」などしようものなら、「業務命令違反」で懲罰対処になります。
いくらゴネても、勝ち目はない、ということです。
あわせて、「ワガママな理由で、人事異動を拒否した社員」というレッテルが貼られます。
これが、どんな影響があるか・・・、会社によって異なるでしょうが、何らかの報復措置を受けるのは覚悟すべきですね。
まとめると、
- 人事異動の内示は、「イヤだ」と言うことはできる
- けれども、よっぽどのことがない限り「お断り」は認められず、内示のとおり人事異動は決行される
- おまけに、後々、悪いことしか待っていない
- だから、断るのはメチャクチャ大損
と言う結論になります。
日頃からの上司とのコミュニケーション
正当な理由がある・ないに関わらず、全く意に沿わない人事異動が発令されるとしたら、そこには、「日常的な上司とのコミュニケーションのあり方」に問題があるかもしれません。
上司との関係が良くて、日頃からコミュニケーションが取れていれば、自分の健康状態がすぐれない、家族に重篤な要介護者がいる、といった大切なことは、理解してもらえているはず。
また、自分がこれからやりたい仕事とか、次に行きたい部署なども、知ってもらえているはずなのです。
そして、人事異動のような大きな案件では、これらの事情は、必ず斟酌してくれるものです。
逆に、もし、上司としっかりコミュニケーションがとれていなければ、あるいは上司との関係が良くなければ、上司は「知らなかった」ゆえに、本人の意に沿わない人事異動がなされる、そんなリスクが高まると言えるのです。
(さらに言えば、上司から嫌われている場合は、意図的に悪い人事をされるケースも)
上司との関係は、本当に大切なもの。
もし、良い関係でないのならば、自ら歩み寄る努力をするようお勧めいたします。
上司と良い関係を結ぶいくつかのポイントを、以下にまとめています。
ぜひ、ご参照ください。
- 上司、うっとうしくもやっかいな存在
- 上司を知ること 上司に対するイメージを持ち客観的事実を知る
- 上司のスケジュールと顔色は、絶対にチェックすべき
- 自分から、上司に話をしに行ってますか?
- 上司のタイプを3つに区分して、パターンごとに自分の行動を変えてみたら
- 上司に嫌われる、やってはいけないこと(一発ドボン/やってしまいがちなこと/案外やっていること)
では、また。