聞き手・高重治香
2016年8月23日03時06分
天皇陛下が退位の意向をにじませるお気持ちを表明したことを受け、「戦後」について考え続けてきた文芸評論家の加藤典洋さんに話を聞いた。
◇
――天皇陛下の「お言葉」を、どのようにお聞きになりましたか。
やむにやまれぬ一世一代のコミットメント(関与)だったと思います。昭和天皇は二・二六事件の鎮圧と終戦でのポツダム宣言受諾(降伏決断)という、二つの「聖断」をしたことで戦後も存在感を持ってきました。今回、現天皇が事前告知をして国民に自分の考えを述べたことは玉音放送を彷彿(ほうふつ)とさせますが、この「戦後の玉音放送」で初めて昭和天皇をしのぐ存在感を得たと言えるのではないでしょうか。
これはあくまで私の個人的な感想になりますが、表明には直接的、間接的な理由が考えられます。直接的な理由は、後継ぎ問題など皇室制度の制度疲労への危機感から来る問題提起です。
間接的な理由は、安倍政権の改憲志向への懸念です。自民党憲法草案は、第1条で天皇を象徴から元首に変えるなど、じつは憲法改正案というより現憲法の根本精神を覆すクーデター的な提案です。誰もこの深刻さに気づいていないですが、天皇は当事者ですから敏感たらざるをえない。改正案とは憲法の根本精神に準拠して現状に合わない箇条を変更することで、根本精神を否定するのはクーデターなのです。憲法を基礎に、世界秩序に合致した、安定した象徴天皇制の確立を目指してきた天皇にとって、この草案は現在の皇室制度を破壊しかねない公然の挑戦でもある。やむにやまれぬコミットメントには、この意味も入っています。また天皇の終身制は、天皇は「神聖で不可侵」とした大日本帝国憲法を引きずっており、生前退位が法制化されれば憲法に基づく象徴天皇制が制度的に裏付けられることになります。
ただし、生前退位の意思表明を…
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朝日新聞社会部
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