ちょっと前ですが、@miki800さんのこんな記事を拝読しました。
私の観測範囲が偏っているかも知れないんですが、このニュースをtwitterのタイムラインで見かけた時、一つ心に残ったことが、
皆圧倒的に桜玉吉先生の体調や財政状況を心配している
ということでした。「めでたい」とか「懐かしい」とかの反応の遥か前に、みなさん脊髄反射的に、「玉吉体調は大丈夫か!?」とか「ちゃんと食えてるのか!?」という心配が先に出てきているように思うんですね。ちなみに、私も脊髄反射でそう思いました。玉吉先生心配過ぎます。
これ、今回に限った話ではなくって、桜玉吉先生関連のニュースが出る度に「玉吉先生の心配」が反応として乱舞しているように思います。ラブラブルート21映画化の話の時とかもそうでした。
上記のmiki800さんの記事でも、
これで桜玉吉先生に少しでも印税が入るといいなあ…
という一文が入っていますね。心から同感です。
私は、ここまでファンに「とにかく心配」されまくる漫画家さんを他に知りません。新しい情報が入ってくる度に最優先で心配される作家さんって、結構珍しいんじゃないでしょうか。とにかく、「玉吉先生に生きていて欲しいから」取りあえず単行本みんな買う、みたいな、そういうよくわからないファンが私を含めて結構な人数いるような気がします。
桜玉吉先生は、かつてファミ通で2ページ漫画「しあわせのかたち」を連載し、様々な変遷を経て一部にカルトな人気を得た漫画家です。ゲーム漫画から始まり、日記漫画へと作風を変え、その後は「幽玄漫玉日記」や「御緩漫玉日記」を経て、現在は週刊文春で「日々我人間」を連載されています。
幽玄漫玉日記の記載には、「アスキーの漫画部門が出来たのももとはといえば玉吉先生が理由」という一文が(ビーム編集長の奥村勝彦氏の発言という形で)ありましたが、そういう意味で現在のエンターブレインの設立とも無関係ではない人物です。
桜玉吉先生は、離婚されたり鬱になったり急性腹膜炎になったり漫喫生活をしたりと、とにかく読者を心配させるエピソードに事欠かない訳ですが、そういったエピソードが作品と分かちがたく結びついているところも、玉吉先生がファンから特殊な愛され方をしている理由の一つではないかと感じております。
「幽玄漫玉日記」や「御緩漫玉日記」「漫喫漫玉日記」などをお持ちの方であれば説明するまでもないと思いますが、桜玉吉先生の漫画は恐ろしい程にハイセンスで、かつ妙なリアリズムもあり、時に爆笑時に欝々と読者の感情を自在に操ること大なわけですが、やはり玉吉先生の原点は「しあわせのかたち」なのではないかと思うわけです。
この記事では、私も大好きなファミ通時代「しあわせのかたち」を振り返りつつ、「防衛漫玉日記」以前の玉吉先生の作風について書いてみたいと思います。
「しあわせのかたち」。当初は「し・あ・わ・せ・のかたち」というタイトルでしたが、なんかすぐに中点がなくなりました。当初はシュールな作風のゲームネタ2ページ漫画という印象だったのですが、すぐに「グラディウス」や「スクーン」、「メトロイド」や「悪魔城ドラキュラ」など、既存の人気ゲームのショートコミカライズというような作風に移行しました。
ここで、「ドラクエII」をネタにして、ローレシア王子である「おまえ」サマルトリア王子である「こいつ」ムーンブルク王女である「べるの」が作中に登場したことが、「しあわせのかたち」の第一のターニングポイントになったことは論を俟たないでしょう。
以下、何点か画像を引用します。所持している「しあわせ」から写真とってるんで、一部画像はちょっと汚いですが。また、出典で「○巻」と書いてあるところは、基本的に愛蔵版ではなく、原版の「しあわせのかたち」基準になっています。
この3人は、恐らく玉吉先生のこの頃の作風に合ったのだろうと思うんですが、その後スターシステムよろしく色々な作品のコミカライズに主要キャラクターとして登場することになります。この「例の3人組」がメインになったゲームネタは数多く、
・オホーツクに消ゆ(単行本1巻)
・しあわせのかたち・すぺしゃる(当初ドラクエIII、その後異世界を旅しながらいろんなゲームネタ)(単行本2巻)
・ネクタリス(単行本2巻)
・ワンダーモモ(単行本3巻)
・遊遊記→ドラクエIV(単行本3巻)
・ドクターマリオ(単行本3巻)
・F-ZERO(単行本4巻)
などなど。犬耳キャラクターの「べるの」、私が知る限り語尾に「お」をつけて喋るキャラクターの走りなんですが、この頃他にもそういうキャラっていたんでしょうか。
この時の、「怪力であまり深く物事を考えない」おまえ、「お調子もので軽薄」なこいつなどのキャラクター設定は、以降の「しあわせ」でもずっと継続されることになります。「べるの」については、どんどん絵柄が可愛くなっていき、熱狂的なファンもついたように記憶しています。サンサーラ・ナーガ2のキャラクターデザインなど、後々の玉吉先生の絵にも影響したキャラクターではないでしょうか。
単行本2巻、「しあわせのかたちすぺしゃる」では、当初ドラクエIIIっぽい導入から始まり、おまえ・こいつ・べるのにありあを加えた4人組は、異世界に飛ばされ、これまた様々なゲームをネタに、魔王軍と戦いを繰り広げることになります。
個人的には、ファミコンウォーズが始まったと思ったらいきなりドッジボール部に変貌したドッジボール編がお気に入り。ひとやま1000円の歩兵切ない。あとお寿司編とか。
この「すぺしゃる」は、通して読むと結構展開ぐだぐだでありながらとにかく不思議な面白さがあり、今でも単行本2巻を「しあわせのかたち」で一番のお気に入りに据えている人は多いのではないかと思います。もし「しあわせ」5冊で人気投票したら、個人的には2巻か5巻のどちらかがトップをとるんじゃないかと。
単行本3巻でも「おまえ・こいつ・べるの」を軸としたゲームパロディ路線は続きます。ワンダーモモをネタとした「ワンダーオオ」では初めてべるのが主役になり、当初普通の漫画のようなコマ割りで読者を驚愕させました。一瞬で元に戻りましたが。
その後、遊遊記が始まったと思ったら途中からゲームが変わった、「遊遊夕月決めました」も個人的にかなりのお気に入り。
上記は単行本3巻のべるの(+三蔵しもんと悟空おまえ)。べるのについては、この頃完全に絵柄が完成し、非常にかわいらしい絵柄になっていると思います。
この後のドクターオリマ編では、ワンダーオオに続いての学生姿の3人組を観ることも出来たりするわけなのですが。個人的には、この2巻〜3巻までを「しあわせのかたち第二期」と考えております。
さて。この後、ファミ通が週刊化したことに伴い、単行本4巻以降、「しあわせのかたち」は急展開します。「3人組」をメインにしたゲームコミカライズではなく、玉吉先生や周囲の人間を主要キャラクターにした日記漫画に、突如変貌を遂げるのです。
恐らく、直接的な要因は「週刊化に伴うストーリー構築時間不足」なのではないか、と推察します。この急展開は読者に衝撃を与え、一部には「例の3人組を出せ」という声も多かったと、4巻の作中にも記載があります(時々出てくるのですが)。
しかし、この頃の「日記漫画」という作風はこれはこれで非常に味があり、「サイバー佐藤」や「ヒロポン」「O村(ビームの奥村編集長)」といった後々「漫玉日記」のメインキャラクターになる人物もたくさん登場しています。この後の玉吉先生の作風の直接的な礎になっているのは「しあわせ」4巻5巻だと言って間違いないでしょう。
個人的には、この頃の「しあわせ」を「しあわせ第三期」と考えています。
ちなみに、ゲーム週刊誌になぜか唐突に暗黒舞踏漫画が載ったという、かの「ラブラブルート21」もしあわせのかたち4巻に端を発しています。
これ、当時も「いや、これ、何が始まったの…?」と思ったんですよね…。作中でもどんどんスペースが広がっていくことに突っ込まれてましたが。映画化企画を見た時は本当に(企画した人が)正気なのかどうか疑いました。
あと、4巻では最後に「渡る世間はメガトンパンチ」という「ほのぼのSFとサイバーパンクSFが融合しない漫画」が掲載されており、これがまた絶妙に面白かったわけですが。ミマはどう考えても百合でした。
そして、後々の漫玉日記に直接つながるのと同時に、日記ギャグ漫画としても恐らく一つの到達点となっていたと思える、「しあわせのそねみ」単行本5巻に収録されています。
いやこの漫画、絵柄の意味不明なリアリズムもさることながら、大きな特徴が「文章が台詞外で書かれるようになった」こと。後の漫玉日記でもそのままいえることなんですが、玉吉先生の文章がまた物凄く独特なリズム感で読みやすく、凄い展開でありながらするする頭に入ってくるんですよね。玉吉ワールドの一つの集大成と言えるかもしれません。
そんなわけで、「しあわせのかたち」について駆け足で振り返ってまいりました。
個人的に私が言いたいことをまとめておくと、
・日々我人間って単行本でないんですか?出たら買います
・けどそもそもまだ単行本になる量書かれてないような気もしないではない
・べるの可愛い
・2巻でべるのが頻繁に脱がされていたのは様式美
・けどすぺしゃるで一番好きなキャラクターはご隠居
・みんな漫玉日記買ってあげてください別に私のamazonリンクからじゃなくていいんで
ということくらいであり、他に言いたいことは特にありません。
今日書きたいことはそれくらい。