◇孤立集落から住民ヘリ輸送…岩手・岩泉
孤立集落の住民をヘリで早く安全な場所へ--。台風10号で大きな被害を受けた岩手県岩泉町で4日、近づく台風12号による風雨に備え、道路の寸断などで山間部に孤立している住民全602人を5日までにホテルなどに移す計画が始まった。町は全域に避難指示を発表。復旧作業が続く中、次の台風への対応に追われる事態となった。一方、町内の避難所では長い人で避難生活が6日目となり、疲労の色を濃くしている。【国本愛、山中宏之、成瀬桃子】
【岩手県岩泉町】自衛隊ヘリで孤立集落から避難
町中心部の町立岩泉中グラウンド。4日午前9時前、プロペラ音を響かせて着陸した自衛隊ヘリコプターから、衣類をつめた荷物を抱えた住民が次々と降り立った。つえをついたり、自衛隊員の背中にしがみついたりしている高齢者の姿も。山間部の集落で1人暮らしをする佐々木ヨウ子さん(67)はここ数日、近所の人と一緒にろうそくで夜を過ごしてきた。発電機を使い、わき水で米を炊いた。「また台風が来ると聞いて不安だった」と話した。
県によると、陸上自衛隊のヘリコプター6機を投入。午後6時までに孤立集落から約150人を救出し、町中心部の観光ホテルに誘導した。
町南部の山間部に住む男性(58)は孤立していた間、電気も水道もなく、沢水でしのいだ。冷蔵庫の食料や畑のトウモロコシを引っこ抜いて食べたという。浸水被害はなかったが、トタン屋根が数枚飛び、「朝起きると、泥やがれき、流木で道も分からず、橋が半分落ちていた。見たことのない風景だった」。ここ数日は、近所の家の泥かきの手伝いをし、疲れからか、食欲が落ちた。「助けてもらってほっとしている。道路を早く直してほしい」と話した。
台風10号が上陸した8月30日以降、町は6カ所に指定避難所を設置。4日午後6時現在、約360人が避難している。
「もうどごさ行ったらいいかわかんね」。沿岸部の小本(おもと)津波防災センターに身を寄せる西倉芳江さん(79)は苦笑いした。小本地区山間部の自宅は30日夜、1階が浸水。玄関からジャバジャバと水があふれ、「おっかねえな」と2階に上がると、みるみる水かさが増した。気付くと、どこにも避難できなくなっていた。2日間、停電の中で娘と2階で過ごした。水は引いたが、靴が流され、裸足で国道を歩いて避難所にたどりついた。
町中心部にある避難所の町民会館。町内に住む森山ミツさん(62)は30日、病院で働いていたが、自宅への道路が寸断され帰宅を断念。同会館に避難し、6日目を迎えた。「家に愛犬が残っているので気がかりだ。早くうちに帰りたい」。数時間かけて徒歩で帰ろうかと思ったが、4日、避難指示が出たことを知り、あきらめたという。
一方、自宅に残っている人も。岩泉町乙茂(おとも)の自営業、藤田純子さん(67)は自宅2階に寝泊まりしている。3台の車は流され、足が不自由な96歳の母がいる。「とてもじゃないけど避難所まで動けない」。周囲の人から「避難して」と声をかけられているが、この日も自宅で夜を過ごすという。