うのたろうです。
破傷風という病気を知っていますか?
名前はきいたことがあるけど、いまいちピンとこない。
そんな方が多いと思います。
じつはこれ、けっこう怖い病気なんです。
なんといってもこの21世紀の日本において現在でも致死率が10%以上にものぼるというのですから、その恐ろしさが伝わるのではないでしょうか?
というわけで。
本日は少々まじめなお話し。
「破傷風について」
原因はなにか?
どんな症状があらわれるのか?
また、破傷風になってしまったら、どんな治療法があるのか?
ちゃんと治るのか?
そのあたりをしっかりと見ていきましょう……
破傷風とは?
ひらたくいえば「感染症」です。
1950年ころには破傷風患者が年間数1000人単位でいたとされています。
破傷風の原因は土のなかの破傷風菌というもの。この細菌が傷口などから体内に侵入することによって大変な事態をまねくそんな病気、それが「破傷風」です。
では、破傷風による大変な事態とはどんなものでしょうか?
じつはこれ、けっこう険呑(けんのん)です。
破傷風菌は体内に侵入し増殖すると、最近自体が毒素を発生させるようになります。
その結果、開口障害やけいれんなどの破傷風特有な症状があらわれ、重症になると死に至ってしまうのです。
これが破傷風の恐ろしさです。
でも……
子どものころに予防接種をしたような……?
この破傷風に関しましては、日本では1953年から破傷風ワクチンの任意接種が開始されています。そして1968年からは三種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日咳(ひゃくにちぜき))のひとつとして現在も実施されています。
ですので1968年以降に生まれた方は子どものころに、この予防接種を打ったという方がほとんどだと思います。
では、子どものころに予防接種を打ったから安心なのでしょうか?
正解は「NO」です。
じつは、そんなことはないのです。
といいますのも、子どものころの予防接種の効果はすでに切れてしまっていると思って間違いありません。破傷風の予防接種の効果が持続しているのはギリギリ20代まで。もちろん効果には個人差がありますので、21歳ですでに切れてしまっている人もいれば、30歳になっても余裕で効果が持続している人もいます。
そんなわけで決して過信してはいけません。
20代にはいった方は、子どものころの破傷風の予防接種の効力に過度な期待をしてはいけないということです。
その証拠に現在も年間で破傷風患者は0にはなっていません。
毎年50〜100人ほどの男女が破傷風にかかっています。しかも死亡率はなんと一般で30%以上。発症後の治療は難しく高齢者ほど重くなってしまうため、子どものころに予防接種を打ったから安心というわけではなく、さらなる予防が重要視されているのです。
では……
破傷風菌はどうやって体内にはいってくるの?
前述の通り破傷風菌は地表から数cm付近の土や泥のなかにいます。
分布図として、とくに多い地域や少ない地域などはなく、日本全国どこにでもいると思って間違いありません。
土や泥のなか――破傷風菌は空気に弱いという性質を持っています。そのためこういった酸素が少ない環境=嫌気性(けんきせい)環境をこのむ性質があり、そういった場所で生息、増殖するのです。
そしてそんな土や泥のなかにいる破傷風菌は傷口などから人間の体内に侵入してきます。通常は深い創(そう=傷)から感染するというのが一般的です。
これは前述の通り破傷風菌が空気に弱いためです。1cm以下の浅い傷では破傷風菌がそのままの形で生きられないからです。しかし感染の可能性は0%ではありません。1cm以下のごく浅い小さな創からも破傷風に感染することもあるので油断は禁物です。
なぜなら、破傷風菌はみずからに適さない環境にいるときは芽胞(がほう)という硬い膜で覆われみずからを保存しているからです。そして創などから人体内部にはいりこんだ際に芽胞から解放され毒素を放出すのです。
ちなみに。
破傷風が発症してしまうような深い創とは、たとえば「古いくぎなどを踏んだとき」などがそれにあたります。その釘についていた砂粒や木片などが体内に残った場合破傷風菌が活動を開始してしまうのです。ほかにもピアスや覚せい剤の注射、熱傷、中絶など、これらも深い傷にあたります。
そして浅い創の感染経路としましては、たとえば「傷ついた手で土をいじったとき」や「運動のさいにすり傷ができたとき」などがそれにあたります。破傷風の4ぶんの1は外傷歴不明例というものですので、決して低い数字とはいえません。
ほかにも、ごくまれにですが、分娩時の不適切な臍帯(さいたい)処理により感染してしまうケースもあるようです。これらは「新生児破傷風」あるいは「産褥性(さんじょくせい)破傷風」と呼ばれています。
また消化管などの手術時に破傷風に感染してしまったというケースもありますので、その感染経路の多さにも驚かされます。
破傷風の症状は?
では、破傷風が発症してしまうとどのような症状があらわれるのでしょうか?
また、破傷風の潜伏期間はどれくらいなのでしょうか?
破傷風菌は体内に侵入してから毒素を放出させます。
その毒素がじわりじわりと広がり、ヒトの神経の一部に接合し神経の抑制系が侵されます。その結果、神経の興奮が持続的に引き起こされるのです。
するとどうなるのか?
全身や顔面の筋肉のけいれんなどの症状があらわれます。感染してから一週間後くらいが発症の目安です。
もちろん、破傷風の症状は段階的に広がってきます。いきなりひどい症状がでるのではなく、だんだんと悪化してくるといった感じです。そのようすをごらんください。
破傷風の症状①「潜伏期」
潜伏期は2日〜8週間。かなり幅があるのが特徴です。
この期間に自覚症状はありません。しかし、確実に破傷風菌は毒素を体内で放出しています。
破傷風の場合、一般的に感染から発症までの時間が短いほど死亡率が高くなります。また同様に開口障害から全身けいれんまでの時間(オンセット・タイム)が短いほどにも死亡率が高くなります。
ちなみに。
破傷風は大きく4つのものにわかれます。その4つとは以下のもの。
◎.「全身性破傷風」
典型的な破傷風。破傷風といえば、たいていがこれ。症状は全身のけいれんがあらわれることです。
◎.「限局性破傷風」
けいれんが創の周囲のみに限定されているもの。
◎.「頭部破傷風」
頭部の創から感染して顔面神経を中心とする脳神経を麻痺させる恐ろしいもの。
◎.「新生児破傷風」
出産時の不適切な臍帯処理により感染する破傷風。
いずれの場合もこの潜伏期に速やかに診療にかかることが重要になってきます。もっとも、この段階では自覚症状がないため、どうしても治療が遅れてしまいます。ですので、古い釘などを踏んだ場合、土や泥の周辺で怪我をした場合は、症状のある・なしにかかわらず病院を受診するようにしてください。
では、この潜伏期をすぎるとどうなるのでしょうか?
破傷風の症状②「第1期」
まずは全身の倦怠感(けんたいかん)があらわれます。しかし、この時期の診断はひじょうに困難であるため見逃してしまうこともしばしばあります。
ほかにも、初期症状として、肩こり、舌のもつれ、顔の歪みといった症状からあらわれてきます。そしてほとんどの場合、これがエスカレートし第2期の開口障害に発展します。
破傷風の症状③「第2期」
顔の筋肉がこわばり、口がひらきにくくなるのがこの破傷風第2期の特徴的な症状です。
「開口障害」では口をあけにくくなり、歯が噛みあわさった状態になってしまいます。その結果、食物の摂取が困難になります。
この症状を牙関緊急(がかんきんきゅう)と呼び、こわばりから笑っているような顔になる症状「痙笑(けいしょう=ひきつり笑い)」と呼ばれることもあります。
またこの時期になると首筋が張り、寝汗や歯ぎしりなどの症状もあらわれます。さらには嚥下(えんげ)・発語障害、歩行障害まであらわれます。
たいていの場合、この段階で「おかしいな?」と考え受診される方が多いです。自己判断で歯科や耳鼻科を受診した結果、破傷風と診断されるという流れです。
病院で破傷風という診断を受けると、そのまま集中治療室がある病院へ送られることになります。
こちらもまだぎりぎり初期症状という扱いができます。ですのでここから急いで病院にいきすぐに治療を開始すれば、しっかりと完治できる段階です。この時期にすみやかに治療を開始することがとても大切になってきます。
このように破傷風では、発症後の経過に従ってどんな兆候があらわれるのかがわかります。しかし、この段階で病院にいかなければ第3期――つまり手遅れになってしまいます。
破傷風の症状④「第3期」
この時期は破傷風の末期。全身的な筋肉のけいれんがあらわれる時期です。この段階は生命にかかわります。ありていにいえば、最悪の場合、死に至ります。
またこの時期になると、けいれんにより背中が反り返る症状「後弓反張(こうきゅうはんちょう)」など破傷風の特徴的な症状があらわれます。また、小さな音や光に反応してけいれんが起こります。
この段階では呼吸筋がけいれんするため自身での呼吸が困難になります。
そのためこの段階にくると人工呼吸器が必要になります。この人工呼吸器を使用する場合は器官を切開しなければいけなくなります。これは、はっきりいっておおごとです。
第3期では破傷風による痛みは全身に広がり、意識がある状態で激痛が身体じゅうを駆けめぐるという最悪の感覚を味わうことになります。
あまりに激しい痛みのため、筋肉が壊れてしまうことや、身体を弓なりにした際に背骨を骨折してしまうことさえあります。
この時期の治療には呼吸や血圧の管理が必要となるため、ICUなどでの集中治療が必要となります。
そしてきちんとした治療をほどこすことにより第4期に移行していきます。
破傷風の症状⑤「第4期」
回復期です。
神経に結合した毒素の作用が低下すると、この回復期にはいります。ここまでくればもう安心です。破傷風は治ります。
では、次に……
破傷風の予防策は?
では破傷風にかからないためには、そもそもどのような対策を講じればよいのでしょうか?具体的には予防をすることが一番だいじになってきます。
つまり、怪我をしたから病院にかかるのはもちろんですが、それ以前に怪我をしても大丈夫な状態にしておくことが重要だということです。
具体的には「大人になってからもう一度、破傷風の予防接種を受けること」これがもっとも重要なのです。
しかし、そうはいってもなかなかそうはいきません。
怪我をしてからあわててしまうことがほとんどです。
なのでもし土をいじって怪我をした場合は、かならず水道水などで砂粒が残らないように傷口を充分に洗浄してください。そして消毒をし、その後、放置せずかならず最寄りの外科を受診してください。
そして病院では「トキソイド」という破傷風のワクチン接種を受けることが望ましいです。
しかし、怪我による傷が小さすぎてすぐには気づかないというパターンもままあります。そんな場合はどうしたらよいのでしょうか?
こちらもやはり日ごろからの予防――つまりワクチンの接種を事前にしていることが重要になってきます。とくに中年以降の人は積極的に予防接種を受けるようにしてください。
破傷風のワクチンは子どものころに予防接種を受けている人の場合、1回の接種ですみます。手間もそれほどかかりません。では……
もしその予防もせず、小さな怪我に気づかず放置してしてしまったら?
おそらく破傷風の症状があらわれます。ですが、すぐに病院にいけばまだ助かります。かならず初期症状のうちに設備が整った医療施設を受診してください。できれば第1期に。遅くても第2期の初期症状があらわれ始めた直後までに。それ以降ですと、本当に手遅れになってしまいます。
もう一度いいます。第3期は命にかかわってきます。
本当に恐ろしい病気ですので注意するようにしてください。では……
破傷風の見極めは?
そんな破傷風ですが、初期症状ではそれほどひどい状態ではありません。
どのような場合に疑いを持てばよいのでしょうか?
考えるポイントは3つです。それは……
◎.顔の筋肉がこわばっていないか?
◎.自分の年齢はいくつなのか?
◎.免疫がもうなくなってしまっていないか?
まず顔の筋肉にこわばりがある場合は、破傷風を疑ってください。前述の通り、破傷風は潜伏期間に大きな幅があります。そのため「最近、土いじりをしていないから大丈夫」ということは決していえません。2ヶ月以上まえの土いじりの際に体内に侵入した破傷風菌が長い潜伏期間を経て症状としてあらわれる場合もあります。
次に自分の年齢についても考えてください。
30代ならばほぼ確実にワクチンの効果が切れています。30代の方で顔にこわばりが見られたら破傷風を疑うようにしてください。
最後に免疫についても考えてください。
10代ならまだしも20代以降になると個人差でだんだんと免疫がなくなってきてしまいます。「まだ30歳になっていないから大丈夫」と考えてはいけません。人によっては20代のうちに免疫がなくなってしまっている場合もあるので、やはり顔のこわばりがでたら破傷風を疑うようにしましょう。
以上のことから、もし破傷風に似た症状があらわれた際は、このような点に注意してください。そして破傷風を疑い急いで病院を受診してください。一刻も早く治療をしなければ手遅れになってしまいます。
そのため破傷風に気づいた場合は、すぐに病院の救急部門、外科、内科のいずれかに連絡してください。またひどくなってしまい全身的な筋肉のけいれんがある場合は、自分で動くのは禁物です。かならず救急車を呼んでください。
また破傷風菌は少量の場合、創から検出されません。しかし破傷風菌が体内にはいってしまうと確実に発祥し症状があらわれます。とくに中年以降の人でスポーツをよくされる方は注意してください。
破傷風と診断されたら?
では、もし破傷風と診断された場合、どのような治療を受けることになるのでしょうか?
わかりやすくいえば「傷口の洗浄→抗菌薬の投与」です。
具体的にはまず創をひらいて洗浄します。
その際に壊死(えし)組織や異物の除去をおこないます。また体内に残っている破傷風菌を減らすために抗菌薬を点滴し体内に注入します。
さらに抗破傷風ヒト免疫グロブリン(抗毒素血清(こうどくそけっせい))で破傷風がつくった毒素を中和します(ただし抗毒素血清は神経組織にすでに結合した毒素に対しては効果がありません)。
けいれんに対しての治療は、抗けいれん薬の投与をおこないます。
また呼吸や血圧の管理を中心とした全身管理をおこないます。
これが一連の治療の流れです。
破傷風の予防には~あなたは基礎免疫がある人? ない人?
では、破傷風を予防し、破傷風にならないようにするにはどのようにしたら良いのでしょうか?
何度もいいますが大切なのはワクチンを定期的に接種することがもっとも大切になってきます。このワクチンというのは5年~10年間効果が持続します。
しかし、このワクチンの接種というものは破傷風に対する基礎免疫がある人とない人で摂取方法が変わってきますので注意が必要です。
では、どんな人が「基礎免疫がある人」で、どんな人が「基礎免疫がない人」なのでしょうか?
【基礎免疫がある人】
子どものころに「混合ワクチン」の接種をした人
【基礎免疫がない人】
1968年~1981年生まれの人、混合ワクチンの接種を受けなかった人(子どものころ破傷風の予防接種を1回も打っていない人に免疫はありません)
基礎免疫がある人に関しましては、5〜10年に一度、破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)を追加接種することで破傷風に対する免疫力をキープしていきます。
基礎免疫がない人に関しましては、外傷時にまずは基礎免疫をつくるところから始めなければいけません。外傷時、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(抗毒素血清)を接種することにより破傷風に対する免疫力が約1ヶ月間アップします。しかしそれだけでは以降の免疫力向上にはなりません。
基礎免疫がない人が外傷時から破傷風基礎免疫や破傷風免疫をつくり始めるには、混合ワクチン接種と同様に破傷風ワクチンを用いるのです。
具体的には3回のワクチン接種をおこなうことになります。
1回目:破傷風ワクチンを受傷時
2回目:3〜8週後に接種
3回目:外傷時から12〜18カ月後に追加接種
1回目の摂取では約一ヵ月間持続、2回目の摂取では短期間免疫力が高まる効果、そして3回目の摂取でようやく破傷風免疫が5年間高まる効果が期待できるようになるのです。
そしてさらに3回目の接種から5年後に4回目の追加接種をおこなうとその後は10年間に一度の接種で効果が持続するようになります。
このように破傷風の免疫をつくるには手間と長い時間がかかるということがわかります。
まとめ
破傷風――
とても怖い感染症です。
この科学が発達したクリーンな21世紀にこんな旧世代の病気が残っているというのも驚きですが、事実40歳以上の方が年間100名以上かかっており、そのなかの10%は死亡しているのです。
ちなみに破傷風患者は40歳以上が95%、40歳未満が5%という数値なので、いかにワクチンの接種が重要であるかということもわかるかと思います。
もちろん日本だけではありません。
正確な統計ではありませんが発展途上国では年間、数10万~100万人が死亡しています。しかもその大多数が乳幼児だというので、おそらく臍帯処理時に感染して発症した「新生児破傷風」と考えられるのではないでしょうか。
破傷風菌の数はそんな発展途上国と日本で大きく変わるということはありません。
菌の数はどちらもほぼいっしょです。しかし発展途上国の場合、道路が整備されていないなどして怪我をする確率が日本よりも高いため、このような差がでてきてしまっているだけです。
日本でも怪我をすれば破傷風は発症します。
もう一度いいます。
破傷風は本当に怖い病気です。
きちんとワクチンを接種し、かからないようにしてください。
そして、もし土や砂がある場所で怪我をしてしまったら、浅いからといって安心せず破傷風を疑い、かならずすぐに病院を受診するよにしてください。
本日、まじめに。
うのたろうでした。
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