呼び込めクルーズ船客 官民一体で巻き返し 大阪
豪華なクルーズ船で日本を訪れる外国人旅行客が増えている。昨年は初めて全国で100万人を突破。関西でも、今年、大阪港に立ち寄るクルーズ船の数は、2年前から倍増しそうだ。
一度の寄港で数千人規模の観光需要が見込めることから、各地の港町は地域の特色を生かしたツアーを構築。乗客に日本の伝統文化への関心が高い欧米人が多く、京都、奈良へ“素通り”されてしまうことに悩む大阪も、官民一体となった巻き返しに力を入れている。
どうやって大阪に足を向けさせるか
「串カツ! フグ! 新世界は庶民派グルメストリート」
「黒門市場で購入できる鮮度の良い上質なフルーツはぜひお土産に」
大阪市や大阪商工会議所などでつくる「大阪港クルーズ客船誘致推進会議」のパンフレットでは、大阪に寄港したクルーズ船客が楽しめる12種類の日帰り観光コースが紹介されている。「奈良や京都にはない大阪ならではの街の魅力を知ってもらいたい」(担当者)と旅行業者向けに作成された。
観光立国をめざす政府方針の下、クルーズ船で来日した外国人旅行客数は昨年111万6,000人に上り、2020年の目標だった100万人を大幅に前倒して達成した。
大阪市によると、大阪港に立ち寄るクルーズ船も増えており、今年は2年前の13隻の2.15倍に当たる28隻が入港する見込みだ。21隻が寄港した昨年の乗客総数は2万8,800人。大阪府を訪れた外国人観光客716万人と比べれば少ないが、関係者は「経済効果は高い」と期待している。
中国人観光客の“爆買い”が目立つ大阪だが、クルーズ船客の場合はヨーロッパや英米からの旅行者が多いのが特徴。電化製品などの買い物より、日本情緒あふれる神社仏閣の見物や茶の湯体験などに関心があり、京都、奈良へ出かけてしまう人が多いのが関係者の悩みになっている。
大阪市の担当者は「大阪城はそれなりに有名だが、他に何もないと思われているようだ」と分析。「四天王寺や堺の茶の湯など、日本らしさを感じられる場所が大阪にもたくさんあることをPRしていきたい」と話す。
鳥取、島根も期待
クルーズ船の寄港に地域経済の活性化を期待するのは大阪だけではない。
鳥取県では、隣り合う島根県の観光協会などとともに、歴史に興味ある40歳フランス人男性▽アニメや漫画が好きな30歳代台湾人男性-などと架空のターゲットを定めて観光ルートを作り、今年は境港で昨年の 1.5倍の寄港を見込む。
6月に中国人観光客ら約 6,000人を乗せたクルーズ船が寄港した名古屋市の金城ふ頭では、総合免税店のラオックスが「爆買い」需要を狙い、臨時出店した。
和歌山県新宮市は4月、新宮港に入ったクルーズ船を平安衣装に身を包んだ市観光協会の女性職員らが出迎え、「世界遺産・熊野」の海の玄関口をPRした。
いずれも行政と民間が協力しているのが特徴で、大阪大の赤井伸郎教授(公共経済学)は「官民一体で観光客の取り込み策を考えて実践していくと、街の結束力が高まり、にぎわいが生まれる」と期待している。