汚職は許しません!フィリピンの「おばあちゃん」 行政監察官
2016年09月05日 19:46 発信地:マニラ/フィリピン
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【9月5日 AFP】フィリピンで汚職取り締まり機関トップを務めるのは、怖いもの知らずの75歳の「おばあちゃん」、コンチータ・カルピオモラレス(Conchita Carpio-Morales)行政監察官(オンブズマン)だ。自国から汚職を一掃すべく、数多くの政治家たちの告発を命じてきた。大統領も例外ではない。額面通りの殺害予告を受けることもあるが笑い飛ばしてしまう。
事務所でAFPの取材に応じたカルピオモラレス氏は、2012年に自宅付近で自分のイニシャル入りの手投げ弾が見つかったことがあると明かした。このため仕方なく自宅の防護フェンスを高くしたのだと、くすっと笑いながら話してくれた。
「私は怖がってなんかいませんよ」と机をたたきながら語るカルピオモラレス氏の目は光を放っている。おびえているのは彼女の調査対象となった人たちで「だからこそ私を脅そうとするんです」と同氏は語った。
贈収賄などで腐敗しきったフィリピンで汚職との闘いは危険な仕事だ。証人だけでなく判事まで射殺されることもあり、政治家たちは有罪判決を受けながらも釈放されて再選を果たす。
誠実な弁護士一家に生まれたカルピオモラレス氏は、清廉潔白だったゆえに昇進には時間がかかった。それでも最高裁判事まで上り詰め、2010年にはベニグノ・アキノ(Benigno Aquino)大統領の就任宣誓に立ち会った。
汚職で悪名高いフィリピンの法曹界で40年間勤め上げ定年退職を楽しみにしていたところ、反汚職政策を重要課題に据えていたアキノ大統領から、汚職に関与した役人たちを起訴する特別機関のトップにと請われた。
そんなカルピオモラレス氏は先月31日、「フィリピンで最も困難な問題の一つに正面から立ち向かう道徳的な勇気と正義への献身」を評価され、アジア版ノーベル賞(Nobel Prize)といわれる「ラモン・マグサイサイ賞(Ramon Magsaysay Award)」を受賞している。
■「不可侵」な存在にも容赦なし
疲れ知らずのカルピオモラレス氏は1日12時間、週6日間、行政監察官としての任務をこなす。だが日曜だけは空けてある。孫と過ごすためだ。
カルピオモラレス氏が行政監察院のトップに就任した2011年当時には41%にとどまっていたフィリピンの有罪率は、同氏の努力のかいあって75%にまで上昇した。
アキノ政権下で進歩がみられたとはいえ、フィリピンにはびこる腐敗の撲滅は骨が折れる仕事だとカルピオモラレス氏は言う。さらに、汚職をしても逃れられると思うから汚職がまん延するのだと同氏は指摘。不可侵とされた役職の人たちを起訴すれば、気を付けなければいけないという警鐘になるはずだと語った。
カルピオモラレス氏にとって最も不本意だったのは、グロリア・アロヨ(Gloria Arroyo)元大統領と有力上院議員だったフアン・ポンセ・エンリレ(Juan Ponce Enrile)氏について汚職の動かぬ証拠を提示しながらも、最高裁が両氏をそれぞれ釈放、保釈してしまったことだ。
その粘り強さゆえにカルピオモラレス氏は敵も多い。ジェジョマル・ビナイ(Jejomar Binay)前副大統領もその1人だ。マカティ(Makati)市長時代に巨額の賄賂を受け取っていたと告発されたビナイ氏はカルピオモラレス氏を「ばか者」と呼んだ。
それでもカルピオモラレス氏はひるまない。フィリピンの利益誘導政治の文化が指導者たちを説明責任を果たさないままに野放しにしていると主張する。
行政監察官としてのカルピオモラレス氏の任期は2018年まで続く。現在のロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領の下でも引き続き汚職撲滅の任務を続ける意向だ。行政監察院の中立性も堅持していくという。「私たちは誰からも命令は受けません。行政監察院は独立した機関なのです」(c)AFP/Ayee Macaraig