オバマ米大統領が任期最後の訪中で画期的な合意をした。

 2020年以降の温暖化対策を取り決めたパリ協定の締結を習近平(シーチンピン)国家主席と発表した。

 温室効果ガス排出で世界1、2位の国が削減を約束したことで、協定は年内発効へ大きく前進した。高く評価したい。

 これまで京都議定書では、米国は削減に後ろ向きだった。中国も経済戦略にたがをはめられるのを嫌い続けた。それだけに隔世の感がある。

 両政権とも、責任ある大国としてアピールできる点を含め、様々な思惑があるはずだ。

 中国の国力増大は必然である以上、国際ルールの枠内に中国を導き、平和的な共存を図る。これが米国の対中外交の基本方針である。

 それはオバマ政権が1期目から肝いりで進めたアジア重視政策の柱でもあった。今回の米中合意は、その政策の成果の一つとして特筆されるだろう。

 しかし米中関係全体を振り返れば、協調よりも対立が進んだ8年間だった。特に安全保障面での緊張が強まっている。

 主な原因は中国軍の増強と、既存秩序への挑戦的な振るまいである。南シナ海での岩礁埋め立てを一気に進め、宇宙やサイバー空間でも活動を広げた。

 これに対し米国は、日韓などとの同盟強化に加え、フィリピンやベトナムなどとの安保協力を強めた。もはや世界の警察官ではないとしつつも、周辺国との連携の網を広げて中国を牽制(けんせい)するねらいがある。

 一方、米中は経済の結びつきがいっそう深まっている。中国は大量の米国債を保有し、米企業は中国での商機拡大を図る。冷戦下の米ソとは異なり、対立と依存が交錯する関係だ。

 その中で今回、温暖化対策の合意ができたのは、習政権がそこに利点を見いだしたからだ。中国は今や、エネルギーを浪費する古い産業構造から転換せねばならない。それにパリ協定は利用価値があると踏んだのだ。

 国際的な協調行動の流れに乗ることが、自国にも利益をもたらす。中国がそう感じる領域を広げることにこそ、今後の対中関係のかぎがある。

 持続的な経済成長がさほど容易ではなくなってきた中国にとって、対外関係の安定は大切なはずだ。安保面でも、米国との協調に利得があると判断させる知恵が求められる。

 中国との向き合い方をめぐる難問をオバマ氏は次期政権に引き継ぐ。日本を含むアジア最大の外交課題でもあり、地域全体で対話の深化を探りたい。