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<4選出馬撤回問題>新潟知事と地元紙、明快な説明必要

知事選への立候補撤回表明後、最初の定例記者会見で記者の質問に答える泉田知事=新潟市中央区の県庁で8月31日、米江貴史撮影

 知事が「地元新聞社が事実を報じないので、自分の訴えが届かない」と4選出馬表明を撤回し、地元新聞社は「知事のコメントは報道への圧力だ」と紙面展開する−−。新潟県で不可思議な事態が起きている。識者らからは明快な説明、報道を双方に求める声が上がる。【青島顕、加藤隆寛】

    識者の見方

     今月29日告示の知事選に4選出馬を表明していた新潟県の泉田裕彦知事(53)が8月30日、撤退を発表した。地元紙・新潟日報による県出資企業のトラブル報道について「臆測で事実に反する。このような環境では訴えを県民の皆様に届けられない」と主張した。新潟日報は翌31日朝刊に、服部誠司編集局長名で「一連の報道は綿密な取材に基づいており、報道機関への圧力だ」との反論を掲げた。

     地元で騒動を見た越智敏夫・新潟国際情報大教授(現代政治理論)は「泉田氏の話はあまりに分かりにくい。県民が納得しないことを分かっていながら言ったとすれば、政治家のやるべきことではない」と知事を批判する。さらに「知事と新潟日報の間で『誤報だ』『正当な報道だ』と争いになったが、事実の解釈・評価が立場によって違って見えるのは当たり前のことだ。知事は権力を監視する報道機関の役割が分かっていないのではないか。権力批判の報道に権力側が口出しするのは、脅しにほかならない。そもそも12年間の仕事をこんなことで投げ出すのは無責任だ」と指摘した。

     「理解できない。事実に反する報道をされたなら戦うべきだが、なぜそれを理由に選挙に出ないのか」。宮城県知事を3期務めた浅野史郎・神奈川大特別招聘(しょうへい)教授も泉田知事の対応を疑問視する。「私は新聞は批判するものだと考えていたので、在任中ストレスはゼロだった」と言い切る。新潟県の東京電力柏崎刈羽原発に関する泉田知事の対応を評価してきたといい「東電や政府に毅然(きぜん)とした態度を取ってきたし、住民の安心を重視した姿勢に共感してきた。今回の対応は同じ人物とは思えない」と首をかしげた。

     一方、メディア倫理法制が専門の大石泰彦・青山学院大教授は「両者とも内輪な感じがする」と話す。「トラブルの報道を読んでも問題点がよく分からない。新潟日報は事実を示したうえで、問題があるならきちんと追及すべきだ。そうでなければ自らも当事者として政治的な思惑で動いていると勘ぐられかねない」と報道に疑問を投げかけた。

    泉田氏の横顔

     泉田知事は新潟県加茂市出身。京都大卒業後、1987年に通商産業省(現・経済産業省)に入省した元キャリア官僚だ。2004年の新潟県知事選に当時全国最年少の42歳で初当選した。就任2日前に中越地震が発生し対応に追われた。県財政の合理化にも取り組んだ。08年に再選され、12年には共産党を除く各党の推薦を受けて3選を果たした。

     柏崎刈羽原発の再稼働を巡っては「福島第1原発事故の検証が先だ」として国や東電との対決姿勢を鮮明にしてきた。13年7月に県庁を訪れた東電の広瀬直己社長に対して「お金と安全、どちらが大事ですか」と畳み掛け、話題になった。ただ、今年2月に4選出馬を表明した際は「観念的に『脱原発』と言ったことはない。安全が確認できても再稼働の議論はできないとは言っていない」と姿勢の“軟化”もうかがわせた。

     昨年開業した北陸新幹線に関しては、県の負担増を一時拒否して国と対立した。「全列車が県内駅に止まらなければ負担に見合った受益がない」「制度設計がおかしい」と国批判を繰り返し、09年以降、増額分を予算計上しないなどの強硬措置に出た。国から在来線の赤字分支援などを提案され、12年に一転して同意した。最速の「かがやき」は結局、県内駅を通過することになった。

    新潟日報の姿勢

     新潟日報は第二次大戦中の42年、「新潟日日新聞」など3紙が合併して誕生した。同紙によると、発行部数は現在46万部で、県内シェアは67%に達し、県内世論に強い影響力を持っている。泉田知事は8月30日に知事選出馬撤回を説明した文書の中で、同紙の原発への姿勢について「東電の広告は今年5回載った」などと批判したが、同社は原発への厳しい姿勢の報道で知られる。

     07年の中越沖地震で、柏崎刈羽原発が火災を起こしたのを受け、連載企画「揺らぐ安全神話 柏崎刈羽原発」を7部にわたって掲載し、08年度の新聞協会賞を受賞した。その後も長期連載「原発は必要か」を掲載している。今年2月の「検証 経済神話」では、原発の地域経済への効果に疑問を投げかけた。

    問題の経過

     泉田知事が問題にしたのは、新潟とロシア極東を結ぶ「日本海横断航路構想」に関する新潟日報の報道。新潟県が3億円を出資した民間会社の子会社は昨年8月、航路に使う中古フェリーの購入契約を韓国企業と結んだ。速度が出ないことが分かってフェリーの受け取りを拒否すると、韓国企業が仲裁機関に申し立てをし、仲裁機関は子会社に1億6000万円の支払いを命じた。

     新潟日報は7月以降、「知事がフェリーの絞り込みの経緯を把握していた」などと連日のように報じ、泉田知事を批判した。知事は8月の県議会で事態が進まないことを陳謝したが、「県はフェリー購入を決める取締役会のメンバーでない」と反論し適正な報道や記事の訂正を計7回求めた。さらに記者会見で新潟日報への申し入れ内容を発表し、県のホームページにも掲載した。

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