3Dプリンタで岩を打ち出す?!一体何のために?と思われる方も多いでしょうが、そこには多額の費用がかかる宇宙開発との関わりがあるようです。
宇宙開発とサンプリング
アポロ11号が初めて22 kgの月の石を持ち帰ったのは、1969年7月24日のことである。
アポロ計画はその後5回の有人月探索に成功し、6回の探索の結果、計382 kgの月の石のサンプルを持ち帰っている。
またソビエト連邦も無人月探索計画であるルナ計画により、326 kgの月の石のサンプルを持ち帰ることに成功している。
現在、地球上には、両国あわせ708 kgの月の石のサンプルが存在することになる。
また日本では、2010年6月10日に小惑星探査機はやぶさが地球から約3億 km離れた小惑星イトカワからのサンプルを持ち帰っている。
このように宇宙探索で得られたサンプルは非常に貴重であり、また再度採取するにしても多額の費用がかかる。
3Dプリンタでの石の再現
スタンフォード大学の研究チームは、3Dプリンティング技術と遠隔3Dイメージング技術を使い、はるか遠くの惑星の岩石を再現し、実際に手にとって研究できるよう技術開発を進めている。
もしこの技術が確立されれば、他の惑星から岩石サンプルを持ち帰る前に、地球上で再現し、特に興味深いサンプルを選択するといったことが可能となる。
だがただ岩石の形を3Dプリンタで打ち出すというわけではない。
実はこれまでにも3Dプリンタで岩石の形を打ち出している研究者はいる。
その目的は岩石の細部を拡大したものを打ち出し、詳細を目で見て解析できるようにするといったものだった。
しかし今回の目的はそれとは異なる。
研究チームはミクロのレベルで岩石を再現することにより、気孔率(岩石中の穴の率)や透過率(水の通りやすさ)などの性質まで忠実に再現した物理的に同じ岩石を再現しようとしているのだ。
バレリーナの靴
研究チームを率いているTiziana Vanorio博士がこの他の惑星の岩石を忠実に3Dプリンタで再現するというアイデアを思いついたのは、数年前にカスタマイズされたバレエ用のシューズを購入した時だった。
その時の購入先の会社は、デジタルスキャナーを用い、顧客の足のサイズや形を決め、それにあったシューズを3Dプリンタで打ち出していた。
その時にはもう地質学者は岩石をスキャンして、デジタルデータを取得していた。
そこで、そこまでやっているのだったら3Dプリンタで打ち出してみたらいいじゃないか!と思いついたのが始まりだ。
実際に打ち出してみた!
そこで研究チームはCTスキャンでデジタルイメージ化された炭酸塩の岩石サンプルを実際の3Dプリンタで打ち出し、ミクロのレベルでの再現率を検証した。
その際二つの3Dプリンタを用いており、一つは一般的に販売されているものの中でもハイエンドモデルのもので、数十万円で購入できるものであり、もう一つは商業的に用いられるモデルで数百万円以上するものである。
どちらのモデルも紫外線で硬化する樹脂を用いているが、商業モデルの方はより高い解像度で打ち出すことができ、そしてワックスを用いた技術により、小さな空隙の再現も可能だった。
岩石の違い
岩石をミクロのサイズで再現し、3Dプリンタで打ち出すというのは、どれくらい価値のあることなのだろうか?
実はそこには地質学者が直面する基本的な問題点が存在する。
彼らが扱う岩石の性質というのは本来比較ができないものなのである。
例えば、山に行き、同じ場所で二つ並んだ岩石サンプルを採取したとしよう。
岩石の性質としては、ものすごくよく似ている性質を示したとしても、顕微鏡でその構造を比較すると全く異なっていることが多い。
もし3Dプリンティング技術でこの岩石サンプルを再現できたら、解析の幅が広がり、岩石の構造についてより詳細な知識が得られるかもしれない。
現在のところ、ガラスや金属、セラミックを用いて、岩石サンプルを打ち出せるようになっているが、さらに様々な材質のもので打ち出せるよう検討を進め、将来的にはより本物の岩石に近いものを打ち出せるようにする予定だ。
3Dプリンタの利点は、データさえあればそのものを何度も正確に手に入れられる点です。今回の研究ではデータの取得にCTスキャンを利用しており、なかなか宇宙では使えないかもしれませんが、正確なデータを取得できれば、地球上で再現することに大きな障害は無いようです。これから火星移住を始め、宇宙に人間が出て行くことを考えるとどこに住むかという問題が生じてきます。その際に惑星地質学というのはより重要な研究になっていくことでしょう。