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【社説】

原発避難計画 「絵に描いた餅」ならば

 「絵に描いた餅」。原発事故の広域防災訓練の参加者が、漏らした言葉。でも皆さん、そもそも疑問に思いませんか。こんな訓練が必要な原発と、私たちは、ともに暮らしていけるでしょうか。

 原発から半径三十キロ圏内の広域避難計画の策定は、3・11の教訓を踏まえ、原子力規制委員会から自治体に義務付けられた。

 避難の実効性には、かねて疑問があった。全国に先駆けて再稼働した九州電力川内原発では、三十キロ圏内の住民全員が避難を終えるまで、最長で四十三時間かかると警鐘を鳴らしていた。

 先月再稼働したばかりの四国電力伊方原発では、陸路で避難する場合、事故を起こした原発の直前を通る以外に、文字通り道がない人たちが大勢いる。

 先月末、関西電力高浜原発の事故を想定し、福井、京都、滋賀三府県の広域防災訓練が展開された。福井から兵庫まで最大百三十キロの避難行。浮かび上がった懸念材料は数え上げたらきりがない。

 本番さながらとは言いながら、原発に近い高齢者施設でも、手順を確認しただけだ。訓練への参加も困難な認知症のお年寄りたちを、事故の混乱の中でどうやって、無事に、遠方まで避難させることができるのか。

 訓練の結果から、修正可能なことはもちろんある。

 しかしたとえば、主要な避難路が津波で水没したり、地震で崩落したらどうなるか。3・11や熊本地震で実際起きた複合災害対策は、そう簡単にはなし得ない。

 事実、船による“避難”は「悪天候」で中止になった。

 そもそも原発は、人口密集地から隔てられ、交通の便が良くないところに建てられてきた。避難を考慮に入れた立地には、なっていないということだ。

 国策と言いながら、国は避難計画の策定を“支援”するだけだ。規制委は、計画を作れと言いながら、なぜか、その内容や効果を審査する立場にはないと言う。

 住民の安全を物差しにして、避難計画の実効性をきちんと審査したならば、恐らくどの原発も、おいそれとは動かせまい。

 天災は避けられない。だから備えを怠れない。だが、原発事故は避けられる。

 訓練を重ねて身に染みるのは、原発のリスクの大きさだ。そして「原発に頼らない社会」づくりを進めていけば、「絵に描いた餅」と言われる机上の避難計画も、確実にいらなくなるということだ。

 

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