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【産経抄】天才の称号に安住することなく 9月5日

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【産経抄】
天才の称号に安住することなく 9月5日

 古今東西の「天才」のなかでも、まず名前が思い浮かぶのは、モーツァルトである。時代を超えて愛される名曲の数々は、頭の中から湧き出るように生まれたという。努力を必要としなかった証拠に、作曲に使った楽譜には、書き間違いがほとんど見られない。

 ▼もっとも音楽プロデューサーの中野雄(たけし)さんによると、これらの伝説は間違っている。「モーツァルトは、群百の音楽家に比して、百倍も千倍も努力をした人であった。ただ、彼はその“努力”を『つらい』とか、『もういやだ』と思わなかっただけの話である」(『モーツァルト 天才の秘密』文春新書)。

 ▼将棋の加藤一二三(ひふみ)九段(76)は、熱烈なモーツァルトのファンとして知られる。名人をはじめ数々のタイトルを獲得し、今も最年長の現役棋士として活躍する加藤九段は、「神武以来の天才」との異名を持つ。

 ▼ただの天才ではない。「この国が始まって以来」と持ち上げられても、ご本人は「うれしくない」そうだ。「将棋は芸術」が持論である。モーツァルトの曲のように、人に感動を与える名局を残せればいいというのだ。

 ▼その加藤九段が持っていた最年少の記録を62年ぶりに更新し、藤井聡太(そうた)三段が14歳2カ月で、プロ入りを決めた。あふれる才能に加えて、将棋が強くなるための努力を、「つらい」とか「もういやだ」と感じることのなかった少年なのだろう。

 ▼同じく中学生でプロになった先輩は、加藤九段だけではない。谷川浩司九段(54)、羽生善治三冠(45)、渡辺明竜王(32)と、いずれも歴史に名を残す名棋士たちである。藤井三段も、「早熟の天才棋士」の称号に安住するつもりはないはずだ。これから名局を積み重ねて、さらなる高みをめざしてほしい。

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