日本とサウジ 「石油」超え多様な協力を
若き実力者の訪問で、日本とサウジアラビアの関係は一歩進んだように見える。訪日したサウジのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は安倍晋三首相と会談し、両者は石油依存からの脱却を目指すサウジの改革案「ビジョン2030」の実践に協力することで合意した。
天皇陛下も副皇太子と会見された。陛下は東日本大震災におけるサウジの支援に感謝し、副皇太子は「困っている時にそばに寄り添うのが真の友人です」と応じたという。会見が実現したのは、日本側が副皇太子の訪問を重く見た証拠だろう。
サルマン国王の息子である副皇太子は王位継承順位こそムハンマド・ビン・ナエフ皇太子に次いで2番目だが、国防相と国家経済評議会議長を兼務し、経済・軍事両面で強い権限を持つ。高齢の国王は30代の若き副皇太子に、政務の多くを実質的に委ねたとの見方も強い。
2030年を目標年とする「ビジョン」も副皇太子主導で作られた。非石油分野の政府歳入を今の約6倍に増やすことを柱に、幅広い分野での成長戦略を定めている。日本はサウジと閣僚級の会議を設け10月に首都リヤドで初会合を開く方針だ。
07年にサウジを訪問した安倍首相はアブドラ国王(故人)と共同声明を発表し「石油中心だった関係を教育も含めた重層的関係まで高めたい」と語っていた。「ビジョン」を通じて文化や医療を含む多様な分野で協力が深まり、両国関係が重層的になるのは歓迎すべきことだ。
副皇太子は世界最大の産油国サウジの現状を「石油依存症」と呼ぶなど新しい発想の持ち主だ。だが、原油安や米国のシェールオイルがサウジ経済を直撃し、「金持ち」の代名詞ともされた国が将来に不安を抱かざるを得ないのも確かだろう。
副皇太子は訪日に先立って中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。サウジは米国との伝統的な友好関係に陰りが見える半面、中露との接触に前向きだ。ビジネス分野で今後も中露との競合が予想されるが、ここは日本がサウジで築いた信頼と技術力を生かす好機と考えたい。
難しいのはイランとの関係だ。イスラム教の聖地を擁するサウジはスンニ派、イランはシーア派の国だ。両国は断交し、イエメンはサウジとイランの代理戦争の様相だ。シリア情勢でもサウジとイランは対立しており、その陰にはムハンマド副皇太子の強気の姿勢もうかがえる。
だが、産油国同士が争い、宗派対立が広がるのは、中東の石油資源に依存する日本には最悪のシナリオだ。イランともサウジとも良好な関係を持つ日本は、関係国と協調して中東の緊張緩和にも努めたい。