2番目の危機は国家安全保衛部(秘密警察)中心となった権力構造の変化だ。金正日総書記は朝鮮労働党組織指導部を中心に権力を掌握し、下部組織を管理していた。ところがこの組織指導部は張成沢氏の処刑に反対したため、今はその権威が揺らいでいる。影響で彼らは党組織秘書大会を自ら開催し、権力の核心である組織秘書たちが自己批判を行うという、これまでは考えられなかった事態も起こっている。
張成沢氏の処刑を執行した国家安全保衛部が組織指導部の幹部らを処刑する越権行為が相次いだ影響で、最近は保衛部で部長を務めるキム・ウォンホン氏が力を持つようになり、「キム・ウォンホンの時代になった」とまで言われているそうだ。また2014年にも組織指導部の副部長を含む労働党幹部11人が処刑された。このように保衛部を中心に不正腐敗の連鎖が形成され、敵対勢力を陥れ壊滅させる権力闘争が日常化する傾向まで見られるようになったのだ。
三つめの危機は経済状況の悪化だ。今やこの問題は北朝鮮体制の生存が危ぶまれるほどの段階に至っている。ちなみに金日成主席の時代は内閣中心の経済体制だったが、金正日総書記の時代になると朝鮮労働党39号室の経済政策と軍需経済が北朝鮮経済の中心になるという、まさに奇形とも言える経済構造へとすでに変わってしまっていた。宮廷経済とも呼ばれる39号室は、金氏王朝のぜいたくな暮らしや権力維持のための裏金を確保する組織で、いわば北朝鮮政権の私有化を支えている。それには最低でも20億ドル(約2100億円)は必要とされており、これだけあれば市場を拡大せずとも側近を管理し、金氏王朝はぜいたくな暮らしを続けながら生きていくことができた。
ところが金正恩氏による相次ぐ核実験とミサイル発射により、最近は中国まで国連制裁に加わってしまった影響で、39号室の収益を支えてきた金や亜鉛、石炭などの輸出が中断し、宮廷経済が事実上のまひ状態になってしまっている。これに無駄な箱物建設まで重なった影響で、各国に駐在するエリート外交官たちは本国からの資金上納の圧力に耐えられなくなり、最終的に脱北を選択するに至っているのだ。
これら金正恩体制下での総体的危機を克服する打開策は、今のところどこにも見当たらないのが現状だ。