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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

導入部分のようなもの

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依頼を受けてきたらしい

 「依頼を受けてきた!」

 なんだか妙に嬉しそうなシオンが、開口一番にそんな台詞を口にしたのは、二日に及ぶ岩山群での習熟訓練から蓮弥が街に戻ってみたら、何も言わずに二日も街を空けた蓮弥に対する、シオンとローナの批難の集中砲火を食らった次の日の昼下がりであった。
 どうやら、弁当を一つだけ持って出て行ったと言うのに、夜になっても戻る気配のない蓮弥の身に何かあったのではないか、と心配していたらしい。
 持って行った食料を少しずつ消費しながら、仮眠を挟みつつ、ぶっ続けで二日間外で身体を慣らすと言うのは、蓮弥にとってはなんでもないことだったのだが、 言われてみれば確かに、一食分の食料だけ持って行ったのであれば、その日の内に一度戻ってくると思われても仕方のない所はある。
 だがしかし、最初から二日くらいかかるよ、と言ってあったのだから、批難される謂れは無いと思いたかったのだが、シオンから切々と自分達が如何に蓮弥を心配していたのかを説かれれば、下手な反論はかえって火に油を注ぐことにもなりかねないだろうとひたすら平謝りに徹することにした。
 心配をかけたのは事実なのだし、誰かに自分の身を案じてもらうという事が、なんだか新鮮に思えたので、頭を下げ続けるという行為は、さして苦にならなかった。
 それはともかくとして。
 ちょうど蓮弥は、やっぱり美味しくはない昼飯を食べ終え、少しずつでも何か周囲の環境を改善していくべく、宿の主人から煮沸したお湯をもらい、それを口の広い、蓋のできる陶器ビンに注ぎ込み、しっかりと冷めるのを待つ間に、近くの露店で見つけて購入してきたリンゴに良く似た果実を、適当な大きさに刻んでいる最中であった。
 皮がついたまま、一口大に切られたそれを、熱が抜けてしっかりと冷めてしまったお湯の中へ投入し、蓋を閉める。
 知識で知っているだけの作業であったが、問題がなければ数日このままにしておけば蓮弥が必要としているものの元ができあがるのだ。
 傍らでローナが興味深げに蓮弥が何をしているのかを見守っているが、蓮弥は彼女に何をしているのかの説明はしていない。
 説明をしても、理解させるのは難しいと思ったからだ。

 「えーと、レンヤ?」

 宿の主人にはあらかじめ、宿の厨房の邪魔にならない所に置かせてもらうようにお願いしてある。
 数日そのままにしておいて欲しいと伝える蓮弥に、宿の主人は腐るだけなんじゃないかと言ったが、蓮弥は曖昧に笑うしかなかった。
 この世界の住人に、腐敗と発酵の違いを説明するのはきっと難しいし、実の所は、腐敗も発酵も同じ現象を指しており、人に有益なものを発酵、そうでないものを腐敗と呼んでいるだけなので、蓮弥自身も何が違うといわれれば困ってしまう。

 「おい、レンヤ……」

 「聞こえてるよ。依頼を受けてきたのだろ?」

 いつまでも相手をしてくれない蓮弥に気を悪くしたのか、低く抑えた口調のシオンに、蓮弥はようやく言葉を返した。
 別に返事がないからといって、聞いていないわけではないのだから、用件があるのであれば、しゃべり続ければいいのに、と思ってしまう。

 「どんな依頼を受けてきたんだ?」

 「南門を抜けて馬車で一日くらいの所に、新しいダンジョンが発見されたらしいんだ」

 距離として、大体80kmほど離れた場所だ。
 近いのか遠いのか、なんとも言えない蓮弥であったが、そんな所にあったダンジョンが何故、今の今まで発見されなかったのかと疑問に思う。
 その問いをシオンにぶつけてみると。
 ダンジョンと言うものには二つの種類があり、一つは廃鉱跡や建築物として建造され、廃棄された後で取り壊されることも無く、何らかの理由で魔物が住み着いたもの。
 もう一つは生物型ダンジョンと言われており、どこかで発生したダンジョンコアと呼ばれる物体が周囲の環境を作り変え、魔物を造り、宝を溜め込み、それを目当てにやってきた冒険者達を屠って魔力を吸収し、さらに成長すると言うものだそうだ。
 ダンジョンコアの生成や、このコアがどうやって魔物を生み出しているのか等と言う点については、謎の部分が多く、研究もそれほど進んでいないらしい。

 「今回見つかったのはこっちの生物型の方で、討伐依頼なんだ」

 「新しいとは言え、ダンジョンをパーティ一つで攻略?」

 「いや、いくつかのパーティでレイドを組む」

 レイドと言うのは、いくつかのパーティで作る集団のことだ。
 一つのパーティでは達成できないであろう依頼をギルドが出す時に良く組まされるものだとシオンが言う。
 まるでゲームだと蓮弥は思うが、現実は楽観視できるようなものではないらしい。
 生物型のダンジョンは、放っておいても周囲から魔力を吸い上げ、勝手に成長していくもので、規模が大きくなればなるほど強力な魔物を数多く生み出すようになる。
 そしていずれは生み出した魔物の氾濫が発生し、周囲の地域に甚大な被害をもたらすので、新しい生物型のダンジョンが発見された場合は、人数を集めて早急に攻略しダンジョンコアを破壊することになっている。

 「参加パーティ数は?」

 「私達を混ぜて4だ。人数は全部で19人」

 蓮弥達のパーティが3人なので残り16人。
 一つのパーティ当たり5人前後という計算になるが、通常のパーティは4人から6人で組むものなので、人数としては平均的と言える。
 ただ、それが戦力的にどうなのか、と考えれば例となるものがなく、判断がつかない点だったので、蓮弥は意見を求めるようにローナを見るが、ローナは首を左右に振った。

 「新規ダンジョンは情報が少ないので、攻略人数が妥当かどうかはよくわからないのが普通なのです」

 「聞く限り、あんまり良い仕事だと思えないんだが?」

 「発生して日が浅いなら、それほどの規模にはなっていないでしょうから、難易度としては低いのが普通ですし、手付かずなので素材や宝物なんかも、ある程度は期待できますので、稼ぎは良いお仕事なんですけどねぇ」

 「レンヤ、どうして私じゃなくてローナに意見を求める……?」

 酷く不満げなシオンに、まさかローナの方が間違いなく経験も知識も豊富そうだからと馬鹿正直に答えるわけにもいかず、蓮弥は考える。
 どういう経緯でパーティを組むに至ったのかは分からないが、ローナはシオンの前ではどこかぽやっとした僧侶見習いである姿勢を崩そうとはしない。
 理由は分からないが、ローナがその姿勢を維持し続けようとする限り、蓮弥が下手な事を言って、暴露してしまうわけにはいかない。
 うーっと低く唸りながら、まっすぐに睨みつけてくるシオンへ、蓮弥はどうにかこうにか理由をひねり出して口にした。

 「知識経験に関しては、シオンもローナもどっこいどっこいだろう? だったら神様に仕えているローナの意見の方が、もしかしたら恩恵があるかもしれないじゃないか」

 幼女から聞いている管理者の性格から考えれば、いちいち自分に仕えているとは言っても僧侶一人一人に恩恵をくれるほどマメな働きはしてないだろうと蓮弥は思っていたので望み薄ではあったのだが、無理にひねり出した理由としては、そこそこ妥当ではないかと蓮弥は自讃する。

 「む……、なんとなく、そう言われればそんな気もする」

 「リーダーはシオンなんだろ? 最終決定は任せるし、それには間違いなく従うから心配するな」

 「「え?」」

 蓮弥がきっぱりと言い切ると、なんだかハモった声で疑問符を返された。
 なにかそんなに意外な事でも言っただろうかと二人を見れば、二人ともそろって頭の上に疑問符を乗せたような顔で蓮弥を見ている。

 「なんか妙なことを言っただろうか?」

 「私はレンヤがリーダーをするものだとばかり……」

 「ええっと。私もそんな風に思ってました」

 「なんでそうなる?」

 とても嫌そうな顔をして、蓮弥が息を吐く。
 なんとなくではあったが、そんな事を言われるような予感もあったので、返事も事前に用意してあった。
 リーダー等と言う自分以外の人間に対する責任が生じるような役割を、喜んで引き受けるような趣味は蓮弥にはなかった。

 「少なくとも、この世界に対して知識の少ない迷い人をリーダーに立てたら駄目な事くらいわかるだろうに?」

 至極当たり前のことを言ったつもりの蓮弥であったが、どうにも二人の理解は得られなかったらしい。

 「やはり男性がリーダーと言うのが、対外的に問題が少ないと思うんですけどねぇ」

 「同感だ。それにレンヤならば私より的確な判断をしてくれるだろう」

 その信用の根拠はどこから来るんだ、とか、だったらなんでシオンが依頼を受けてきたんだ、とか言いたいことはあったが、受けてくれるよね、断ったりしないよね、と言う気配をひしひしと伝えてくる二人の視線の前では、それも霧散してしまう。
 肩を落として息を吐き、しぶしぶと言った感じで蓮弥は頷いた。

 「分かった。……シオン、依頼を受ける時は一言相談してくれ。俺がリーダーをやるならば、だが」

 「む、それもそうだな。勇み足だった、すまない」

 素直に頭を下げるシオンに、いいからと手を振る蓮弥。

 「それで、報酬と拘束期間は?」

 「1パーティにつき金貨6枚必要経費込み。拘束は移動で2日、ダンジョン探索で2日の計4日。討伐依頼なので、内部の魔物をできるだけ討伐。ダンジョンコアを破壊できれば追加報酬で金貨10枚だそうだ。」

 「移動は馬車? それとも徒歩?」

 「馬車だ。ギルドが用意してくれる。出発は明日の朝だが、その前に一度参加パーティ同士の顔あわせがあるんだ。本日の夕方に、ギルド近くの「銀杯亭」と言う酒場」

 どうだ!と言わんばかりのシオンだが、蓮弥は内心頭を抱えていた。
 顔合わせの時間まで間が無いのもさることながら、出発までの時間が非常に少なすぎる。
 顔合わせに取られる時間を考えたら、準備に費やす時間がほとんどない。
 依頼自体はそこそこ前からギルドに掲示されていたのだろう。
 それを期限ぎりぎりにシオンが見つけて、駆け込みで依頼を受けてしまったと言う事らしいが、考えが甘すぎる。
 傍らを見れば、ローナも同じ意見のようで、渋い顔をしていた。

 「シオン……ちょっと次からは依頼を受けてしまう前に色々と考えような?」

 「え? え?」

 二人が何故渋い顔をしているのか、シオンは理解できないらしい。
 それでもどうやら自分が何かしら不味いことをしてしまったと言うことは理解できるらしく、二人の顔を交互に見ながら、とても慌てた表情になる。
 一度しっかりと怒るか、とも思ったが、シオンの顔を見て止めておく。
 こちらの世界の人間がどうなのかは、蓮弥は知らないが、大体は怒られるよりも褒められた方が、後々色々と伸びるものだ。
 失敗を悟ったのであれば、責めるよりもフォローに回った方がいい。
 決して、慌てるシオンに毒気を抜かれてしまったせいではないぞと自分に言い聞かせつつ、ローナを見れば、分かっていますよとばかりにぽんぽんと肩を叩かれた。

 「受けてしまったものは仕方ないが……ローナ、取り急ぎ買い物に行ってくれるか?」

 「ええ、仕方ないですねぇ。4日分の食料と水に、ロープと松明、傷薬と包帯くらいでしょうかねぇ?」

 「寝具は? 君らの分はあっても、俺は持ってないんだが……」

 「購入してきます。その他、何か気がついたら購入してきますね」

 「頼んだ。経費は後で人数割りにしよう。立て替えておいてくれるか」

 蓮弥に一礼し、足早にローナは宿屋を出て行く。
 それを見送ってから、シオンの方を見れば、ようやく事の次第に気がついたシオンが申し訳無さそうに身を縮こませていた。

 「準備……しなくちゃいけなかったな……」

 「次、気をつければいい。それにしても、初めて依頼を受けたわけじゃあるまいし、その点に気がつかなかったのか?」

 責めるような口調にならないように、注意深く蓮弥が尋ねると、シオンは顔を羞恥に赤らめながら答えた。

 「いつも気がつくとローナがやってくれていたから……」

 最初に二人に出会った時に、シオンの方が保護者的立場なんじゃないかと思った蓮弥は自分の目の節穴具合に深々と溜息をついた。

 「そうか……感謝しとけ。それはそれとして、俺達はその顔合わせとやらに参加しよう。全員いなくちゃいけないってこともないんだろ?」

 「たぶん……」

 自信なさげなシオン。
 これはもう何かあったら自分が謝る以外ないな、と蓮弥は覚悟を決めた。

 「とりあえずその銀杯亭とやらへ行こう。何か言われても話せばなんとかなるだろ」

 すんなりと顔合わせだけで終わってくれればいいが、と蓮弥は胸中思っていたが、なんとなくではあったが、思うようには終わらないだろうなという予感めいたものも感じていた。
 そして、その手の悪い予感と言うのは、大概外れることがないのがお約束と言うものだと言う事も重々承知している蓮弥なのだった。
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