安倍首相が、ロシア極東のウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」にあわせ、プーチン大統領と会談した。

 12月15日にプーチン氏が首相の地元・山口県を訪れることで合意。北方領土問題を含む平和条約締結交渉について、5月に合意した「新たなアプローチ」に基づいて交渉を加速することを確認した。

 首相は、交渉打開に強い意欲を示している。互いに行き来する首脳外交の原則に反して5回連続でロシアを訪問。今回の首脳会談にあたってロシア経済分野協力担当相を新設した。特定の国との経済協力に関して担当閣僚を置くのは異例だ。

 今年は1956年の日ソ共同宣言から60年の節目である。

 日本の政治指導者として、戦後70年を超えて解決できていない戦後処理に突破口を見いだそうとする姿勢は理解できる。

 日ロ関係を長期的に安定させるためにも、首脳同士がたびたび会い、信頼関係を築くことが効果を持ちうるのは首相の言う通りだろう。

 問題は、それが「法の支配」という普遍の価値観を共有する米欧との協調と両立できるか、ということである。

 ロシアによるクリミア併合やウクライナ危機に対し、領土をめぐる「力による現状変更」は決して許されない、とG7諸国は制裁を強めている。そんななか、ロシアの期待が高い極東開発など8項目の経済協力を掲げ、経済分野協力担当相を置く日本の対応は突出している。

 懸念されるのは、こうした日本の姿勢が国際社会にどう映るかだ。

 北方領土問題でのロシアの歩み寄りに期待して、必要以上にロシアに妥協的――。そう見えるとすれば、日本にとって望ましいことではない。

 北方領土問題は重要だが、その打開をめざすことと同時に、なすべきことがある。

 ロシアとのあらゆる対話を通じて、国際法の順守と国際秩序への復帰を促し続けること。そして、この普遍的な理念をともにする国際社会と協調する姿勢を鮮明に示すことだ。

 そうした努力を重ねることこそ、北方領土に関する日本の主張に説得力をもたらすはずだ。

 東方経済フォーラムには韓国の朴槿恵(パククネ)大統領も出席し、日ロ韓の3首脳が顔をあわせた。

 中国の海洋進出や、核・ミサイルによる挑発を重ねる北朝鮮に対応し、北東アジアの平和と安定をはかるためにも、「法の支配」の原則をゆるがせにしてはならない。